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第2章 辺境編
第26話 北上
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ネモ先生との修行が開始してから1年が経過した。
目標としていたブラッドタイガーも苦戦せずに倒せるくらいは成長した。
「やったよ!ついに魔獣を倒せたね!」
アリシアは大喜びだった。
確かに不授として生まれて、これだけ凶悪な魔獣を倒せることになるとは思ってもいなかっただろう。
僕だって不授になってからは自分がこれだけ強くなれるとは信じられないくらいだ。
「俺がいれば、アルクスもアリシアも傷つけないってことを証明できたな!」
バルトロ兄さんは盾の扱いがとても上達した。
闘気と組み合わせることで、バルトロ兄さんの後ろにいる限りは魔獣の攻撃に怯えることはなかった。
「2人とも、慢心はいけないよ。魔獣を倒して気が抜けた直後に襲われることもあるんだから。」
「アルクス君はよくわかってるね。敵を倒しても安全の確認ができるまでは気を抜かないことが長く生き残るためのコツだよ。
さて、とりあえず目標としていたブラッドタイガーも倒せたことだし、今回の僕の仕事はここまでかな。」
そうか、もうネモ先生とはお別れなのか。
時間はあったものの、今回は修行で精一杯で他のことを話すこともなかったな…
少し僕が寂しそうな表情を浮かべていたのか、ネモ先生からフォローが入った。
「君達、ブラッドタイガーを倒せたってことは探索者だったら一人前だよ!もっと自信を持つと良いよ。これならメルティウムさんも絶対認めてくれるはずだ。それに、君達はまだ若いしこのまま頑張れば闘気の更なる高みも目指せるさ!」
「闘気の更なる高みですか?」
「そう、闘気にはまだまだ高度な使い方があるんだ。でも君達はまずはできる様になったことを磨くことが先かな。これから探索者になるのなら実戦の機会も増えるだろうし、どんどん成長するはずだよ。いずれ壁にぶつかった時、また教える機会があるかもね。」
「はい、頑張ります!」
その後、街へと戻りメルティウムおじさんにブラッドタイガーの亡骸を見せると、驚きのあまり椅子から転げ落ちていた。
叔父さんとしては程々に強くなるも、ブラッドタイガーは倒せずに探索者になることは諦めるだろうと思っていたらしい。
「約束は約束だからな。お前達3人は今日から探索者になると良い。商会と孤児院のことは任せておけ。アルクスのお陰でみんなも成長したから問題なくやっていけるだろう。
探索者になるにあたって1つだけ頼みがある。兄さんへ探索者になることの報告とこれを渡してきて欲しい。
あと出発する前に探索者協会でちゃんと登録しておけよ。こいつを見せておけば断られないはずだ。」
メルティウム叔父さんにはあっさりと快諾してもらえた。
「良かったね、アルクス!」
「頑張った甲斐があったな!」
2人も嬉しそうに喜んでくれた。
「2人とも僕と一緒に王都まで着いて来てくれるかな?」
「「もちろん!」」
「わかっていたことだが、お前達もアルクスと一緒に探索者としてやっていくならしばらくお別れだな。支店の皆には伝えておくから、もし立ち寄ったら顔でも見せてやってくれ。あとこれを渡しておこう、商会でも使っている圧縮・軽量化の魔道具だ。魔力がなくなったらアルクスに込めてもらえ。」
メルティウム叔父さんは道中荷物が増えると困るだろうと荷物の持ち運びに役立つ魔道具をくれた。
その後、探索者協会に出向くと商会の仕事かと思われたが、探索者になると伝えると喜ばれた。
ブラッドタイガーの亡骸は良い素材になると結構な金額で換金してもらえ、旅の支度金としては十分だった。
その日は探索者登録の歓迎と旅立ちの送別会ということで紹介の仕事で関わった探索者の方々が宴を開催してくれた。
探索者としての心構えや新人が陥りやすいミスなど、これから探索者としてやっていく上で欠かせない話や皆の武勇伝を多く聞かせてくれた。
それから1週間、旅の支度も完了して王都行きの馬車がやってきた。
「アルクス、兄さんに宜しくな。2人ともアルクスに迷惑をかけるんじゃないぞ!」
「大丈夫だって!お父さんも私達がいないからって寂しがらない様にね!」
「俺達がいなくなったら、お前達が孤児院の頼りだからな。年長組としてみんなを支えてくれ。」
「はい、バルトロ兄さんの分まで頑張ります!」
バルトロ兄さんとアリシアも思い思いの別れを済ませていた。
「2年間、ありがとうございました!しばらくしたら戻ってきます!」
そうして僕達は馬車に乗り込み出発した。
メルドゥースの街に来た時はもう王都に戻ることはないだろうと思っていたが、自分が探索者になってその報告に父様に会いにいくとは人生何があるかわからないものだった。
「ねぇねぇ、アルクス。王都ってどんなところなの?小さい頃に行ったことあるみたいなんだけどもう覚えてなくて。」
「うーん、メルドゥースの街と比べると建物と人が多いかな。あとは不授に対する偏見は多いから、僕達にとってはあまり過ごしやすい場所ではないかな。」
「ふーん、王都に行った後はどこに行くの?」
「俺は他の国に行ってみたいな。」
バルトロ兄さんがボソッと自分の要望を口にした。
「そうだね、僕も世界を見て回りたいし、ちょっと図書館で調べ物をして今後の計画を立てようか。」
「魔獣を倒しながら路銀を稼いで世界中を旅するのね!楽しそう!」
「王都までの道中で体が鈍らない様に闘気の訓練を忘れない様にしないとね。」
「はーい、わかりました!ネモ先生がいないからアルクス先生お願いね!」
メルドゥースの街を出てから次の街までは何事もなく順調な道程だった。
次の街では商会の支店に顔を出し、バルトロ兄さんとアリシアは知人に探索者になって旅をすると話をしていた。
その間、僕は王都で共に戦ったリディとヘレナ、クレディスとクラウディアがどうしているだろうかと思っていた。おそらくもうすぐ王立学園を卒業する頃だろう。みんな進路は決まっただろうか。
彼らならきっと良いところに進むのだろう。
ラピスが覚醒して魔術を使いこなした彼らはどれだけ強くなったのか。今の自分はラピスを使える彼らとどれだけ力の差があるのか。一度手合わせしてみたいという思いもあった。
そして兄様。ルーナからの手紙ではさらに出世したという話も聞いた。どれだけ強くなったのかは想像もつかない。でも僕の目指す先として、兄様がどれだけ強いのかは知っておきたいな…
1人になると考え事ばかりしてしまうと思い、探索者協会に顔を出して周辺の情報などの聞き込みに当たった。
どうやら街道を少し行ったところに少し大きめの魔獣が出没するらしく、商人の人が困っているとのことだった。
「あの、僕達も街道を北上する予定なので討伐可能か見てきましょうか?」
そう申し出ると受付の人に泣いて感謝された。
商会から戻って来たアリシア達によると、商会でも街道の危険度が上がって護衛を雇うなど輸送のコストが普段よりも上がっていて困っているという話があった様子だった。
「とりあえず僕達で倒せるか見に行ってみようか。」
「えぇ、みんなも困っていたし、私達も強くなったし少しでも役に立ちたいわ!」
バルトロ兄さんも頷いていた。
目的も決まったところで商会で馬を借りて、街道を北上することにした。
「アルクスが馬に乗れないなんて意外ね。なんでもできるのかと思ってた。」
僕は馬上でアリシアの後ろでしがみついていた。
「馬に乗る機会なんてなかったからね。」
「少しくらい苦手分野がある方が好ましいな。」
バルトロ兄さんにも笑われてしまった。
街道をしばらく進むと森と谷に囲まれた場所に大きな熊型の魔物が居座って、何かを食べているのが見え、馬を降りた。
「あれはヒュージベアじゃないかな。見た目の割に素早い動きと見た目通りの強力な力で見つけた獲物は逃さないらしい。あの大きさだと強さとしてはブラッドタイガーと同等か、もしかしたらより強いかもしれない。」
「そんなに強い魔獣が街道にいるなんて…」
「確かに、強い魔獣はあまり街道には出てこないはずなんだがな。」
以前商会で聞いた話だと街道の辺りは魔獣が嫌う香りなど色々と対策がとられており、そうそう魔獣が出ることはないと聞いたことがあった。
「まだこちらには気付いていないようだし、先手必勝で行きたいね。アリシア、ここから届くかな?」
今僕達がいるところからヒュージベアがいる場所までは弓が届くかどうかという距離が空いていた。
「うーん、多分目とか口に当てないと効かないよね… 頑張ってみるけど外したらごめんね!」
アリシアはそういうと弓を構え闘気を練り始めた。
「気付かれたらすぐに跳んでくるだろうから、迎撃の準備もしておこう。」
「おぅ!」
バルトロ兄さんが盾を構え、僕もいつでも動けるように準備をした。
「行くよ!」
アリシアが呟き弓を射た。
見事顔面に当たった様子だったため、バルトロ兄さんが闘気を練って盾を構えた。
「あれ?」
暴れ回る様な音がするため、気付かれてすぐにやってくると思ったがどうやらその気配がない。
「おかしいな、行ってみようか。アリシアは投擲の準備をしておいて。」
「うん、わかった。」
バルトロ兄さんを先頭に警戒しつつヒュージベアに近づくと、その場で暴れ回っていた。
目元から血が流れていたため、アリシアの初撃は見事に当たったらしい。
「アリシアやるじゃないか!」
バルトロ兄さんがアリシアを褒め、彼女も満更でもない表情をしていた。
「片目が潰されて、錯乱状態になっているのか。手負の獣は何をしでかすかわからないからな…」
「近づいて斬るじゃダメか?」
「うーん、バルトロ兄さんが問題なく耐えられるなら大丈夫かな。」
「じゃあとりあえずやってみよう。多分大丈夫だと思う。」
バルトロ兄さんの作戦とも呼べない案だったが、一番簡単で成功確率が高そうだった。
そうこうしているうちにヒュージベアがこちらに気付き、突っ込んできた。
「そんな簡単にやられるかよ!」
ヒュージベアの突進を闘気を纏った盾で受け止めると、想定外だったのか一瞬動きが止まった。
その隙に僕が足払いをかけてよろめいたところにアリシアが口内に向けて追い討ちをかけた。
爆発音と共に口から煙を出して転倒したところに、バルトロ兄さんが振りかぶった斧を振り下ろした。
大木をも切り倒す一撃を受けたヒュージベアの頭は胴体とわかれ、ゴロりと転がった。
「ふぅ、やっぱり難しいことは考えない方が楽でいいな。」
「確かにバルトロ兄さんが受け止められる状況なら、これでいいのかもね。」
「とりあえず急いで血抜きしましょ!解体は街に戻ってからで良いよね?」
「うん、馬達も逃げなかった様子だし軽量化の魔道具を使えばなんとか持って帰れるはずだよ。」
そして僕達は最低限の血抜きだけしたヒュージベアを担いで街へと向かった。
「それにしてもヒュージベアを難なく倒せる様になるなんて、2人とも成長したね。」
「俺とアリシアは今までで一番頑張ったからな。」
「そうね、アルクスと一緒に戦える様になりたかったからね。」
「さっきは僕はほとんど役に立っていなかったから、もっと頑張らないとなぁ…」
誰1人怪我することなくヒュージベアを討伐できたことが初心者探索者としては異常なことをまだ僕達は気付いていなかった。
目標としていたブラッドタイガーも苦戦せずに倒せるくらいは成長した。
「やったよ!ついに魔獣を倒せたね!」
アリシアは大喜びだった。
確かに不授として生まれて、これだけ凶悪な魔獣を倒せることになるとは思ってもいなかっただろう。
僕だって不授になってからは自分がこれだけ強くなれるとは信じられないくらいだ。
「俺がいれば、アルクスもアリシアも傷つけないってことを証明できたな!」
バルトロ兄さんは盾の扱いがとても上達した。
闘気と組み合わせることで、バルトロ兄さんの後ろにいる限りは魔獣の攻撃に怯えることはなかった。
「2人とも、慢心はいけないよ。魔獣を倒して気が抜けた直後に襲われることもあるんだから。」
「アルクス君はよくわかってるね。敵を倒しても安全の確認ができるまでは気を抜かないことが長く生き残るためのコツだよ。
さて、とりあえず目標としていたブラッドタイガーも倒せたことだし、今回の僕の仕事はここまでかな。」
そうか、もうネモ先生とはお別れなのか。
時間はあったものの、今回は修行で精一杯で他のことを話すこともなかったな…
少し僕が寂しそうな表情を浮かべていたのか、ネモ先生からフォローが入った。
「君達、ブラッドタイガーを倒せたってことは探索者だったら一人前だよ!もっと自信を持つと良いよ。これならメルティウムさんも絶対認めてくれるはずだ。それに、君達はまだ若いしこのまま頑張れば闘気の更なる高みも目指せるさ!」
「闘気の更なる高みですか?」
「そう、闘気にはまだまだ高度な使い方があるんだ。でも君達はまずはできる様になったことを磨くことが先かな。これから探索者になるのなら実戦の機会も増えるだろうし、どんどん成長するはずだよ。いずれ壁にぶつかった時、また教える機会があるかもね。」
「はい、頑張ります!」
その後、街へと戻りメルティウムおじさんにブラッドタイガーの亡骸を見せると、驚きのあまり椅子から転げ落ちていた。
叔父さんとしては程々に強くなるも、ブラッドタイガーは倒せずに探索者になることは諦めるだろうと思っていたらしい。
「約束は約束だからな。お前達3人は今日から探索者になると良い。商会と孤児院のことは任せておけ。アルクスのお陰でみんなも成長したから問題なくやっていけるだろう。
探索者になるにあたって1つだけ頼みがある。兄さんへ探索者になることの報告とこれを渡してきて欲しい。
あと出発する前に探索者協会でちゃんと登録しておけよ。こいつを見せておけば断られないはずだ。」
メルティウム叔父さんにはあっさりと快諾してもらえた。
「良かったね、アルクス!」
「頑張った甲斐があったな!」
2人も嬉しそうに喜んでくれた。
「2人とも僕と一緒に王都まで着いて来てくれるかな?」
「「もちろん!」」
「わかっていたことだが、お前達もアルクスと一緒に探索者としてやっていくならしばらくお別れだな。支店の皆には伝えておくから、もし立ち寄ったら顔でも見せてやってくれ。あとこれを渡しておこう、商会でも使っている圧縮・軽量化の魔道具だ。魔力がなくなったらアルクスに込めてもらえ。」
メルティウム叔父さんは道中荷物が増えると困るだろうと荷物の持ち運びに役立つ魔道具をくれた。
その後、探索者協会に出向くと商会の仕事かと思われたが、探索者になると伝えると喜ばれた。
ブラッドタイガーの亡骸は良い素材になると結構な金額で換金してもらえ、旅の支度金としては十分だった。
その日は探索者登録の歓迎と旅立ちの送別会ということで紹介の仕事で関わった探索者の方々が宴を開催してくれた。
探索者としての心構えや新人が陥りやすいミスなど、これから探索者としてやっていく上で欠かせない話や皆の武勇伝を多く聞かせてくれた。
それから1週間、旅の支度も完了して王都行きの馬車がやってきた。
「アルクス、兄さんに宜しくな。2人ともアルクスに迷惑をかけるんじゃないぞ!」
「大丈夫だって!お父さんも私達がいないからって寂しがらない様にね!」
「俺達がいなくなったら、お前達が孤児院の頼りだからな。年長組としてみんなを支えてくれ。」
「はい、バルトロ兄さんの分まで頑張ります!」
バルトロ兄さんとアリシアも思い思いの別れを済ませていた。
「2年間、ありがとうございました!しばらくしたら戻ってきます!」
そうして僕達は馬車に乗り込み出発した。
メルドゥースの街に来た時はもう王都に戻ることはないだろうと思っていたが、自分が探索者になってその報告に父様に会いにいくとは人生何があるかわからないものだった。
「ねぇねぇ、アルクス。王都ってどんなところなの?小さい頃に行ったことあるみたいなんだけどもう覚えてなくて。」
「うーん、メルドゥースの街と比べると建物と人が多いかな。あとは不授に対する偏見は多いから、僕達にとってはあまり過ごしやすい場所ではないかな。」
「ふーん、王都に行った後はどこに行くの?」
「俺は他の国に行ってみたいな。」
バルトロ兄さんがボソッと自分の要望を口にした。
「そうだね、僕も世界を見て回りたいし、ちょっと図書館で調べ物をして今後の計画を立てようか。」
「魔獣を倒しながら路銀を稼いで世界中を旅するのね!楽しそう!」
「王都までの道中で体が鈍らない様に闘気の訓練を忘れない様にしないとね。」
「はーい、わかりました!ネモ先生がいないからアルクス先生お願いね!」
メルドゥースの街を出てから次の街までは何事もなく順調な道程だった。
次の街では商会の支店に顔を出し、バルトロ兄さんとアリシアは知人に探索者になって旅をすると話をしていた。
その間、僕は王都で共に戦ったリディとヘレナ、クレディスとクラウディアがどうしているだろうかと思っていた。おそらくもうすぐ王立学園を卒業する頃だろう。みんな進路は決まっただろうか。
彼らならきっと良いところに進むのだろう。
ラピスが覚醒して魔術を使いこなした彼らはどれだけ強くなったのか。今の自分はラピスを使える彼らとどれだけ力の差があるのか。一度手合わせしてみたいという思いもあった。
そして兄様。ルーナからの手紙ではさらに出世したという話も聞いた。どれだけ強くなったのかは想像もつかない。でも僕の目指す先として、兄様がどれだけ強いのかは知っておきたいな…
1人になると考え事ばかりしてしまうと思い、探索者協会に顔を出して周辺の情報などの聞き込みに当たった。
どうやら街道を少し行ったところに少し大きめの魔獣が出没するらしく、商人の人が困っているとのことだった。
「あの、僕達も街道を北上する予定なので討伐可能か見てきましょうか?」
そう申し出ると受付の人に泣いて感謝された。
商会から戻って来たアリシア達によると、商会でも街道の危険度が上がって護衛を雇うなど輸送のコストが普段よりも上がっていて困っているという話があった様子だった。
「とりあえず僕達で倒せるか見に行ってみようか。」
「えぇ、みんなも困っていたし、私達も強くなったし少しでも役に立ちたいわ!」
バルトロ兄さんも頷いていた。
目的も決まったところで商会で馬を借りて、街道を北上することにした。
「アルクスが馬に乗れないなんて意外ね。なんでもできるのかと思ってた。」
僕は馬上でアリシアの後ろでしがみついていた。
「馬に乗る機会なんてなかったからね。」
「少しくらい苦手分野がある方が好ましいな。」
バルトロ兄さんにも笑われてしまった。
街道をしばらく進むと森と谷に囲まれた場所に大きな熊型の魔物が居座って、何かを食べているのが見え、馬を降りた。
「あれはヒュージベアじゃないかな。見た目の割に素早い動きと見た目通りの強力な力で見つけた獲物は逃さないらしい。あの大きさだと強さとしてはブラッドタイガーと同等か、もしかしたらより強いかもしれない。」
「そんなに強い魔獣が街道にいるなんて…」
「確かに、強い魔獣はあまり街道には出てこないはずなんだがな。」
以前商会で聞いた話だと街道の辺りは魔獣が嫌う香りなど色々と対策がとられており、そうそう魔獣が出ることはないと聞いたことがあった。
「まだこちらには気付いていないようだし、先手必勝で行きたいね。アリシア、ここから届くかな?」
今僕達がいるところからヒュージベアがいる場所までは弓が届くかどうかという距離が空いていた。
「うーん、多分目とか口に当てないと効かないよね… 頑張ってみるけど外したらごめんね!」
アリシアはそういうと弓を構え闘気を練り始めた。
「気付かれたらすぐに跳んでくるだろうから、迎撃の準備もしておこう。」
「おぅ!」
バルトロ兄さんが盾を構え、僕もいつでも動けるように準備をした。
「行くよ!」
アリシアが呟き弓を射た。
見事顔面に当たった様子だったため、バルトロ兄さんが闘気を練って盾を構えた。
「あれ?」
暴れ回る様な音がするため、気付かれてすぐにやってくると思ったがどうやらその気配がない。
「おかしいな、行ってみようか。アリシアは投擲の準備をしておいて。」
「うん、わかった。」
バルトロ兄さんを先頭に警戒しつつヒュージベアに近づくと、その場で暴れ回っていた。
目元から血が流れていたため、アリシアの初撃は見事に当たったらしい。
「アリシアやるじゃないか!」
バルトロ兄さんがアリシアを褒め、彼女も満更でもない表情をしていた。
「片目が潰されて、錯乱状態になっているのか。手負の獣は何をしでかすかわからないからな…」
「近づいて斬るじゃダメか?」
「うーん、バルトロ兄さんが問題なく耐えられるなら大丈夫かな。」
「じゃあとりあえずやってみよう。多分大丈夫だと思う。」
バルトロ兄さんの作戦とも呼べない案だったが、一番簡単で成功確率が高そうだった。
そうこうしているうちにヒュージベアがこちらに気付き、突っ込んできた。
「そんな簡単にやられるかよ!」
ヒュージベアの突進を闘気を纏った盾で受け止めると、想定外だったのか一瞬動きが止まった。
その隙に僕が足払いをかけてよろめいたところにアリシアが口内に向けて追い討ちをかけた。
爆発音と共に口から煙を出して転倒したところに、バルトロ兄さんが振りかぶった斧を振り下ろした。
大木をも切り倒す一撃を受けたヒュージベアの頭は胴体とわかれ、ゴロりと転がった。
「ふぅ、やっぱり難しいことは考えない方が楽でいいな。」
「確かにバルトロ兄さんが受け止められる状況なら、これでいいのかもね。」
「とりあえず急いで血抜きしましょ!解体は街に戻ってからで良いよね?」
「うん、馬達も逃げなかった様子だし軽量化の魔道具を使えばなんとか持って帰れるはずだよ。」
そして僕達は最低限の血抜きだけしたヒュージベアを担いで街へと向かった。
「それにしてもヒュージベアを難なく倒せる様になるなんて、2人とも成長したね。」
「俺とアリシアは今までで一番頑張ったからな。」
「そうね、アルクスと一緒に戦える様になりたかったからね。」
「さっきは僕はほとんど役に立っていなかったから、もっと頑張らないとなぁ…」
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