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Ch.2

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 職務用モバイルに転送された住所は、いたって普通のマンションだった。野生司は車を駐車スペースへ停めた。
「自宅でしょうか」
「要請者が指定した場所は自宅とは限らない。公園だったり、スーパーだったり、本屋だったり、学校だったり、友人の家、親戚の家ということもある。子供が自宅から逃れられずに死亡するケースもあるからな」
「死亡って……」
 聞き捨てならない台詞を残し足早にエントランスへ向かうロクを、小走りに野生司は追いかけた。

 エントランスにある来客用のパネルで指定された部屋番号を呼び出すが反応がない。
「留守? それともなにか……」
「居留守ということもある。こちらの姿は見えているからな」
 ロクは片眉だけを動かして、エントランスに設置されているカメラの場所を示した。
「このマンションの管理センターを呼び出せ」
「はい」
 野生司がパネルにある管理センターのアイコンをタップすると、すぐに映話は繋がり女性の顔が宙空投影に表示された。
<お待たせ致しました。管理センターの佐藤です>
「お忙しいところすみません。警察です」
 野生司は佐藤によく見えるよう、宙に映る彼女の映話の前にモバイルから提示したIDを表示させた。
<110番通報でしょうか?>
「通報ではありませんが確認したいことがあります。至急、1891号室の千徳さんのお部屋に入らせて頂きたいのです」
<少々お待ち下さい>
 佐藤はそう言って映話の映像を“お待ちください”に切り替え、よく耳にする保留音が流れ始めた。
「何をやっている、どんくさいな。しかも待たせているのに、悠長に中途半端な曲を流す必要もないだろう」
「上司の確認が必要なのではないでしょうか」
「もっとちゃんとしたAIを導入するべきだ。自己判断も出来ず責任も取れない安価な応答AIに任すから対応が遅れる。結局人間の判断が必要ならAIに任せず最初から裁量権のある人間に対応させればいいだろう」
「え。彼女、AIですか?」
「わからないのか?」
「ぜんぜん」
「警察官として大丈夫なのか?」
「え」
「まったくこれだから、やせいは。早く進化するんだ。この世界はやり直しを始めているわけじゃないんだぞ」
「だから、やせいじゃないですって。進化ってなんですか。だいたいなんでマンションの管理体制から世界の話に……」
<お待たせ致しました。砂砥《すなと》と申します。お部屋のドアロックはこちらでも開錠できますが、念の為、警備に案内させます>
 映話が開始された画面では、しちさんに黒髪を分け、ネクタイをした男、砂砥が佐藤の代わりに映っていた。
「警備などいらん。さっさとここを開けて、部屋のロックをあけておけ」
<そういうわけには参りません。こちらにも……>
「不要な人間は邪魔だ」
<ご心配には及びません>
 男がそう言うとガラスに隔たれていたエントランスアの向こうから、まるまるとした愛嬌のある自走式のロボットが出てきて扉を開き二人を向かえた。本庁にいるぴぽまるくんに似ているようにも見えたが、そのロボットには丸い熊耳がついていた。その胴体部分から出力する宙空投影には、先ほどの、砂砥の顔が映っていた。
<ご案内するのは人間ではございません>
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