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新しい都市

僕らは知らず知らずの内に釣りをしていた。街道でな!

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 剥ぎ取りが終わって前方に向かうと、こちらも剥ぎ取りをしていた。

「お疲れさまー。そっちもボロボロだね」

 2人の鎧には、引っ掻かれた後や泥がこびりついている。

「見ての通り。初めての敵は対応が難しいね」

「テッケンさんは近接ですからね。私みたいに槍だと少しマシですよ」

「盾に慣れちゃって、もう手放せませんよ」

 盾かぁ。
 あったら肩も無事だったかな?
 いや、慣れるまで返って邪魔になりそうだな。

「ちょっと」

 モウカさんが眉間にシワを寄せている。

「剥ぎ取った後どうしてますの?」

「どうって、あそこで加工してましたよ?」

「そうではなくて、それ」

 指の先には内臓やらが落ちている。

「そのままですね」

「それを狙って、また狼が来ますわ」

「「「あぁ」」」

 今まで気にすることなくても問題なかったけど、言われると納得する。

「エサを撒いてたのか」

「終わったなら私が処理しますけど?」

「そうですね。やり方も教えてもらますか?」

「わかりましたわ」

 剥ぎ取った残骸に向かっていくと、火で燃やし始める。
 火かぁ。
 なかなかの火力だし、火打ち石で代用できるかな?

「グスタフさん。あの火力の道具とか持ってます?」

「アレくらいなら薪使って……」

 モウカさんの方から、ボンっと弾ける音がして振り向く。
 指先から火炎放射ばりの炎を吐き出して、残った血の痕まで焼いていく。

「無理ですね」

「ですね。他の方法を考えましょう」

 前方はモウカさんに任せて、俺たちは後方の残骸処理へ向かう。

「私の考えでは、魔法を使わなくても良いはずです」

「「ほうほう」」

「覚えずに街道を通る人もいるでしょうから……、それよりも処理しましょうか」

 最後まで聞いてないけど、言いたいことはなんとなくわかる。魔法覚えないと旅出来ないってのは考えにくいしね。

「埋めますか」

 そうなるよな。
 掘った穴に埋めてみるが、どうしても臭いは消えないな。
 掘り返して再び取り出す。

「どうしたものか」

 テッケンさんがおもむろに内臓を掴み出し、切り分け始める。

「細かくするんですか?」

「いや、胃は水筒に出来るかと思ってね」

 そっか、部位によっては使えるかもしれないな。

「色合いがまともな奴は街まで持っていってみましょうか」

 内容物は無いので、カバンにぶち込む。

「え? そのままですか?」

「包むもの無いですし」

「はぁ。これ使ってください」

 グスタフさんがバナナの葉っぱみたいのをくれた。
 それに包んで再び収納。
 穴には血の痕などを入れて埋めると、臭いがしない。

「ひとまず様子見ですね。出発したら手早く修理しちゃいましょう」

「「了解」」

 牛バスに戻ると、すでにモウカさんが中で休んでいた。

「お疲れ様ですわ」

「あ、どうも」

「「……」」

 さっきのお礼を言おうと思ったんだけど、何事もなかったように座っているので、うまく返せなかった。
 それは他の2人も同様で、牛バスが出発すると無言で修理を始める。
 だいたい修理が終わったかな。

「そうだ。モウカさんの手甲はまだ大丈夫ですか?」

「え? たぶん大丈夫かと思いますけど」

 ちょっと心配になったのか、手甲を取り出して調べ始めた。

「うーん。かすり傷はありますけど、おそらく大丈夫かと」

 無意識で手甲に近づいて眺めていると、影で暗くなっていることに気づく。
 全員で手甲を囲むように見下ろしているという奇妙な光景だな。

「変わった素材ですね」

「金属か? いや、艶感からすると甲虫系かな?」

 ほうほう。
 確かに金属とは違う質感だよね。

「えぇ。アルフヘイム近辺の虫ですわ」

「だとすると、修理するには素材が必要だな。応急処置用にこれを渡しておくよ」

 テッケンさんが小さなツボを取り出す。

「艶出し用の塗装剤なんだけど、師匠曰く虫系の修理でも多少耐久値が回復するみたい」

「それなら頂いておきますわ」

 それにしても変わった色合いだな。

「生産職をしていると、新素材って気になりますね」

「なんというか、見入っちゃいますね。ただ、これは似たものを見たような気がするんですよね」

「ハッチさんもですか? 私も武具工房で見たような……」

 なんだったか、赤っぽい……。
 ダメだな。
 グスタフさんはどうかな?

「うーん。親方が持ってたような」

 親方が?
 そうだったかな。

「あぁ! 親方が持ってた色付きの剣です」

「へぇ。そんなものがあったんですね」

 ドーイン親方も持ってたっけ?
 というか、親方からできる限りレシピ買っておけば良かった。
 所持金500Gか。
 無理だな!

「お金が……無い!」

「どういう経緯でその話になったの!?」

「話が飛ぶのはいつものことです」

 すまねぇ。
 だけど、金欠だと気づいたら思考が離れなくなってしまったんだ。

「色々考えながら調べてたら、所持金が目に入ってね」

「いくらですか?」

「500G」

「それはまた……」

 グスタフさんも苦笑い。
 そういう顔にもなるわな。

「2人は?」

「4000Gだな」

 テッケンさんはそこそこ。

「私は10000Gです」

 小金持ちのグスタフさん。
 そこでモウカさんが気になってチラ見。
 話に入りませんと離れているので、これはスルー案件だな。

「ハッチさんのためにも、素材集めはしておきましょうか」

「それを売るだけでも、そこそこ金になるかもな」

 確かにそうだ。
 モウカさんの話だとあと5日ある。
 その間に、色々溜め込んでアルフヘイムで放出しますか。
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