上 下
108 / 111
新たな出発

お手柄ヤマト

しおりを挟む
「くっそ! もう一回!」

 ゴォオオオオオ。

「もう一度」

 ゴォオオオオオオオオオ。

「誰か操作してるんだろ! 出てこい!」

 出てこい! 出てこい……出てこい。
 洞窟内で反響する木霊がうるさい。

「次やってダメなら何か考えるか……」

 ヒュンヒュンとボーラを回し、渾身の一投を飛ばす。

「おい! 風! 聞いてるなら止まってくれるのかい!?」

 ゴォオオオオオオ。
 止まってくれない!
 回収して、泣く泣く解体。
 次に使うのは何にするべきか……。

「残ってるのはヤマトと釣具かぁ」

 ヤマト!?
 ヤマトがいるってことは、もしかしてネテラの中か!?
 なぜ今まで気づかなかったんだ。
 それなら『マスメモ』の心配はな……いや、MRの感覚ないぞ。
 VRならワンチャン『マスメモ』理論は成立してしまう。

「とにかくネテラだったら、デスペナありでもリスポンで……ヤマト」

 さすがにヤマトは無くしたくない。
 起動して久しぶりの戯れをしていると、さらに手放したくない気持ちが強くなる。

「ダメだ。何とか抜け出す方法を探そう」

 ……
 …………

 まずい。
 結局戻ってきてしまった。
 他の通路はすぐに行き止まりだし、風上はヤマトすら通れなさそうな空気口だけだった。

 目の前にある断崖は、俺たちを嘲る様に時折轟音を吐き出している。

「対岸に渡る方法持ってないか? ヤマト」

 くりっくりの目に、頭上から微かに降りてくる光が反射している。

「……もう! かわいいなぁ!」

 無性にじゃれつきたくなって小一時間遊んでいると、腹が鳴る。

「やっべ。食料値が減ってる……確かさっき漁った時にアレがあったはず」

 『リリーの手作りクッキー』
 口の中に広がる強烈な甘味と、猛烈に持っていかれる水分値に驚かされる。
 ただし、食料値だけでなく体力も充填されていくのが面白い。

「ヤマト。魔力渡すからお水ちょうだい」

 ヤマトの頭に手を乗せ魔力を流し込むと、小さく作られた水球から水を吸い込む。

「ジュルルル。生き返るー! 水筒にも満たしておこう。よし」

 満タンの水分値を見て安心したところでヤマトの方を向くと、小さかった水球がどんどんと膨れ上がって、バランスボールを超えそうなサイズになっている。

「も、もう消して良いぞ! お、おい。こっちに向けるな! あ、カバンもダメだ!」

 従順だったヤマトが言うことを聞いてくれない!?
 まずい。
 カバンが濡れたら色々ダメになる。
 拾い上げたカバンを背負って、ヤマトの狙いから逃げる様に後ずさる。

「おわぁ!?」

 気づけば崖の際まで追い詰められてしまった。

「は、話せばわかる。やめろ! やめるんだ!」

 先ほどより更に巨大化した水球は、今や俺と同じくらいのサイズになっている。
 しかも、プルプルと震え出したヤマトの様子が怖い。
 唐突に背後で吹き荒れた風がカバンに直撃した。

「ぬぉぉおおおお!」

 全力で踏ん張っていたところに『ボスン!』という重い音が鳴っていた。

「どぅわぁぁぁあああああ」

 先ほどまで全回復した体力がキュルキュルと目減りし、半分ほどで止まったのが見えた。
 そこで安心できることはなく、回転しながら見える天井と底の見えない穴が怖い。

「お、落ち! 落ち……てな。ぐはぁっ」

 強烈な風で持ち上げられた体は、底なしの穴を飛び越えて薄暗い地面に着地させてくれた。
 いや、打ち付けられたのほうが正しいかもしれない。

「ガッハ。いててて」

 半分だった体力は更に減って、残り3割程度。
 少しずつ回復しているが、今度は食料値が半分を割り切ってしまう。

「ま、まずい! も、もう一個食わないと」

 最後のクッキーと溜めた水筒を空にして一旦回復させて、ようやく周りを見る余裕ができてきた。
 さっきまで必死に狙っていた紐はすぐ側に引っかかっている。

「痛い目にあったけど、なんとか先に進めたか……ヤマトは、と」

 対岸の際でウロチョロと駆け回る姿が見える。

「ったく、自分だけ残っちゃうとかしょうがないな」

 垂れ下がる紐を引っ掴んで向こう側に向かって投げ込んでみたものの、若干短いようで岸に触れることなく風に捲られながら戻ってきてしまう。

「マジかよ。ずっと無駄なことしてたのか……一気に萎えたわ」

 自分の気持ちよりも先にヤマトをなんとか連れてこないといけない。

「ボーラもダメだったし、釣りでも試してみるか」

 パパっと釣り竿に道具をセッティングしていく。
 減臭マスクと同じ糸で作った頑丈な釣り糸に、タコ釣り用のテンヤを結びつける。
 訓練のおかげで、釣り糸程度なら糸術の効果が乗るようになった。
 セイヤー! と掛け声に乗せて投射。
 予想通り吹き荒れる風だが、糸術の乗った釣り糸はうねりながらもヤマトの近くへと落ちていった。

「ヤマト! 次の風が来る前に乗り込め!」

 テンヤに抱きつくヤマトを確認した。
 あとは一本釣りだ!

「しっかり捕まってろよ。どりゃぁぁぁあああ!」

 ぷゅーん!
 珍妙な音を鳴らし一瞬気が抜けそうになったが、なんとかリールを巻き込む。
 肝心のヤマトは穴を越えると、テンヤから飛び体操選手も真っ青な空中7回転を決めて着地。

「10点!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

freely fantastic online

nanaさん
SF
「この世界はただの仮想では無い第2の現実だ」 かつて誰もが願っただろう ゲームの世界が現実であればいいのにと 強大な魔王を倒し英雄となる自分の姿 仲間と協力して強大な生物を倒し達成感に包まれる自分の姿 ゲームの中の 現実とは全く違う自分の姿 誰もがゲームのキャラと自分を頭の中で置き換えたはずだ そんな中 ある会社が名を挙げた 『ゲームでは無く第2の現実となる世界を創る』 そんなスローガンを掲げ突然現れた会社 その名も【Fate】 【Fate】が創り出した 第2の現実となる世界となる舞台 【Freely Fantastic online】 通称FFO ごく普通のサラリーマンである赤鷺翔吾は後輩である新宮渚から勧められこのゲームを始めることとなる... *作者の自己満で書いてます 好きなことを好きに書きます それと面倒くさがりなので基本 誤字脱字の報告をしてくださっても直さないか後から纏めてやるパターンが多いです その点が大丈夫な方は是非読み進めてください

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

三男のVRMMO記

七草
ファンタジー
自由な世界が謳い文句のVRMMOがあった。 その名も、【Seek Freedom Online】 これは、武道家の三男でありながら武道および戦闘のセンスが欠けらも無い主人公が、テイムモンスターやプレイヤー、果てにはNPCにまで守られながら、なんとなく自由にゲームを楽しむ物語である。 ※主人公は俺TUEEEEではありませんが、生産面で見ると比較的チートです。 ※腐向けにはしませんが、主人公は基本愛されです。なお、作者がなんでもいける人間なので、それっぽい表現は混ざるかもしれません。 ※基本はほのぼの系でのんびり系ですが、時々シリアス混じります。 ※VRMMOの知識はほかの作品様やネットよりの物です。いつかやってみたい。 ※お察しの通りご都合主義で進みます。 ※世界チャット→SFO掲示板に名前を変えました。 この前コメントを下された方、返信内容と違うことしてすみません<(_ _)> 変えた理由は「スレ」のほかの言い方が見つからなかったからです。 内容に変更はないので、そのまま読んで頂いて大丈夫です。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

普通にやってたらイベントNPCに勘違いされてるんだけど

Alice(旧名 蒼韻)
SF
これは世の中に フルダイブゲーム 別名 VRMMOが出回ってる時 新しく出たVRMMO Yuggdracil online というVRMMOに手を出した4人のお話 そしてそこで普通にプレイしてた4人が何故かNPCに勘違いされ 運営も想定してなかった独自のイベントを作り出したり色々やらかし 更に運営もそれに協力したりする物語

処理中です...