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ボロ竿だろうが釣竿に変わりなし

ポンコツ竿

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 竹林から戻った翌日。

 ついにこの時がやってきた。
 収納カバンから竹を取り出して眺める。

 綺麗な緑の竹。
【竹】
 竹か……。
 何の竹だ?

「もう作ってるか?」

「オトシンさん! ちょうど作ろうかと思ったんですけど……見てください」

「竹か」

「そうです。竹なんです」

「どか問題あるか?」

「いや、だから【竹】なんですって!」

 このままだと無駄な話が長くなりそうなので、詳しく説明する。
 表記が【竹】しかなく、何の竹かわからない。作成するだけなら問題ないが、種類を特定したほうが、後々作成するときにレシピを残しやすいんだ。
 道具の柄を作る時も、どの木にするか選んでいる。まぁ、技術が低いから杉一択なんだけどね。

「俺も竹は詳しくないけど、孟宗竹《もうそうちく》とか麻竹《まちく》ってありますよね?」

 これは俺がメンマが好きで調べたので覚えている。

「聞いたことはあるな」

「その竹ごとに特徴があると思うので、それを知りたいわけです」

「面倒臭いこと考えるなぁ。そのまま作っちゃダメなのか?」

 別に作っても良いけど……。
 いや、一度作ってからアルデンさんに見てもらった方が良いか。

「そうですね。一度作りましょうか」

 俺の身長だと短いから、オトシンさんに合わせるか。
 オトシンさんの身長と同じ長さに切り落として、その部分を研磨する。
 形はそれっぽくなったけど、表記も【竹】のままだ。これからどうするか。

「ガイド(輪っか)を付けないのか?」

「それも悩みどころですね。オトシンさんは、ガイドが必要なほど長い糸を作れますか?」

「作れないな……」

「まずはそこなんですけど、糸があったとして、竹竿なら竿の中を通すやり方もあったと思うんです」

「中通し竿だな」

 針が作れるようになれば輪っかも出来るけど、今は作れる技術がない。
 中通しは、確か重くなるんだっけ。
 使ったことは無いんだよね。
 そこで気づいたのが、どうやって穴を開けるか。節部分に穴を開ける必要があるけど、そんなに長い穴あけ機は持ってない。

「どっちも、今は出来ませんね。とりあえず先端に糸を付けてみましょう」

 オトシンさんが作ったタコ糸を結びつけると、表記が変わった。
【ポンコツ竹竿--】

「これで何が釣れるんだ?」

「ハッチ。もう一本作って試しに行こう」

「そうですね。まだ竹はありますし」

 ポンコツ竹竿をもう一本作って、村の中心を流れる小川へ行く。
 そこには小魚がチョロチョロ動く影が見える。それを眺めつつ、2人で川辺を陣取り、骨針に餌をつける。

「アタシがバッタな」

「俺はパンですね」

 投げる程の距離も無く、ただ垂らしている表現のほうが合っているか。
 それでも、久しぶりの釣りが楽しい。
 水面を眺めつつ釣りをしていると会話が弾む。

「オトシンさんは、最近どこかに釣り行きました?」

「いんや。仕事と『ネテラ』ばっかりだな」

「俺も似たようなもんですね」

「そういえば、ウチの会社が『ネテラ』の許可降りたって言ってたぞ」

 まさか!
 思わず立ってしまった。

「オトシンさんの会社って、確か釣具の『TOUNO』でしたよね!」

「そうだな。ついでに『SHOUWA』も許可降りたらしいぞ」

「まさかそっちまで進出してくるとは……。釣竿作ってくれるんじゃ?」

「確かに作成部門は作られるけど、技術はアタシ達の方が相当先にいるぞ」

 企業進出でもゼロスタートなのかよ!
 やっぱり自分で作るしか無いのか。

「おそらくだけど、日本地区で最初の竿がこいつだ」

 くそぉ。
 これが最先端なのか!
 このポンコツが!
 ポンコツ……。

「オトシンさんの竿。揺れてませんか?」

「え? 本当だ! 結構引くぞ!」

「釣れるぞ! 慎重に慎重に!」

「わかって……あぁ!」

 ふっ。と糸がたるみ、かかった獲物が逃げたとわかってしまった。

「お前がうるせえからだ!」

「いやいや! 今のは関係ないでしょ!」

「そんなことは……。お前のも揺れてないか?」

「え?」

 穂先がピクピクと小刻みに揺れている。
 来た!

「おおおおおおちちついて」

「落ち着け! ゆーっくりだ」

「そうですね。ふぅ」

 ふっ。

「ああああああ」

「残念だったな!」

 次こそは釣ってやる。
 小川で騒ぐ者達2人。
 横を通りかかる者達が、目を逸らすようにしている気がする。
 それから3時間粘り続け、ようやく俺たちは成果を手に入れた!

「やりましたね。オトシンさん!」

「どんなもんよ! 今度はハッチだな」

 さらに2時間粘り、次の成果を上げることができた。

「やったじゃねーか!」

「ふふふ。これでお互いイーブンですね。っと、そろそろ戻りましょうか」

 空が暗くなり始めたので、すぐに戻らないとリリーさんのご飯に間に合わなくなる。
 雑貨屋に駆け込むように入ると、ぶち猫さんが納品したところに出会した。

「2人で木工やってたんですか?」

「いいや! 釣りに行ったんだ!」

 ポンコツ竿を見せながら自慢する。
 オトシンさんも自慢げに腕組み。

「おぉ! とうとう釣竿が! それで、何か釣れました?」

「もちろんさぁ! 見てくれ!」

 俺とオトシンさんの釣果を取り出す。

「えっと。それだけ?」

「ぶち! よく見ろよ! すごいだろ?」

「え? ただのザリガニが1匹ずつ?」

 俺たちの釣果がただの……だと?

「あぁ。ごめんなさい! 悪く言うつもりじゃなかったんです。魚ですら……あ」

「今。魚ですらって言ったよね? 言ったよね?」

「いいえ? 聞き間違えでは?」

 我ら2人の敗北か。
 そこでオトシンさんが立ち上がった。

「ぶち! 今回は魚が考える時間を与えてくれたんだ!」

 ぶち猫さんは首を傾げるばかり。
 オトシンさん。素直に負けを認めよう。
 そして、木工工房へ向かうのだ。
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