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新しい都市

見送りは大勢で、いざ出発

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 村の入り口で迎えの馬車を待っているのだが……。

「いつ来るんですか?」
「どんなのかな」
「私は牛みたいのに乗ってきたぞ」

 などと、雑談を楽しむ集団に囲まれている。

「ハッチさんのところも大所帯ですね」

 声を発したのはグスタフさん。
 彼も武器工房の弟子たちを引き連れてやってきた。

「グスタフさんの所もいっぱい来ちゃいましたか」

「私も不思議だったんですけど、他のドワーフ村からも、まだ行った人はいないらしいんですよ」

 そうだったのかぁ。
 確認されているだけでも、ドワーフ村5まであるらしいけど、俺たちが最初の旅立ちとはねぇ。
 一番最初って何かと名誉に扱われるけど、ある種の生贄《いけにえ》だと思うんだ。

「やぁ。なんかすごいね」

「テッケンさん! 興味津々で着いてきちゃったみたい」

 皮加工の弟子はテッケンさんオンリーだから、他に来る人もいない。つい先日まで弟子が一人もいなかったのは不思議だった。
 テッケンさんの話だと、弟子になるには皮の現物を自分で取ってくる必要があるみたい。未成年ばかりのドワーフでは取りに行けないし、ポックルたちは皮加工したい人は、そもそも元の村で弟子になっている。
 なのでテッケンさんが第一号なのだ。意外と貴重な人物だけど、村への貢献も少ない段階なので、残ってるプレイヤーの痛手もほとんど無い。

 お祭り状態で配信を開始する人もいる始末。

「というわけでテロップがお送りします」

 配信する人はテロップさんかぶち猫さんが多い。
 時々一緒に配信しているのを横で見ているけど、よく舌が回るよね。
 それなりに稼いでいるみたいだから、おそらくプロなんだろう。コメント返しと行動を同時にやってる姿をみたら、劣化版を見せるのかと思って、自己配信もやる気が起きないんだ。

「では、ハッチさん。よろしくお願いしますね」

「いやー、俺の配信なんて面白く無いと思うけどなぁ?」

 なぜか苦笑される。

「かなり人気ありますよ。僕より視聴者多いんだから、気にせず出してくださいって」

「えぇ? そんな見てたかなぁ? まぁ、新天地だから街ブラでも面白いか」

「そうですよ! 街ブラ良いですね。みんなもどう?」

 テロップさんの画面に「いいね」「期待してる」などのコメントが大量に流れていた。

「ということで、ハッチさんには街ブラ配信をお願いします」

「まぁ、期待しないでね」

 ちょうど良いタイミングで馬車がやってきた。
 毛長牛2頭で引く、大型の……これって牛車になるのか?

「紹介状ある奴は乗り込んでくれー」

 おそらく御者だろうか? 牛車というか、箱で隠れて見えない位置から声がかかる。
 まぁ、乗り込めと言われているし言われた通りにするか。

「じゃあねー。先に行ってくるねー」

 いち早くテッケンさんが乗り込み、俺とグスタフさんもそれに続く。
 外観はデカイ木箱だったのに、中身は広く10人乗れそうなサイズ感。明らかに外と大きさは違うけど、そういうものだろうと理解しておく。
 なんか小型のバスみたい。牛バスだな。

「居心地は悪く無いね」

「時々戦闘ありますわよ」

「へぇー。街道は出ないと思ったんだけどな」

「たまに弱いのが出る程度ですわ」

 ふむふむ。ん?
 ちらりと横を見ると、ポックルが1人いる。

「うおっ!」
「なぜここに!?」
「……」

 思わず飛びのいてしまった。俺以外の2人も、同じような感じで驚いている。

「私がいてもおかしくないでしょう? 雑貨・武具・皮の弟子がいるのだから、木工の弟子が来るのも当然です」

 おっしゃる通りでございます。

「今回のイベントは、一定数アルフヘイムへ行く弟子が決まった時に始まりますの。私が最初の受注者で残り表示は3でしたわ」

 え? そんなのあったっけ?

「私の時は2人集まったらとなっていた。私の前にいたということか!?」

 グスタフさんにもあったのか。
 テッケンさんは……首を振っている。
 思い当たるのとしたら。

「テッケンさんと一緒に祠で受けたからかな?」

「全然違いますわ」

 全否定はひどく無いか?

「受注の決定は師匠が行いますわ。だから私たちの行動は関係ないのです。それよりも引っ越し荷物置いて、御者に声かけないと進みませんわよ?」

 そういうのは早く言ってくれ!

 3人揃って御者へ声かけに行く。
 牛バスの先頭に着くと、初めて見る種族が御者だった。

「私が今回の御者をするエルサールだ。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「荷物は積めたかね?」

「「「はい」」」

「では、出発しよう」

 そう言われると、体が勝手に動いて牛バスに乗り込んだ。
 何らかのイベントだったのだろうか? 勝手に動くっていうのはあまり無いよな。

「まさかエルフだったとはね。初めて見たよ」

「テッケンさんもですか?」

「ポックル村でもいなかったなぁ」

「ほぉ。そういえばポックル村も行ってないのに、先に都市行くことになっちゃったな」

 俺ら3人が話している間、その内容に興味無いのか、ずっと窓から身を乗り出して前方を眺めるモウカさん。
 時折聞こえる「フォォォォ」という鳴き声は牛なのだろうか。そうだと思いたい。
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