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新たな出発
底なしダイブ
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ひゅんひゅん耳元で通りすぎていく風切り音とともに恐怖が襲いかかってくる。
「ぎゃああああああ!」
自分の声すら耳に残らないほどの速度で落下しているのがわかる。
「や、やまと……無事か?」
顎を引くと体を塗り固めた石に乗っている様子が見えた。
いつも通りの様子で乗る姿に安堵しつつも、落ち続けること10分は経とうとしている。
「もうダメなのはわかったけど、いつまで落ち続けるんだ……」
さらに落下し続けて30分。
「ん? 体が動く?」
漫然と上を眺めていると、ふと腕が動くことに気づいた。
それまで首から下を覆っていた石が剥がれ落ちて、ふよふよと隣を漂っている。
いや、一緒に落下している。
「あんなにガチガチだったのに風圧で剥がれたのか? まぁ、どうでも良いことか」
腹が据わり、死ぬことがわかっていても、せめてヤマトと一緒に最後を迎えたくなってきた。
「ヤマト。服の中おいで」
服の裾から潜り込み、首元から顔を出すヤマトが可愛い。
「さて、いつになったら着くのか……ぬわぁ!?」
突き上げるように背中から圧がかかると、体を押し上げるような感覚になる。
その勢いのまま、くるりと反転させられてしまった。
「ううううゔゔゔゔゔゔう」
強烈な風圧でしゃべることすらままならず、叫びすら言えない。
横を飛んでいた石たちも風に押されて、お互いにぶつかったり壁に激突したりで徐々に小さくなっていく。
その様を見せつけられて、壁に触れることすら無理だとわかってしまった。
あとできることは目一杯風を体に受けて、姿勢を制御することだけ。
そのまま右へ左へと体を傾けながら、なんとか壁を避けていることさらに10分。
目線の先にキラリと光る何かがある。
ようやく終わりだとヤマトに顔を向け、強く目を瞑った。
強い衝撃が来るぞ来るぞと待ち構えていたが、いざとなって襲ってきたのは弾力性のある何か。
全面に張り付くような何かに押し戻され、今度は背面に同じような感触。
何度かバウンドさせられたことはわかったが、怖くて目を開けることができない。
ようやく弾みがなくなったところで、恐る恐る目を開いてみる。
「なにこれ……」
プカプカと浮かぶ泡のようなものに俺たちは入ってしまった。
立ち上がっても、どんだけ強く突いても割れない球体。
「助かったのか?」
死ななかったことで、今まで感じていなかった恐怖がドッと押し寄せてくる。
急に下半身への力が入らなくなり、尻餅をつくように倒れてしまった。
「こ、腰が抜けた」
……
…………
それからどのくらい漂っているのかわからない。
すでに時間感覚は麻痺していて、わかっているのは水分補給している回数だけ。
「食料値はもう底をついたか。ヤマトの魔力補給もこれで最後だな」
なけなしの魔力をヤマトに注いで、今度は餓死が訪れるのを待つのみ。
俺たちが球体に入ってから、重さのおかげでゆっくりと落下しているものの、とうとう頭上からの薄明かりすらなくなってしまっている。
見えているログでも『暗視』は少しずつ上がり続けているが、セットしても光がチラリとすらなければ効果が無いらしい。
それとは別に『聴力』は効果があるようで、何かがぶつかった音や壁で蠢く音を拾ってくる。
その生物たちが襲ってくる様子はなく、ただこちらを見つめているだろうという感覚だけ。
目を瞑って横になり、ヤマトを撫でて終わりを迎えよう。
ぼんやりとした光が視界に広がり始めてきた。
とうとう終わりらしい。
「ヤマト。ありがとな」
「何をしてるのじゃ」
「とうとうヤマトも話すようになったのか。いや、俺の願望かもな」
「何を言っておる。何をしてるのかと聞いておるのじゃ」
「何って、死んだからヤマトにこれまでの感謝を言ってるのさ」
「ふむ。わしは死者と話しておったのか? だが、死んではおらぬように見えるが」
「そんなわけは……」
体力ゲージは……残ってる。
ヤマトもいる。
「生きてる」
「だろうの。とりあえず回復してやろう。ハイヒール!」
この声は……聞き覚えがある。
かなり前に一度だけ会った人物。
「まさか!?」
「私と関わりがある者と感じておったがお主か」
この神々しい光にこの力は……。
「あなたは女神様でしたか!」
「違うわ!」
「ありがたやーありがたやー」
「やめい! フーギン! フーギンはおらぬか!?」
女神様に助けてもらったとなれば最高の祈りを捧げなければいけない。
現実でも成功させたから、ここでなら余裕なはずだ。
「秘技:飛頭足地へそ天橋!」
「ひぃぃいいいいい! フーギン! 助けてくれぇ!」
「ぐぼぉ」
最後に見たのは女神様のおみ足だった。
「ぎゃああああああ!」
自分の声すら耳に残らないほどの速度で落下しているのがわかる。
「や、やまと……無事か?」
顎を引くと体を塗り固めた石に乗っている様子が見えた。
いつも通りの様子で乗る姿に安堵しつつも、落ち続けること10分は経とうとしている。
「もうダメなのはわかったけど、いつまで落ち続けるんだ……」
さらに落下し続けて30分。
「ん? 体が動く?」
漫然と上を眺めていると、ふと腕が動くことに気づいた。
それまで首から下を覆っていた石が剥がれ落ちて、ふよふよと隣を漂っている。
いや、一緒に落下している。
「あんなにガチガチだったのに風圧で剥がれたのか? まぁ、どうでも良いことか」
腹が据わり、死ぬことがわかっていても、せめてヤマトと一緒に最後を迎えたくなってきた。
「ヤマト。服の中おいで」
服の裾から潜り込み、首元から顔を出すヤマトが可愛い。
「さて、いつになったら着くのか……ぬわぁ!?」
突き上げるように背中から圧がかかると、体を押し上げるような感覚になる。
その勢いのまま、くるりと反転させられてしまった。
「ううううゔゔゔゔゔゔう」
強烈な風圧でしゃべることすらままならず、叫びすら言えない。
横を飛んでいた石たちも風に押されて、お互いにぶつかったり壁に激突したりで徐々に小さくなっていく。
その様を見せつけられて、壁に触れることすら無理だとわかってしまった。
あとできることは目一杯風を体に受けて、姿勢を制御することだけ。
そのまま右へ左へと体を傾けながら、なんとか壁を避けていることさらに10分。
目線の先にキラリと光る何かがある。
ようやく終わりだとヤマトに顔を向け、強く目を瞑った。
強い衝撃が来るぞ来るぞと待ち構えていたが、いざとなって襲ってきたのは弾力性のある何か。
全面に張り付くような何かに押し戻され、今度は背面に同じような感触。
何度かバウンドさせられたことはわかったが、怖くて目を開けることができない。
ようやく弾みがなくなったところで、恐る恐る目を開いてみる。
「なにこれ……」
プカプカと浮かぶ泡のようなものに俺たちは入ってしまった。
立ち上がっても、どんだけ強く突いても割れない球体。
「助かったのか?」
死ななかったことで、今まで感じていなかった恐怖がドッと押し寄せてくる。
急に下半身への力が入らなくなり、尻餅をつくように倒れてしまった。
「こ、腰が抜けた」
……
…………
それからどのくらい漂っているのかわからない。
すでに時間感覚は麻痺していて、わかっているのは水分補給している回数だけ。
「食料値はもう底をついたか。ヤマトの魔力補給もこれで最後だな」
なけなしの魔力をヤマトに注いで、今度は餓死が訪れるのを待つのみ。
俺たちが球体に入ってから、重さのおかげでゆっくりと落下しているものの、とうとう頭上からの薄明かりすらなくなってしまっている。
見えているログでも『暗視』は少しずつ上がり続けているが、セットしても光がチラリとすらなければ効果が無いらしい。
それとは別に『聴力』は効果があるようで、何かがぶつかった音や壁で蠢く音を拾ってくる。
その生物たちが襲ってくる様子はなく、ただこちらを見つめているだろうという感覚だけ。
目を瞑って横になり、ヤマトを撫でて終わりを迎えよう。
ぼんやりとした光が視界に広がり始めてきた。
とうとう終わりらしい。
「ヤマト。ありがとな」
「何をしてるのじゃ」
「とうとうヤマトも話すようになったのか。いや、俺の願望かもな」
「何を言っておる。何をしてるのかと聞いておるのじゃ」
「何って、死んだからヤマトにこれまでの感謝を言ってるのさ」
「ふむ。わしは死者と話しておったのか? だが、死んではおらぬように見えるが」
「そんなわけは……」
体力ゲージは……残ってる。
ヤマトもいる。
「生きてる」
「だろうの。とりあえず回復してやろう。ハイヒール!」
この声は……聞き覚えがある。
かなり前に一度だけ会った人物。
「まさか!?」
「私と関わりがある者と感じておったがお主か」
この神々しい光にこの力は……。
「あなたは女神様でしたか!」
「違うわ!」
「ありがたやーありがたやー」
「やめい! フーギン! フーギンはおらぬか!?」
女神様に助けてもらったとなれば最高の祈りを捧げなければいけない。
現実でも成功させたから、ここでなら余裕なはずだ。
「秘技:飛頭足地へそ天橋!」
「ひぃぃいいいいい! フーギン! 助けてくれぇ!」
「ぐぼぉ」
最後に見たのは女神様のおみ足だった。
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