黎明の翼 -龍騎士達のアルカディア-

八束ノ大和

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第2章 辺境編

第21話 辺境

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「旅の間、色々と探索者の話を聞かせていただきありがとうございました。」
「いや、俺も色々な話が聞けて助かったよ。もし探索者になるなら君の知識は必ず役に立つ。興味が湧いたらいつでも声をかけてくれ!」
 街に着いて僕は御者と護衛をしていた探索者の方達に礼を言って馬車を降りると、早速父様から渡された地図を広げた。
 そこには辺境の街メルドゥースの全体像が描かれ、メルティウムが経営する商会の場所が強調されていた。
 辺境とは言ってもきちんと整備されているため、商店までの道程はわかりやすかった。
 地図を頼りに街の中を歩いていくと、地図に描かれた場所には石造りの大きな建物があった。
 本当にこれが叔父さんの店かと僕は驚きを隠せず地図を読み間違えたかと思ったが、よく見ると店名の看板にはメルティウムの名前も入っていて、どうやら僕と同じ家紋も記されていて間違いではなかった。
 扉を開けて中に入ると若い黒髪の女性が笑顔で立っていた。
 「いらっしゃいませ、どういったご用件でしょうか。」
 「あの、すいません。メルティウムさんに会いに来たのですが...」
 「はい、約束はとられていますでしょうか?」
 「いえ、特に日付の約束はしていないですが甥のアルクスが来たとお伝えいただければ...」
 「かしこまりました。確認いたしますのでこちらの部屋でかけてお待ちください。」
 笑顔を見せてはいるが、感情が全く見えないなと思いつつも、僕は案内された隣の部屋のソファーに腰掛けた。
 座った瞬間に沈み込み、包まれる様な感覚に感動を覚えていると、唐突に扉の開く音が聞こえてきた。
 「おう、アルクスはいるか!」
豪快な声と共に、メルティウム叔父さんが入ってきた。
 
「あ、おじさん。お久しぶりです。」
僕が挨拶をしようとした瞬間、遮る様に叔父さんは喋り始めた。

「おぉ、大きくなったな!ラピスが無くなったって聞いたぞ?俺も昔は不授と言われた時はショックを受けたもんだったぜ。まぁ、ちゃんとラピスが宿っていたら今頃どこぞの教会にいて、今頃こんなところにはいなかったかもな!」
笑いながら熱い抱擁と共に迎えてくれた。


「あ、これ父様からです。」
出発の時に父様から受け取った手紙と小さな箱を渡した。

「おぉ、ありがとう!そうそう、もう王都には帰らずにこっちでやっていくんだろう?どうせやることも無いだろうし、とりあえずうちに住みながら商会で働いてみるといい。そうそう、あいつらもお前に会いたがってたぜ。おーい、バルトロ、アリシア入ってこーい!」
叔父さんは父様と違い人の話を聞くよりもひたすら喋り続ける人だった。
久しぶりで忘れていたけど、こちらの調子に関係なく喋り続けていた。
 
少しすると叔父さんに呼ばれた2人が入ってきた。
「この前話した様にアルクスがこの街で暮らしていく様になった。長い付き合いになるだろうから仲良くしてやってくれよ!」
「バルトロ兄さん、アリシア久しぶり。これからこっちで世話になったから宜しく頼むよ。」
 いとこのバルトロマエウスとアリシアだ。
 2人は実の兄妹だが、養子のため僕とは血が繋がっていない。

「やぁ、アルクス。元気だったか?これから困ったことがあったら何でも俺に聞いてくれ。」
 バルトロは僕の3つ年上で叔父さんとは違ってそんなに口数が多くないが、頼れる兄貴分という感じだ。全てが洗練された兄様とは全然違うけど、親しみを持ちやすい雰囲気を出している。

「アルクス、あなた久しぶりに会うのに素気ないんじゃない?まぁ、いいわ。これからこの街のこと色々教えてあげるからね。商会の仕事もするんでしょ?お姉さんが色々と教えてあげるわよ!」
 アリシアは叔父さんに似てよく喋る。そして僕と同じ年の生まれだが、先に生まれたため以前からお姉さん風を吹かしてきていた。

「あぁ、分からないことだらけだから宜しく。」
「貴方以前から大人しかったけれど、ちょっと暗いんじゃない?ラピスがなくて落ち込んでいるみたいだけど、この街にはラピスがある人なんていないから気にしない方がいいわよ。そうそう、お父さんったら孤児を引き取ってばかりいるから孤児院を建てたのよ。みんな私達の家族みたいなものだから会わせてあげるわ。行きましょう!」
  アリシアが一方的に話した後、問答無用でアルクスの手を引いて、孤児院に向かうことになった。

「じゃあ、俺も孤児院に向かうよ。」
「あぁ、一体誰に似たんだかな。もう少しお淑やかに育って欲しかったものなんだが。」
  メルティウムのぼやきにバルトロは苦笑して孤児院に向かった。

アリシアに連れられて商会から少し離れた場所に孤児院は建っていた。
小さな建物を想像していたが、先程の商会と変わらず大きな石造りの建物だった。

「これ、本当に孤児院なの?」
 「うん、お父さんったら張り切っちゃって。どうせこれからも増えるだろうから大きく作っておこうって。みんなで集まれるくらい広くて便利なのよ。そうだ、アルクスは王都の学校に通っていたのよね?子ども達に勉強を教えてくれないかしら。みんな将来商会で働いてくれると嬉しいけど、勉強しておいて損はないからね。」
こちらが1喋ると10喋るため、アリシアのペースにのまれ気味だったが、子ども達に勉強を教えるというのは良い考えだ。
以前リディとヘレナや同学年の皆にもやっていたし、教えることは自分の勉強にもなる。

「わかった、いいよ。王国と教会の歴史や文化、他国との関係や算術などで良いかな?魔術関係も知識としては教えることはできるけど。」
「ありがとう!でも、即答してくれるとは思っていなかったわ。そうね、算術と王国の文化からお願いできるかしら。歴史の話は物語とかで教えてくれると皆もちゃんと聞いてくれると思うわ。文化は産業と絡めて話してもらえると、うちの商会の仕事と繋げやすいかもね。じゃあ中に入りましょう。」
 孤児院の中に入ってみると広いエントランスがあった。
 奥に進むと子ども達が庭や屋内で思い思いに遊んでいるのが見えた。
 小さい子どももいたが、僕より2,3歳くらい下の子どもが多かった。

「はーい、みんな注目!私の従弟のアルクスを連れて来たわよ。これからこの街に住んで商会の仕事をしたり、みんなに勉強を教えてくれるから仲良くしてねー!はい、アルクス自己紹介!」
 急に自己紹介と言われても、そんなことはしたことがないと思ったが、とりあえずみんなの視線が集まっているので沈黙しているのも悪いし、何か喋らないと。
「えーと、アルクスです。今まで王都の王立学園に通っていました。これから勉強を教えることになりましたので、よろしくお願いします。」
「なんだか固い自己紹介ね。そういうわけでみんなよろしくねー!」
「「よろしくー」」
 とりあえず子ども達には興味を持ってもらえたらしくて、「王都ってどんなところ?」「王立学園ってどんな勉強するの?」「魔術は使える?」と質問攻めにあった。

「はいはい、アルクスはまだやることあるから質問は今度ね。時間はいっぱいあるんだから、みんなで質問考えておくように。」
「「はーい!」」
「はい、じゃあ解散!この後は採集行くから、よろしくねー!」
子ども達は皆素直だし、これならなんとかなりそうだ。
アリシアは子ども達の扱いが上手そうだし、今後のためにもしっかりと見習っておかないと。

「どうしたの、じーっと見て。私の魅力にやっと気付いた?」
「あぁ、そうだよ。」
「お、煽てたって何も出ないからね…」
アリシアの顔が急に赤くなって黙ってしまった。
何か困らせるようなことを言ってしまっただろうか。

「孤児とは言っても子ども達は皆明るく成長しているんだね。不授で孤児ということで悲観している子も多いのかと思っていたよ。」
僕はラピスが無いとわかった時に絶望していたが、最初からなければあまり気にならないものなのだろうか。

「そうね、そもそもこの街には不授の人間しかいないから不授ということで困ることはないし、劣等感を感じることもないわ。不授が普通の世界で不授なことを悩む人はいないでしょ?あとはお父さんはみんなに満遍なく愛情を注いでるからね。よっぽど実の親に育てられているよりも愛されている実感があるんじゃないかしら?もちろん私と兄さんもみんなにいっぱい愛情を注いでるわ。」
まぁ、そういうものと理解しておけば良いか。

「大人に関してはみんながみんな明るく生きてるわけじゃないけどね。やっぱり他の街から不授だからと言ってやってきた人達は、希望もなく暗い人は割といるかも。あ、でもうちの商会の職人さん達はみんな楽しそうにお仕事してるよ!
そうそう、この街は魔術を使える人がいない分、魔道具とか技術が発達しているのよ。お父さんの商会も一番大きい事業は魔道具の取り扱いだしね。」
「そうだったんだ。そういえば叔父さんの商会のこと全然知らなかったな。」
「これから私がしっかり教えてあげるから安心して!」
アリシアは嬉々として道すがら僕に商会の事業全般の話をしてくれた。

一通りの話を聞いた後に気付いたが、そういえば今はどこに向かっているのだろうか。
「ところでどこに向かっているの?」
「さっき採集に行くって言ったでしょ?街の南にある森の入り口よ。商会の仕事、と言っても雑用だけど商品に使えそうな薬草とか果物とかをいつもみんなで採っているの。奥の方まで行かなければ魔獣も出ないし結構孤児院のみんなの良いお小遣い稼ぎなの。」
皆自分のやるべきことをして、役に立っている実感があるからこそ明るくできているのかと納得できた。
この街の南側には広大な森が広がっていて、ここより南には街はないらしい。
奥まで行くと凶悪な魔獣がいるとかいないとか言われているらしいが、街まで出てくることはなくて、たまに小型の魔獣が迷って出てくる程度らしかった。

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