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第2章 辺境編
第30話 擬戦
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「さて、これで結界の準備良しっと。こっちの準備はできたから準備ができたらいつでもいいよ。」
兄様が結界用の魔道具の準備が完了したらしい。
「兄様、僕達はいつでも大丈夫だよ。」
「俺達も大丈夫だ!」
そうして両チーム結界の中に入った。
「そういえばルールは決めていなかったね。お互い致命傷になるような攻撃はしないこと。結界の外に弾き出された人はそこで終了。あとは僕が止めるからそれまでは思う存分にやって欲しい。どちらかが降参しても終了かな。
では、両チーム位置について…
開始!」
兄様の合図と共にいきなりアリシアが後衛のヘレナとテレサに向けて短刀を投げつけた。
咄嗟の出来事に準備ができていなかった2人は硬直するも、クレディスとリディが間に入って弾いた。
「いきなりかよ、やるじゃないか!」
リディが前に出てきたが、バルトロ兄さんが盾で押しのけた。
「くっ…」
「リディ、そこにいたら魔術が使えないわ!」
バルトロ兄さんはリディの攻撃をいなしつつ、ヘレナとリディが直線上になるように立ち回ることでヘレナが魔術を使いにくいようにしていた。
「風よ、彼の者を吹き飛ばせ!」
クラウディアの魔術でアリシアに突風が吹き付けるも、軽やかに横に回避していた。
「クラウディアは風の射撃魔術を使うみたいだ。殺傷力の高い、風の刃には気をつけて!」
「わかった!それならこれでどう!」
アリシアはクラウディアに反撃したように見せつつも曲射の技術でテレサへと攻撃を仕掛けていた。
「大地よ、此処に壁と成れ!」
クレディスが魔術で土壁を生み出した。
しかし闘気を纏った矢はあっさりと土壁を貫通した。
「危ない!」
矢がテレサに当たる直前でクレディスが防いだ。
「なんて威力なの…」
クラウディアがアリシアの矢の威力に驚いているところに、足払いを仕掛けた。
「えっ…!?」
闘気を延長させていたため、見えないところからの一撃に転倒し、その隙に掴んで結界の外へと放り投げた。
「おっと、残念。クラウディアさんは場外だね。」
兄様が上手いこと受け止めてくれたおかげでクラウディアには怪我はなかった。
「これで3対4だね。少し余裕ができたかな。」
その頃、リディは自分の攻撃がバルトロ兄さんに届かないことに焦りを覚えていた。
「炎よ、我が剣に宿れ!」
火の付与魔術で剣に炎を乗せて斬りつけているものの、バルトロ兄さんの闘気の盾を破ることはできていなかった。
「リディ、どいて!水よ、10本の槍と化し、敵を穿て!」
ヘレナの合図でリディが飛び退くと、複数の水の槍がバルトロ兄さん目掛けて飛んで来たが、盾を突き破ることはできなかった。
「これなら、アリシアの矢の方が強力だな。」
バルトロ兄さんは魔術の攻撃が思ったよりも強くないことに気付いたらしい。
確かに手数は魔術の方が多いかもしれないが、闘気を込めた一撃よりは弱く感じられる。
「こうなったら!数多の水よ、集いて瀑布と化し、彼の者らを洗い流せ!」
ヘレナが魔術を発動した瞬間に危険を感じた。
「バルトロ兄さん、展開して!アリシアこっちに!」
「「わかった!」」
声をかけた瞬間空から大量の水流が襲いかかってきた。
「これは、重い…」
「危なかった…」
アリシアは咄嗟のことでバルトロ兄さんの盾の下に潜り込んだが、いまだに水流が止む様子がなく、少し疲労が見えてきた。
1分くらいしておさまった後、どうやらリディ達もクレディスが作り出した壁の中に隠れていたらしい。
ヘレナは魔力が枯渇したのか、倒れ込んでいた。
「これで3対3かな。このまま押し通そう!」
「いや、降参だ。そっちが無傷でこちらが2人もやられたんだからな。ヘレナは自爆だけど、奥の手を使って無傷とは驚いたよ。」
突然のリディの降参宣言に僕達は驚きを隠せなかった。
「じゃあこの戦いはアルクス達の勝ちだね!おめでとう、彼らは学園の中でもチームとしては歴代の中でも上位に来る実力だったのにそれを3人で倒してしまうなんてね。」
兄様が拍手をしながら、勝利を伝えにきた。
リディ達はそんなに強かったのか。
「いや、俺達も慢心していたのかもしれない。歴代最強クラスだなんて煽てられていたのも事実だしな。不授になったアルクスに成長した俺達の強さを見せつけてやろうと思ってたんだ。まさか負けを認めることになるとはな。」
リディは言葉は丁寧だが、すごい悔しそうな表情をしていた。
「バルトロさんのその守りすごいですね、僕はどうも魔術を使えるようになってから、魔術に頼りがちになっていたので、ちょっと初心に帰りたいと思います。」
クレディスはバルトロ兄さんの守りに魅せられていた。
「いや、俺も自分と離れた場所に防壁を作り出すという戦い方は勉強になった。仲間を守れるなら方法はなんでも良いからな。それに、あの水流を受け切って実はもう動けそうにないんだ。」
バルトロ兄さんは勝利が決まり、我慢していたのか座り込んでしまった。
「あ、ヘレナさん大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫よ。やっぱりアルクス君は強いんだね。たとえラピスがなかったとしてもそこは変わっていなかった。強さはラピスにあるわけじゃない、その人次第なんだなって実感した。」
「今回僕はクラウディアを場外にした以外はほとんど何もしていないけどね。」
「なんだろう、アルクス君は自分だけで強くなるって言うんじゃなくて、周りも一緒に強くしちゃう感じかな?」
ヘレナがそう言うとリディ達も同意していた。
「ラピスの力を使いこなし始めた時の慢心に気付けたのは素晴らしいね。君達はこれからもっと成長するよ。」
兄様が敗北したリディ達にも賛辞を送っていた。
「そしてアルクス、バルトロとアリシアもよくやったね。君達がこれだけ闘気を使いこなしているとは思わなかったよ。ネモ先生の指導の賜物かな?」
「はい、兄様。辺境で大体1年くらいみっちり修行をつけていただきました。」
「じゃあアルクス、僕とも手合わせをしてもらえるかな?」
「はい…え!?」
兄様の言葉に皆が驚いた。
騎士団の東方部隊のNo.1である兄様と戦うなんて…と思ったがそう言えば僕は兄様の実力がどれほどなのか実際には知らなかった。
兄様がすごいのは確かだし、みんながすごいと言うけれど手合わせをしたことなんて今までなかったな。
またとない機会だし、胸を借りよう。
兄様にも自分の成長を見せられるといいんだけど…
久しぶりにバルトロ兄さんがいない戦いと言うことで、守りも自分がやらないといけないのか…
最近バルトロ兄さんに頼りきっていたから、気をつけないと。
「じゃあ特に準備はいらないかな。トリクシー、いるかい?」
「ハッ、ここに。」
兄様がそういうと、側近のベアトリクスさんがどこからともなく兄様の背後に現れた。
「アルクスと手合わせをするから、もし危なそうだったら止めに入ってくれるかな?」
「かしこまりました。」
兄様と訓練場の中央で向かいあった。
「アルクス、本気を出してきて欲しい。どれだけ強くなったかわかれば、旅に出ている間僕らが不安に思うこともないからね。」
「はい、わかりました。では行きます!」
そうして、自ら斬りかかったが、簡単にいなされる。
上段斬り、薙ぎ、払い、突き、切り上げなど近距離での攻撃は全て防がれてしまった。
「こんなものじゃないよね?次はこちらから行くよ。光よ、我が腕に宿れ!」
兄様の詠唱が終わると、両腕が輝き出した。
「受け切れるかな?」
兄様の斬撃は、一撃一撃がバルトロ兄さんの攻撃のように重く、なおかつ速いため、受け止めて弾くのが精一杯だった。
「東方部隊でも、僕の攻撃を受け切れる人はほとんどいないのに、アルクスも成長したんだね。」
兄様は涼しい顔で徐々に剣速を加速してきた。
このままではまずいと思い、後ろへと飛びのいた。
「距離をとって様子をみようというのは普通なら正解だね。でも僕相手には悪手かな。
我が腕に宿りし光よ、我が道を切り開け!」
兄様が剣を振りかぶり、詠唱と共に振り下ろすと光輝く衝撃波が飛んできた。
「いけない!」
ベアトリクスさんが兄様の攻撃に反応して、止めようとするも時既に遅く。
咄嗟に盾を構えて闘気を集中すると、衝突した瞬間に弾き飛ばされたもののなんとか受け身をとり無事だった。
これはヴォルナーさんの技と似ているなと思ったが、意識を今の戦いに戻した。
兄様もベアトリクスさんも僕が今の攻撃を受け止められると思っていなかったらしく、驚いている様子だった。
この隙にと思い、足に闘気を集中して兄様の頭上まで跳躍すると、闘気を込めて振り下ろした。
「くっ…!」
全力の一撃は受け止められたものの、初めて兄様が焦る様子が見れた。
そのまま力を込め続けると、兄様の剣が2つに折れた。
その隙を見逃さずに次の一撃を入れようとしたらベアトリクスさんが割って入り、止められてしまった。
「剣も折れてしまったし、ここまでかな。強くなったね、アルクス。手合わせは君の勝ちだ。」
突然の勝利宣言に唖然としてしまった。
僕が兄様に勝っただって?
「隊長の剣は普段使用しているものではなく、騎士団の支給品でしたので耐久面が低かったからです。隊長は全力を出していなかったので、実力で勝ったと思わないように。」
ベアトリクスさんから厳しい指摘が入った。
「トリクシーは厳しいな。まぁ騎士団の大隊長くらいの強さはあるはずだ、誇っていいよ。
アルクスがこんなに強くなっていたとはね。
バルトロの守りは堅いし、アリシアは遠距離攻撃の精度・威力共に高いし安心だね。
アルクスは最後の一撃の威力をもう少し溜めずに瞬時に出せるようになると、決定力のある良いパーティになると思うよ。
でも僕のあの一撃を耐えられる防御力もあるし、そこは素晴らしかったよ!」
バルトロ兄さんとアリシアは兄様に褒められて、照れている様子だった。
「そうですね、私はあの時アルクス君は防ぎきれないと思って介入しようとしてしまいました。間に合いませんでしたけど…」
多分兄様は加減してくれていたんだろう。
たまたま勝ったとはいえ、まだまだ遠い存在であることが実感できたな。
リディ達は僕と兄様の戦いを見てそれぞれ感じるところがあった様子で黙り込んでいた。
久しぶりの同期との邂逅はこれにて終了となり、皆に出立の日取りを伝えて解散となった。
帰宅後、兄様とルーナとバルトロ兄さんとアリシアはそれぞれ満足そうな様子で夕食の時は何故か皆僕の話ばかりしていた。
珍しく家にいた父様もその話を聞いて、珍しく少し嬉しそうな表情をしていた。
こうして王都での用事も全て終え、一通りの旅支度も済んだのであった。
兄様が結界用の魔道具の準備が完了したらしい。
「兄様、僕達はいつでも大丈夫だよ。」
「俺達も大丈夫だ!」
そうして両チーム結界の中に入った。
「そういえばルールは決めていなかったね。お互い致命傷になるような攻撃はしないこと。結界の外に弾き出された人はそこで終了。あとは僕が止めるからそれまでは思う存分にやって欲しい。どちらかが降参しても終了かな。
では、両チーム位置について…
開始!」
兄様の合図と共にいきなりアリシアが後衛のヘレナとテレサに向けて短刀を投げつけた。
咄嗟の出来事に準備ができていなかった2人は硬直するも、クレディスとリディが間に入って弾いた。
「いきなりかよ、やるじゃないか!」
リディが前に出てきたが、バルトロ兄さんが盾で押しのけた。
「くっ…」
「リディ、そこにいたら魔術が使えないわ!」
バルトロ兄さんはリディの攻撃をいなしつつ、ヘレナとリディが直線上になるように立ち回ることでヘレナが魔術を使いにくいようにしていた。
「風よ、彼の者を吹き飛ばせ!」
クラウディアの魔術でアリシアに突風が吹き付けるも、軽やかに横に回避していた。
「クラウディアは風の射撃魔術を使うみたいだ。殺傷力の高い、風の刃には気をつけて!」
「わかった!それならこれでどう!」
アリシアはクラウディアに反撃したように見せつつも曲射の技術でテレサへと攻撃を仕掛けていた。
「大地よ、此処に壁と成れ!」
クレディスが魔術で土壁を生み出した。
しかし闘気を纏った矢はあっさりと土壁を貫通した。
「危ない!」
矢がテレサに当たる直前でクレディスが防いだ。
「なんて威力なの…」
クラウディアがアリシアの矢の威力に驚いているところに、足払いを仕掛けた。
「えっ…!?」
闘気を延長させていたため、見えないところからの一撃に転倒し、その隙に掴んで結界の外へと放り投げた。
「おっと、残念。クラウディアさんは場外だね。」
兄様が上手いこと受け止めてくれたおかげでクラウディアには怪我はなかった。
「これで3対4だね。少し余裕ができたかな。」
その頃、リディは自分の攻撃がバルトロ兄さんに届かないことに焦りを覚えていた。
「炎よ、我が剣に宿れ!」
火の付与魔術で剣に炎を乗せて斬りつけているものの、バルトロ兄さんの闘気の盾を破ることはできていなかった。
「リディ、どいて!水よ、10本の槍と化し、敵を穿て!」
ヘレナの合図でリディが飛び退くと、複数の水の槍がバルトロ兄さん目掛けて飛んで来たが、盾を突き破ることはできなかった。
「これなら、アリシアの矢の方が強力だな。」
バルトロ兄さんは魔術の攻撃が思ったよりも強くないことに気付いたらしい。
確かに手数は魔術の方が多いかもしれないが、闘気を込めた一撃よりは弱く感じられる。
「こうなったら!数多の水よ、集いて瀑布と化し、彼の者らを洗い流せ!」
ヘレナが魔術を発動した瞬間に危険を感じた。
「バルトロ兄さん、展開して!アリシアこっちに!」
「「わかった!」」
声をかけた瞬間空から大量の水流が襲いかかってきた。
「これは、重い…」
「危なかった…」
アリシアは咄嗟のことでバルトロ兄さんの盾の下に潜り込んだが、いまだに水流が止む様子がなく、少し疲労が見えてきた。
1分くらいしておさまった後、どうやらリディ達もクレディスが作り出した壁の中に隠れていたらしい。
ヘレナは魔力が枯渇したのか、倒れ込んでいた。
「これで3対3かな。このまま押し通そう!」
「いや、降参だ。そっちが無傷でこちらが2人もやられたんだからな。ヘレナは自爆だけど、奥の手を使って無傷とは驚いたよ。」
突然のリディの降参宣言に僕達は驚きを隠せなかった。
「じゃあこの戦いはアルクス達の勝ちだね!おめでとう、彼らは学園の中でもチームとしては歴代の中でも上位に来る実力だったのにそれを3人で倒してしまうなんてね。」
兄様が拍手をしながら、勝利を伝えにきた。
リディ達はそんなに強かったのか。
「いや、俺達も慢心していたのかもしれない。歴代最強クラスだなんて煽てられていたのも事実だしな。不授になったアルクスに成長した俺達の強さを見せつけてやろうと思ってたんだ。まさか負けを認めることになるとはな。」
リディは言葉は丁寧だが、すごい悔しそうな表情をしていた。
「バルトロさんのその守りすごいですね、僕はどうも魔術を使えるようになってから、魔術に頼りがちになっていたので、ちょっと初心に帰りたいと思います。」
クレディスはバルトロ兄さんの守りに魅せられていた。
「いや、俺も自分と離れた場所に防壁を作り出すという戦い方は勉強になった。仲間を守れるなら方法はなんでも良いからな。それに、あの水流を受け切って実はもう動けそうにないんだ。」
バルトロ兄さんは勝利が決まり、我慢していたのか座り込んでしまった。
「あ、ヘレナさん大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫よ。やっぱりアルクス君は強いんだね。たとえラピスがなかったとしてもそこは変わっていなかった。強さはラピスにあるわけじゃない、その人次第なんだなって実感した。」
「今回僕はクラウディアを場外にした以外はほとんど何もしていないけどね。」
「なんだろう、アルクス君は自分だけで強くなるって言うんじゃなくて、周りも一緒に強くしちゃう感じかな?」
ヘレナがそう言うとリディ達も同意していた。
「ラピスの力を使いこなし始めた時の慢心に気付けたのは素晴らしいね。君達はこれからもっと成長するよ。」
兄様が敗北したリディ達にも賛辞を送っていた。
「そしてアルクス、バルトロとアリシアもよくやったね。君達がこれだけ闘気を使いこなしているとは思わなかったよ。ネモ先生の指導の賜物かな?」
「はい、兄様。辺境で大体1年くらいみっちり修行をつけていただきました。」
「じゃあアルクス、僕とも手合わせをしてもらえるかな?」
「はい…え!?」
兄様の言葉に皆が驚いた。
騎士団の東方部隊のNo.1である兄様と戦うなんて…と思ったがそう言えば僕は兄様の実力がどれほどなのか実際には知らなかった。
兄様がすごいのは確かだし、みんながすごいと言うけれど手合わせをしたことなんて今までなかったな。
またとない機会だし、胸を借りよう。
兄様にも自分の成長を見せられるといいんだけど…
久しぶりにバルトロ兄さんがいない戦いと言うことで、守りも自分がやらないといけないのか…
最近バルトロ兄さんに頼りきっていたから、気をつけないと。
「じゃあ特に準備はいらないかな。トリクシー、いるかい?」
「ハッ、ここに。」
兄様がそういうと、側近のベアトリクスさんがどこからともなく兄様の背後に現れた。
「アルクスと手合わせをするから、もし危なそうだったら止めに入ってくれるかな?」
「かしこまりました。」
兄様と訓練場の中央で向かいあった。
「アルクス、本気を出してきて欲しい。どれだけ強くなったかわかれば、旅に出ている間僕らが不安に思うこともないからね。」
「はい、わかりました。では行きます!」
そうして、自ら斬りかかったが、簡単にいなされる。
上段斬り、薙ぎ、払い、突き、切り上げなど近距離での攻撃は全て防がれてしまった。
「こんなものじゃないよね?次はこちらから行くよ。光よ、我が腕に宿れ!」
兄様の詠唱が終わると、両腕が輝き出した。
「受け切れるかな?」
兄様の斬撃は、一撃一撃がバルトロ兄さんの攻撃のように重く、なおかつ速いため、受け止めて弾くのが精一杯だった。
「東方部隊でも、僕の攻撃を受け切れる人はほとんどいないのに、アルクスも成長したんだね。」
兄様は涼しい顔で徐々に剣速を加速してきた。
このままではまずいと思い、後ろへと飛びのいた。
「距離をとって様子をみようというのは普通なら正解だね。でも僕相手には悪手かな。
我が腕に宿りし光よ、我が道を切り開け!」
兄様が剣を振りかぶり、詠唱と共に振り下ろすと光輝く衝撃波が飛んできた。
「いけない!」
ベアトリクスさんが兄様の攻撃に反応して、止めようとするも時既に遅く。
咄嗟に盾を構えて闘気を集中すると、衝突した瞬間に弾き飛ばされたもののなんとか受け身をとり無事だった。
これはヴォルナーさんの技と似ているなと思ったが、意識を今の戦いに戻した。
兄様もベアトリクスさんも僕が今の攻撃を受け止められると思っていなかったらしく、驚いている様子だった。
この隙にと思い、足に闘気を集中して兄様の頭上まで跳躍すると、闘気を込めて振り下ろした。
「くっ…!」
全力の一撃は受け止められたものの、初めて兄様が焦る様子が見れた。
そのまま力を込め続けると、兄様の剣が2つに折れた。
その隙を見逃さずに次の一撃を入れようとしたらベアトリクスさんが割って入り、止められてしまった。
「剣も折れてしまったし、ここまでかな。強くなったね、アルクス。手合わせは君の勝ちだ。」
突然の勝利宣言に唖然としてしまった。
僕が兄様に勝っただって?
「隊長の剣は普段使用しているものではなく、騎士団の支給品でしたので耐久面が低かったからです。隊長は全力を出していなかったので、実力で勝ったと思わないように。」
ベアトリクスさんから厳しい指摘が入った。
「トリクシーは厳しいな。まぁ騎士団の大隊長くらいの強さはあるはずだ、誇っていいよ。
アルクスがこんなに強くなっていたとはね。
バルトロの守りは堅いし、アリシアは遠距離攻撃の精度・威力共に高いし安心だね。
アルクスは最後の一撃の威力をもう少し溜めずに瞬時に出せるようになると、決定力のある良いパーティになると思うよ。
でも僕のあの一撃を耐えられる防御力もあるし、そこは素晴らしかったよ!」
バルトロ兄さんとアリシアは兄様に褒められて、照れている様子だった。
「そうですね、私はあの時アルクス君は防ぎきれないと思って介入しようとしてしまいました。間に合いませんでしたけど…」
多分兄様は加減してくれていたんだろう。
たまたま勝ったとはいえ、まだまだ遠い存在であることが実感できたな。
リディ達は僕と兄様の戦いを見てそれぞれ感じるところがあった様子で黙り込んでいた。
久しぶりの同期との邂逅はこれにて終了となり、皆に出立の日取りを伝えて解散となった。
帰宅後、兄様とルーナとバルトロ兄さんとアリシアはそれぞれ満足そうな様子で夕食の時は何故か皆僕の話ばかりしていた。
珍しく家にいた父様もその話を聞いて、珍しく少し嬉しそうな表情をしていた。
こうして王都での用事も全て終え、一通りの旅支度も済んだのであった。
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