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飛び出せ!

オーク星団船

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 俺の声が大ホールに響き渡ってからしばらく沈黙が続く。

 ようやく声を出したのは、聞いたことある声の着ぐるみ星人だった。

「ぶっはははは。やっぱこいつ面白いな!」
「アーゴ! 彼は我らの星にいる魚を知らないのだ。そう笑ってやるな。みんなも、そんな難しい顔するな」
「大佐。早くこいつを案内してやろう。ウーゴも船内で待ってるさ」
「そうだな。ハッチ君。君を我らの船に招待しよう。そちらの魚も一緒にね」

 びっくりさせるつもりが拍子抜けしてしまった。
 生返事で「へぇ」と言ったが、自分だけ先に相手の船に乗るイベントが発生しても良いのだろうか。
 笹森さんを見ると、笑顔でうんうんと頷いていた。

「さっそく……と、その前に。背中を見せてくれるかな?」
「あ、どうぞ」

 くるりと反転すると、壁に俺の影が映し出された。

「おぉ。やっぱりアーゴが描いたのと同じ者だな」
「へ? なにを、うわっ。まぶ!」

 振り返ると強い光を当てられ、目に直撃すると視界が白む。

「失礼した。ちょっとした確認をしていただけだ。君がハッチ君本人だと判明したので、滞りなく船内へ案内しよう」

 まだ視界が朧げで、ほとんど先が見えない。
 誰かの手に掴まれて歩き出すと、一瞬空気が変わる瞬間があった。
 例えるなら、1週間換気をしなかった部屋から森に入ったような感じだろうか。

「ようこそオーク星団船へ」

 徐々に見え始めた世界は、謎の植物がそこかしこに茂る異空間だった。
 凝った作りに驚かされるが、壊したら怒られるだろうか。

「変わったの置いてるなぁ。どれどれ」
「触ったら!」
「ひょっ!?」

 時すでに遅く、近くの花に触れた瞬間、大量のシャワーを浴びせかけられてしまった。
 俺が不用意に触ってしまったせいだが、大佐のはからいで着替えを用意してもらうことになる。
 となれば着ぐるみしかあるまい。
 期待感を膨らませながら更衣室へ向かうと、先回りしていたウーゴが現れた。

 なぜわかるかと言えば、タスキにデカデカと『ウーゴ』と書かれていたからだ。
 いや、これは罠かもしれない。
 となれば取る手段は……

「あ、どうも初めまして。わたくしハッチと申します」
「ん? いや、初めましてじゃなくて俺だよ。ここにもウーゴって書いてあるだろ?」
「どこのウーゴさんでしょうか? わたくしの記憶にあるウーゴは緑色の肌をしておりましたが」
「あぁ、そういうことか。ちょっと待ってろ」

 そう言うと、着ぐるみを脱ぎ始めた。
 いや、脱いだというよりハッチアウトの方が合っているかもしれない。

「これでどうだ?」
「お、おま!?」

 なんちゅう職人魂だ。
 体にペイントまでして俺にオーク族だと思わせるとはな。

「参ったよ。俺の負けだ」
「は? 何言ってるんだ?」
「お前たちはオーク星人で俺は地球星人ということにしてやろう。どこまでも付き合ってやるぜ」
「また訳のわからんことを言い出して……。それよりコイツ着たかったんだろ? 予備の機体用意したから乗ってみろよ」
「おっほぉ」

 さすがはウーゴだ。
 俺の機体は特別仕様なようで、額にエビのマークが入っている。
 開いた背中から片足ずつ入れていく。

「これって完全に入り込んじゃって良いのか?」
「そうだよ。ちゃんと腕も入れて……そこは尿取り用の機材置き場だ」

 四苦八苦しながら中に入り込むと、背中にあった社会の窓が勝手に閉じる。
 視界は良好で、背が20cmほど高くなったような気分になれる。

「すごいな。慣れてないせいか動きは鈍いけど、パワーは段違いだ」

 植物性っぽいタンスも軽々と持ててしまう。
 ちょっと気になったことがある。

「やったら壊れる動きとかある?」
「特にないけど、殴ったりとか攻撃はやめてくれよ」
「やらないやらない」

 両手のひらを天に掲げ、勢いよく仰反る。
 そのままブリッジ状態。
 からの祈り。

「へ? は? はぁ? 何をしてるんだ?」
「今祈りを捧げてるから少し待って」

 恵比寿様。
 あなたに毎日祈りを捧げていたおかげで面白い体験を釣ることができました。
 ありがとうついでに最新の釣竿ください。
 これでよし。

「ふぅ。待たせたな」
「い……いったい今のは」
「俺の信奉する神様に祈りを捧げていたんだ」
「嘘だろ?」

 失敬だな。
 と懇切丁寧に説明したが、渋々飲み込んでくれた程度にしかならなかった。

「地球の宗教はかなり調べたが、ハッチの言う神様はそんな祈り方を……いや、もういいか。それよりも着替えたなら会場へ行こう」

 ウーゴは外国人なのかもしれない。
 数多の名を連ねる日本の神様を簡単に理解できると思われては困る。
 恵比寿様もいくつもの顔があるのだ。
 今度そのことをしっかりと教えてあげよう。
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