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飛び出せ!
飛頭足地へそ天橋
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爽やかな香りが寝覚めまで爽快にしてくれる。
こんなにスッキリと起きたのは何年振りかと思えるほどで、体を起こす前から気持ちが良い。
そんなゴキゲンタイムにやることは一つ。
「えびす様に感謝! えびす様に祈りを! ふんぬぉぉおおおおお!」
本日の祈りは一際ブリッジのキレが良い。
長年やっていなかったが、今日ならばアレができるに違いない。
父さんがジッちゃから教えてもらって、結局成功しなかったアレが!
仰け反りながら着いていた手を押して、その勢いで一度直立へ戻る。
祈りの完成形を脳内でイメージしながら深呼吸で息を整えていると、それらがピタリと合わさった時が訪れる。
「秘技:飛頭足地へそ天橋!」
両掌を合わせ胸の前に構え、そのまま勢いよく飛び上がる。
タイミング悪く扉をノックする音が入ってきた。
残念ながら、もうこの動きを止めることはできない。
誰か知らぬが、しばし扉の前で祈りの終わりを待つが良い。
ジャンプの到達点に辿り着く前に顎を上げ、背中の筋肉を目一杯収縮。
重力に逆らわず、引っ張られるがままに落ちて良い。
ただし、この時大事なことがある。
足底と頭頂が同じ高さであることだ。
今の俺ならわかる!
頭が1cm高い!
もっと背中を収縮させろ!
エビになれ!
いや、エビを超えろ!
その時、首筋に感じていた摩擦が方向を変えていく。
後首にあった小さな重みが反転し、今度は顎と耳後ろで引っかかるような重みとなった。
だが、本日の冴えた脳であれば対処は簡単。
3フレームもあれば合掌した手を解き、頭部の小粒を軽く払って合掌に戻れば良い。
いざ払おうと強く締めた大胸筋の力を抜きかけたところ、ギリギリと金属の軋む音が鳴り始める。
勝手に入るなと口に出そうとするも、明晰な頭脳が今息を吐き出すと一生に一度の祈りを台無しにすると語りかけてくる。
”やめろ! 今じゃ無い!”
”だけど、今開けられてしまったら”
”恥ずかしいこと何一つ無い! 俺は、俺たちは神様に祈りを捧げているんだ”
”はっ!? そうだ。恥ずかしいことじゃない”
『「よし」』
口と心の声が重なった時、再び引き締めた全身で最適の形で完成へと辿り着く。
あと1cm。
あと数mm。
横目で扉の隙間から見えた船員の顔を完璧の状態で出迎えてやったと微笑んだ。
そこで、一つの事実に気づく。
自分の体に1つの命令を差し込み忘れてしまった。
まずい。
今から手を動かしても最短15フレーム。
そして、ギリギリ払えたとしても形は崩れ、祈りの失敗が確定してしまう。
ならばやることは一つ!
頭頂部を固めろ!
カッと目を見開き、覚悟を決めた俺はまさに吽形《うんぎょう》様のごとき様相だろう。
そうに違いない!
足底が地面へ着く直前。
ただ一瞬。
3フレームに満たないわずかだけ、我が身の丈の最頂点が物体に触れる。
その瞬間、視界に一筋の光が煌めき、合掌した両手を震わせながら全身の筋肉を硬直させる。
「海老名! お前をスパイ容疑で……え? あ」
やってやった。
一生に一度の大業を成し遂げた俺に不満などない。
ただ頭頂部に猛烈な痛みと、何かが侵食してくるような感覚がちょっと気持ち悪いだけだ。
「お、お前は一体……」
「カァァァァアアアアアアアアツ!」
「ひぇぇええ」
痛みで幻聴が聞こえてきてしまったようだが、一喝入れてしまえばただちに黙る。
「えびす様は偉大なり! エビッシャーの祈りをお受け取りください! キェェエエエエエエ!」
「ぎゃぁぁあああああ」
ゆっくりと目を閉じたが固まりきった筋肉は動かない。
ただ、ちょっとばかし疲れたから二度寝でもしよう。
こんなにスッキリと起きたのは何年振りかと思えるほどで、体を起こす前から気持ちが良い。
そんなゴキゲンタイムにやることは一つ。
「えびす様に感謝! えびす様に祈りを! ふんぬぉぉおおおおお!」
本日の祈りは一際ブリッジのキレが良い。
長年やっていなかったが、今日ならばアレができるに違いない。
父さんがジッちゃから教えてもらって、結局成功しなかったアレが!
仰け反りながら着いていた手を押して、その勢いで一度直立へ戻る。
祈りの完成形を脳内でイメージしながら深呼吸で息を整えていると、それらがピタリと合わさった時が訪れる。
「秘技:飛頭足地へそ天橋!」
両掌を合わせ胸の前に構え、そのまま勢いよく飛び上がる。
タイミング悪く扉をノックする音が入ってきた。
残念ながら、もうこの動きを止めることはできない。
誰か知らぬが、しばし扉の前で祈りの終わりを待つが良い。
ジャンプの到達点に辿り着く前に顎を上げ、背中の筋肉を目一杯収縮。
重力に逆らわず、引っ張られるがままに落ちて良い。
ただし、この時大事なことがある。
足底と頭頂が同じ高さであることだ。
今の俺ならわかる!
頭が1cm高い!
もっと背中を収縮させろ!
エビになれ!
いや、エビを超えろ!
その時、首筋に感じていた摩擦が方向を変えていく。
後首にあった小さな重みが反転し、今度は顎と耳後ろで引っかかるような重みとなった。
だが、本日の冴えた脳であれば対処は簡単。
3フレームもあれば合掌した手を解き、頭部の小粒を軽く払って合掌に戻れば良い。
いざ払おうと強く締めた大胸筋の力を抜きかけたところ、ギリギリと金属の軋む音が鳴り始める。
勝手に入るなと口に出そうとするも、明晰な頭脳が今息を吐き出すと一生に一度の祈りを台無しにすると語りかけてくる。
”やめろ! 今じゃ無い!”
”だけど、今開けられてしまったら”
”恥ずかしいこと何一つ無い! 俺は、俺たちは神様に祈りを捧げているんだ”
”はっ!? そうだ。恥ずかしいことじゃない”
『「よし」』
口と心の声が重なった時、再び引き締めた全身で最適の形で完成へと辿り着く。
あと1cm。
あと数mm。
横目で扉の隙間から見えた船員の顔を完璧の状態で出迎えてやったと微笑んだ。
そこで、一つの事実に気づく。
自分の体に1つの命令を差し込み忘れてしまった。
まずい。
今から手を動かしても最短15フレーム。
そして、ギリギリ払えたとしても形は崩れ、祈りの失敗が確定してしまう。
ならばやることは一つ!
頭頂部を固めろ!
カッと目を見開き、覚悟を決めた俺はまさに吽形《うんぎょう》様のごとき様相だろう。
そうに違いない!
足底が地面へ着く直前。
ただ一瞬。
3フレームに満たないわずかだけ、我が身の丈の最頂点が物体に触れる。
その瞬間、視界に一筋の光が煌めき、合掌した両手を震わせながら全身の筋肉を硬直させる。
「海老名! お前をスパイ容疑で……え? あ」
やってやった。
一生に一度の大業を成し遂げた俺に不満などない。
ただ頭頂部に猛烈な痛みと、何かが侵食してくるような感覚がちょっと気持ち悪いだけだ。
「お、お前は一体……」
「カァァァァアアアアアアアアツ!」
「ひぇぇええ」
痛みで幻聴が聞こえてきてしまったようだが、一喝入れてしまえばただちに黙る。
「えびす様は偉大なり! エビッシャーの祈りをお受け取りください! キェェエエエエエエ!」
「ぎゃぁぁあああああ」
ゆっくりと目を閉じたが固まりきった筋肉は動かない。
ただ、ちょっとばかし疲れたから二度寝でもしよう。
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