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新しい都市

同居人は猫とハーフドワーフ

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 猫の後ろから現れたのは、どこかで見たような女の子。

「確か、シルバーダンデさん」

 女の子がその名前に反応した。

「なんだ。母の知り合いか?」

「え!? 母?」

 子供じゃなかったのか!?
 でも、リリーさんはもっと背は高いし……。

「ハイドワーフの女性は、種族的に特に背の低い個体なのですか?」

「なんとなく聞きたいことはわかった。他種族からすると子供っぽく見えるかもしれないな。エルフ同様に成長も更にゆっくりだ」

 人間で言うところだと10歳くらいの見た目なんだけど、迫力があるというか得体の知れない圧があるな。

「自己紹介はここらで良いだろう。お前らはここの研究生となるということで良いな?」

 弟子じゃないのか?

「研究生って何ですか? 弟子とは違うんですか?」

「言葉の通りだ。ここで研究する生徒であって、弟子みたいにあれこれやれとは言わない」

「ということは、ハッチさんと私で自由に作って良いということですか?」

「そうだな」

 あまり違いがわからんな。
 今までも割と自由に作らせてもらってたしなぁ。

「自分たちで調べて、何か作りたい時は言いに来なさい。質問も受け付けている」

「わかりました。よろしくお願いします」「お願いします!」

《魔法陣入門クエスト:アルフヘイム魔法工房へ行け! が完了しました。》
 完了はしたけど、続きが無いな。

「パッド。宿舎に案内してやってくれ」

「はいなー」

 研究生用の宿舎は工房のさらに奥にある。
 猫に案内された場所は、パッと見たところ馬小屋みたい。

「僕のおすすめはこの桶なんだ。すっきり収まって居心地が良くてね。……たまに使わせてくれる?」

「え、えぇ。お好きに使ってください」

「よかったー! あ、そこの藁《わら》は自由に使って良いからね!」

 軽快なステップで工房へ戻っていく猫の後ろ姿を眺め終えると、ようやく一息つけた。

「さて、グスタフさんどうしますか?」

 声を掛けるとそこにはおらず、奥で自分のスペースを確保していた。

「ハッチさんも早く場所決めちゃいましょう。多分早い者勝ちですよ」

「早い者って、2人しかいないじゃないですか」

 やっぱり奥が良いかなぁ。
 グスタフさんの反対側にしてっと。

《他キャラクターがすでに使用しています。》

「え? じゃあ、その隣は」
《他キャラクターがすでに使用しています。》

「こっちもか! それならここ!」
《個人スペースを確保します。》

 誰か先にきてたのかな?

「ハッチさん。私は先に戻ってます」

「はーい」

 まぁ、なんとか確保できて良かったよ。
 とりあえず、引っ越し荷物だけ置いて戻ろうか。
 小屋から出た時、庭にキラキラと光の反射する道が見えて吸い込まれる。

 日差しを浴びつつ、サラサラと流れる音を聴いていると気持ちいいなぁ。
 手に揺れる感触はないけど、こうしているだけで落ち着く。

「ハッチさん! 何やってるんですか!」

「え? 何って」

 あれ? なんで釣竿もってるんだ?

「1時間くらい待ってたんですけど……」

「あぁ、スミマセン。気づいたらこうなってました。」

「はぁ、他にも良い釣り場あるでしょう。どうせ明日も散策するんですから、その時探しましょうよ」

 申し訳ねえ。
 せっかく釣竿作ったのに釣りができてなかったからなのか、体が無意識に動いてしまった。

 グスタフさんに引っ張られて工房に戻ると、猫のパッドに止められてしまった。

「ちょっと待った! その右手に持つのは、まさか釣竿かな?」

「そうですよ」

「ちょっと見せてもらっても?」

「どうぞどうぞ」

 渡してあげると、さまざまな角度から熱心に観察している。自分が作ったものをこんなに見られるとなぜか緊張するね。

「うんうん。返すよ」

「どうも」

「名前はハッチだったね」

《納品クエスト:ケットシー族のパッドに釣竿5本納品》

「報酬は素材か情報のどちらか。素材だと妖精サファイアで、情報なら釣りスポットでどうかにゃ?」

「釣りスポットでお願いします!」

「ハッチさん! 妖精サファイアのことだけでも聞きませんか!?」

「そうですね」

 妖精サファイアとは、こことは別の場所にある妖精郷という場所で取れるサファイア。妖精郷の独特なエネルギーを微量含んでおり、それなりに高価らしい。

 報酬選択:妖精サファイア or →釣りスポット

「よし。早めに頼むにゃ」

「妖精サファイアを見たかったです」

 いやいや、ここは釣りスポット一択でしょ。
 だけど、竿の素材どうしよう。
 竹の残りも無い。

「素材無かったの忘れてたなぁ」

「街ブラする時、ついでに素材売ってる店も探しましょう」

「ですね。周辺の素材情報も欲しいところです」

 工房に戻ったらハイドワーフの家主が待っていた。
 そういえば名前も聞いてないし、関係もいまいちわからないな。

「なんて呼べば良いんでしょうか? 先生か親方でしょうか?」

「私の紹介をしていなかったな! 私の名前はアカンダンテ。先生か教授とでも呼んでくれ」

「はい、おやか」

「親方ではない!」

 つい口癖で言ってしまった。先生か教授……、教授のほうが面白そうだしそっちにするか。

「教授、よろしくおねがいします」

「よし! 軽く中を案内してやろう。ついて来なさい」

「「はい」」
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