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Ch.2
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「ここが一番辛気臭くて人がいなさそうだった」
少年はタンタンとテーブルを指でそう言った。
「他人に聞かれたくない話ときいたら、聞かないわけにはいかないね」
「残念だがそんなたいそうな話じゃない。仕事がらみだ」
男はにっこりと微笑んだが、少年はもう一度テーブルで音をたてその笑顔を遮った。
「仕事……仕事か。きみの仕事はなんでも胡散臭い。なんといっても緑のサンタだからなあ。子供を守る守護者であり、愚かな人間の断罪者、断罪どころじゃないね。こちらの世界でいうところの削除者、現実世界じゃ引越し屋だ。もちろん、ソリで運ぶのは荷物ではなく人間だけど。怖いねえ」
怖い、怖いと男はやはり笑顔で繰り返した。
「辛気臭いよりマシだ。本題に入っていいか?」
笑いだしそうになるのをこらえて、どうぞ、と男は白い手袋をした手を少年の前に出した。
「子供を捜している」
「子供……子供の姿をした死人ってことかな? ここじゃ数百歳の子供や幼体って設定もたくさんあるからねぇ。最近子供の姿のまま葬儀をしたのは……」
男はテーブルの上で組んでいた手をほどき、ベストから懐中時計を取り出すとパチンと音を弾かせて蓋を開く。開いた盤面には男にしか見えないデータが並んでいるに違いなかった。
「ちがう。生きている子供を捜している。現実世界の時間で7歳だ」
「子供のユーザー? 若年層のユーザーは増えているけど、7歳となるとそうはいない。何せここでの生活はそれなりにコストがかかるし、それを自分自身で賄わなくてはいけない。それに、7歳という年齢で我が社を訪れる人間にはいまだ出合ったことがない。きみ以外では」
俄然興味をそそられた男は、時計の上で指を数回躍らせた。
「捜している子供はこの世界の住人じゃない。問合せ済みだ」
「それはそれは。全ユーザー照会済なんて職権乱用に加えてきみじゃなきゃ出来ない所業だね」
にっこりと意味深に笑う男に、少年は鼻を鳴らす。不機嫌そうな顔の前に、唐突に湯気が現れた。男
「きみもどう? 最近気に入ってるんだ。きみがいる国の紅茶だよ」
「いらん」
それは残念。美味しいのに。男は魔法のように、この世界のこのエリアは魔法が存在するから、すべからく魔法で懐中時計から取り出した美しい花をあしらったティーカップを傾けた。
「現実世界の子供本人から捜してくれと連絡をもらった。だが待ち合わせ場所は空っぽの箱で、子供の代わりに花と身元不明の死にぞこないが詰まってた」
「へぇ。そりゃ愉快。箱を送るのはサンタの仕事だろうに。空っぽの箱だなんて随分と意地が悪い。いや、詰まっていたなら空ではないか。箱と言えばたしかにうちの商売道具だが、死にぞこないは、まだうちの領分じゃない」
それで? と、男は紅茶の香りを楽しむように話しを聞く。
「この花は、この世界でしか見たことがない」
そう言ってロクは、無造作に宙で手を振ると空っぽの箱の中で咲いていた、離別要請を受けて赴いた一室の部屋を覆いつくすほど投影されていた花で支配人の前に花畑を創ってみせた。ついでに、男のティーカップの目の前で指を鳴らすと、ティーカップにあしらわれていた花たちまでもが、花畑におりてきた。
男はいつも笑っているような細い目をほんの少し開いて、この魔法好きの天邪鬼チートキャラめと呟いた。
「僕を呼んだ子供の情報と、あんたのとこの契約者の相続の情報に一致するものがないかを調べてくれ。もちろん、あんたの会社だけの話じゃない。この世界の全てのOUTで該当するデータがないか検索してほしい。それからこの花のことも」
「無茶をいうね」
「それでもあんたはやるだろう?僕はあんたが何者かを知っているし、あんたに何が出来るかも知っているんだから」
少年はタンタンとテーブルを指でそう言った。
「他人に聞かれたくない話ときいたら、聞かないわけにはいかないね」
「残念だがそんなたいそうな話じゃない。仕事がらみだ」
男はにっこりと微笑んだが、少年はもう一度テーブルで音をたてその笑顔を遮った。
「仕事……仕事か。きみの仕事はなんでも胡散臭い。なんといっても緑のサンタだからなあ。子供を守る守護者であり、愚かな人間の断罪者、断罪どころじゃないね。こちらの世界でいうところの削除者、現実世界じゃ引越し屋だ。もちろん、ソリで運ぶのは荷物ではなく人間だけど。怖いねえ」
怖い、怖いと男はやはり笑顔で繰り返した。
「辛気臭いよりマシだ。本題に入っていいか?」
笑いだしそうになるのをこらえて、どうぞ、と男は白い手袋をした手を少年の前に出した。
「子供を捜している」
「子供……子供の姿をした死人ってことかな? ここじゃ数百歳の子供や幼体って設定もたくさんあるからねぇ。最近子供の姿のまま葬儀をしたのは……」
男はテーブルの上で組んでいた手をほどき、ベストから懐中時計を取り出すとパチンと音を弾かせて蓋を開く。開いた盤面には男にしか見えないデータが並んでいるに違いなかった。
「ちがう。生きている子供を捜している。現実世界の時間で7歳だ」
「子供のユーザー? 若年層のユーザーは増えているけど、7歳となるとそうはいない。何せここでの生活はそれなりにコストがかかるし、それを自分自身で賄わなくてはいけない。それに、7歳という年齢で我が社を訪れる人間にはいまだ出合ったことがない。きみ以外では」
俄然興味をそそられた男は、時計の上で指を数回躍らせた。
「捜している子供はこの世界の住人じゃない。問合せ済みだ」
「それはそれは。全ユーザー照会済なんて職権乱用に加えてきみじゃなきゃ出来ない所業だね」
にっこりと意味深に笑う男に、少年は鼻を鳴らす。不機嫌そうな顔の前に、唐突に湯気が現れた。男
「きみもどう? 最近気に入ってるんだ。きみがいる国の紅茶だよ」
「いらん」
それは残念。美味しいのに。男は魔法のように、この世界のこのエリアは魔法が存在するから、すべからく魔法で懐中時計から取り出した美しい花をあしらったティーカップを傾けた。
「現実世界の子供本人から捜してくれと連絡をもらった。だが待ち合わせ場所は空っぽの箱で、子供の代わりに花と身元不明の死にぞこないが詰まってた」
「へぇ。そりゃ愉快。箱を送るのはサンタの仕事だろうに。空っぽの箱だなんて随分と意地が悪い。いや、詰まっていたなら空ではないか。箱と言えばたしかにうちの商売道具だが、死にぞこないは、まだうちの領分じゃない」
それで? と、男は紅茶の香りを楽しむように話しを聞く。
「この花は、この世界でしか見たことがない」
そう言ってロクは、無造作に宙で手を振ると空っぽの箱の中で咲いていた、離別要請を受けて赴いた一室の部屋を覆いつくすほど投影されていた花で支配人の前に花畑を創ってみせた。ついでに、男のティーカップの目の前で指を鳴らすと、ティーカップにあしらわれていた花たちまでもが、花畑におりてきた。
男はいつも笑っているような細い目をほんの少し開いて、この魔法好きの天邪鬼チートキャラめと呟いた。
「僕を呼んだ子供の情報と、あんたのとこの契約者の相続の情報に一致するものがないかを調べてくれ。もちろん、あんたの会社だけの話じゃない。この世界の全てのOUTで該当するデータがないか検索してほしい。それからこの花のことも」
「無茶をいうね」
「それでもあんたはやるだろう?僕はあんたが何者かを知っているし、あんたに何が出来るかも知っているんだから」
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