黎明の翼 -龍騎士達のアルカディア-

八束ノ大和

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第3章 連邦編

第45話 依頼

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探索者協会内は騒然としていた。
突如として街の周辺で10数体の魔獣が現れたらしい。
街の近くまで魔獣が近づいて来ることは珍しく、それが10数体も現れたということで何かの前兆なのかわからないということで警戒態勢が取られていた。

街の門は閉ざされ、複数名のある程度以上の実績と実力のある探索者が交代で街の周囲で見張りをすることになった。

「急に驚いたわね。魔獣がそんなに出ることなんてあるんだ。」
「確かに一度に大量に魔獣を見ることなんてあまりないな。」
「僕が王都にいた頃は何度か魔獣の襲来があったよ。大小合わせて百を超える魔獣がやってきて大変だった。」
「確かその時にラピスが壊れたんだったな。」
「うん、あまり良い思い出ではないけど、今はもう別の力があるしね。」
「そういえばこの辺りって龍脈はあるの?」
「この前の街にはあったけど、この辺りはなさそうだね。まぁそこまで離れてるわけじゃないから少しは使えるはずだよ。」
「いざという時に自由に使えない力というのはもどかしいものがあるな。」
「まぁ龍気は借り物の力だと思って、闘気をちゃんと鍛えておかないとね。」
「しっ。アルクス、何か近づいて来る。」

アリシアの指摘にハッとして周囲からの攻撃に対して構える。

一匹の魔獣が暗がりから急に飛びかかってきたが、バルトロ兄さんの盾に弾かれる。
「バルトロ兄さん、ありがとう。」
「まだ安心するには早いみたいだ。」

バルトロ兄さんがそう言うと、続々とブラッディウルフ達が現れた。

「この前見た双頭のやつもいるね。」
「こんなにブラッディウルフが現れるのっておかしいんじゃないかな。」
「やっぱりメテンプスの仕業なのかな。」
「とりあえずこの場をなんとしないと。」

今回は守る対象がいなかったので、バルトロ兄さんが受けて、アリシアが弱らせて、僕が止めを刺すという流れで一匹ずつ確実に殺していった。

あとは双頭の魔獣を倒すだけというところで急に息を吸い込んだかと思うと眩いばかりの炎を吐き出した。
「危ない!」

バルトロ兄さんが闘気を展開して事無きを得たが、炎の暑さからか少しぐったりしていた。
「兄さん、大丈夫?」
「あぁ、だがブラッディウルフが火を吹くなんて知らなかったな。」
「いや、あいつが特別なのかもしれない。早く倒してしまおう。」

その後、魔獣は火を吹くこともなくあっさりと倒されたのだった。

「なんだか空が明るくなり始めたよ。」
「もう朝か、ちょっと数が多かったな。」
「ねぇ、アルクスちょっと来て。」
アリシアが呼ぶので何事かと思って行くと双頭の魔獣を解体していた。

「これ、魔石じゃないよね?」
「ちょっと見せて。」
アリシアから渡されたものをよく見てみる。
黒ずんだ魔石と言うよりは真っ黒だ。
普通の魔石は何かしら色がついていたり、濁っていたりすることもあるけどこんなに真っ黒と言うことはない。

「魔石だと思うけど、真っ黒だね。何かの魔術でもかかってるのかな。」
目に闘気を集めてよく見てみたけれどもおかしなところは特になかった。

「よく分からないからしまっておくよ。あとでゆっくり確認しよう。
 さぁ、そろそろ交代の時間だ。」

複数のブラッディウルフが現れたことや北の方角から来ている様子だったことを協会で伝えて、宿で一眠りした。

昼を過ぎて遅い昼食を取ったあと、協会へ出向くと警戒態勢は引き続き維持されていた。
現状を聞いてみると、その後もブラッディウルフや他の魔獣が現れたらしい。
どうやら北にある不授の街の方角から来たのではないかと推測されていた。

「不授の街は大丈夫なのかな。」
「何かしらの対策をとっていなければ、魔獣達に蹂躙されているということも考えられるな。」
「そうだね、私達も闘気を身につけるまでは魔獣と戦おうなんて思わなかったし。」
「うーん、現地に行ってみないと分からないか。」

次の目的地である不授の街の心配をしていると協会の職員の方から話しかけられた。

『昨日はありがとうございました。お陰で少しずつ情報が集まってきました。
 現状のように警戒態勢を維持し続けるは難しいため、不授の街へ向かって調査を行うことができる方を探しております。しかし不授の街は外部から不授以外の方が入ることを避けていて、一部の商人の方しか入れないんですよね…
不授の探索者の方ってほとんどいないですし、調査を依頼するにも実力が心許なかったりで困っているんですよ。』
『あ、それなら大丈夫ですよ。僕達3人とも不授なので。』
『え、そうだったんですか?あれだけブラッディウルフを倒したのに不授だったなんて…
 不授の探索者の方々の認識を改めないといけないですね。
 もし不授の街へ向かうことが可能であれば、何が起きているのか調査をお願いできますでしょうか。』
『もちろんです、もとよりいずれ不授の街へ行ってみたいと思っていたので。』

依頼を快諾すると職員の方は少し待っているようにと言って、奥から何かを持ってきた。

『これはこの近辺の地図になります。この街がここにあって、不授の街はここになります。
 街を出て北上すると少し大きめの川がありますので、そこから川沿いに上流に向かって行けば辿り着けるはずです。馬車を手配しますので、3日もあれば着くでしょう。』
『わかりました、ありがとうございます。じゃあ準備を整えますので明日出立で大丈夫でしょうか?』
『はい、急な依頼で申し訳ないですがお願いします。』

協会を出て急ぎで食材や薬などを買い集めることにした。
「しばらくしたら行こうと思っていたら依頼で行くことになるとはね。」
「街が崩壊していたりする可能性もあるから食料は多めに持っていくといいんじゃないかな。」
「こういう時、アルクスの龍珠の中の空間って便利だね。」

そう言ってアリシアは購入したものをどんどん僕の龍珠に放り込んでいた。

「そういえばこの辺りに龍脈はないって言ってたが、その空間の維持は問題ないのか?」
「うーん、感覚的な話になるけど足りなくはないかなって感じかな。僕の空間はまだそんなに大きくないしね。龍王様みたいに巨大な空間を作ったら違うのかもしれないけど、溜めてある分もあるしかろうじて外から取り込むこともできているしね。」
「そうなると不授の街でも闘気頼みになるな。」
「なかなか都合良く龍気使い放題にならないものね。」
「この調査が終わったら、龍脈沿いの道に戻ってまた旅を再開しよう。」

ちょうど目的が達成できたら次へと向かう良いタイミングだろう。

翌朝
『では行ってきます。』
『気をつけてください。もし魔獣が溢れているとなったら色々と対応が必要なので無理せずに早めに戻ってきてください。』
『いえ、馬車に食料に、疲労や傷を癒す魔道具まで貸していただいて。』
『馬車を使う時には便利ですよ。それでは御武運をお祈りしております。』

街を出て北上し、無事川へと辿り着いた。
魔道具のお陰で馬もあまり疲れずに順調な道のりで、ここまでは魔獣も現れなかった。

1日目の夜、川沿いで食事をとっていると川から何かが這い上がって来た。
「魔獣か!?」
「でも何かおかしくない?」
「死体が蠢いているようにも見えるけど…」

戦闘態勢に入ったものの、こちらに攻撃して来る気配がないため観察していると、食べかけの僕達の夕食を平げて川へと戻っていった。

「俺の肉が…」
「あれは何だったの?」
「討伐依頼に 死んでいるように見えるけど、動く魔獣 というのがあったからそれの正体じゃないかな。まだ何か出てきてもあれだし、川からは少し離れたところに移動しよう。」

その後、謎の魔獣は現れることなく翌々日には不授の街が見えるところまでたどり着いた。

「お、見えてきたな。」
「うーん、特に煙が上がったりとかしていないし、無事みたいだね。」
「この辺りにも魔獣は出ないしあのブラッディウルフ達はどこから来たんだろう。」
「とりあえず早く中に入ってみよ?どんな街なのか気になるし。」
「不授の楽園と言われるくらいだし、確かに少しワクワクするな。」
「ちゃんと調査が終わったらね。依頼で来てるんだから。」

バルトロ兄さんとアリシアは「わかった」と言いつつも期待が溢れている感じが見てとれた。
さて不授の楽園とはどんなところなんだろうか。
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