警視庁生活安全部ゲーターズ安全対策課

帽子屋

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Ch.1

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「なぁ、羽田……」
「さん、だ」
「羽田……サン。のーすと付き合ってるの?イベントのときとか、町内パトロールしてるときもいっつも一緒にいるじゃん。それとも仕事で一緒なだけとか、女どうしで仲がいいってだけ?」
「ふふん、気になるか?」
「気になる」
「素直でよろしい」
 羽田はにやりと笑い「もうすぐ付き合う予定だ」と幾分勝ち誇った顔で言い放った。
「そうなの?!やだ、おめでとう!羽田さん!」
 恋話好きの鶯太の母が会話にいさんで参加する。
「そうなのです。もうひといきってところで」
 母と羽田の会話に、一瞬目の前が暗くなったがそのまま打ちひしがれている鶯太ではなかった。
「母ちゃん!俺もはやくモバイルがほしい!そしたら、のーす、電話番号おしえてくれよな!」
「あ、少々、お待ちください。今、情報を確認して、今日手続き出来るかどうかを調べてます……電話番号……?」
 先ほどカメラの先にいる中央AIに警察官としての祈りを捧げた野生司は3人の会話などまるで耳に入らない様子で、宙空の画面から目をそらすことなく職務をまっとうしていた。
「のーすースルーするなよー」
「野生司は超がつくほどの真面目さんだ。こうなると、お子様のちゃちゃなど、全く聞こえてないぞ。まあ悪気があるわけではなし、単に超超超がつく天然さんなだけだが、私はそんなところも好きだ。かまってくれと相手の仕事を邪魔したり、了見のせまいことも言わない」
 不満げな鶯太に対し、羽田はこれみよがしに、こうな、こうと自身の両サイドのこめかみから前方へ両手の掌を平行にスライドさせ、野生司の集中モードを表現してみせた。
「お、俺だって……だいたいさ、ほんとこれただの時計なんだぜ? 緊急発信しか出来ないし、宙空投影機能もついてないなんて、マジで終わってる」
「機能満載のモバイルなんておまえには10年早い。野生司さんの番号もらうなんざ100年早いよ」
「そうだそうだ。お母さんの言うとおりだ。野生司は私と付き合うのだ」
「やだ、ほんと素敵!野生司さん、可愛いから!はやくパートナー届け、出しちゃいなさいよ」
「母ちゃん!息子の恋を応援しろよ!ただでさえ、羽田……サンと、のーすは女どうしで仕事も一緒で、俺より断然有利なんだから!」
「障害がある恋ほど燃えるものでしょ」
「燃えなくていいし。障害いらないし」
「うわ、消極的。女でも男でも、中性でも両性でも無性でもどっちつかずでも、そんな人間、私のライバルにもならないわ」
「う……それにさー、モバイルないと通話も映話できないから普通に友達との待ち合わせとか面倒なんだよ!この前だって、電話できれば車道に出なかった!」
「車道に出た言い訳になるか、ばかもの。だいたい宿題終わらずに、出発が待ち合わせギリギリの時間になったお前が悪い。それに遅れる事が予想できたんだから家から友達に連絡すればよかった。そんな判断も出来ないんだから、今はその腕時計で十分だよ。テキストのやり取りは出来るし、緊急時の緊急通報、SOS発信はできる」
「こんっっっな小っさい画面に長文のテキストとか、読むの大変なんだよ母ちゃん!!」
 面白い。羽田は子供が好きでも興味があるわけでもなかったが、突然恋のライバル宣言をしたこの少年はからかうととても面白い。もはや、何を主張したいのか本人もわかってない気がする。次の客がこないのをいいことに、羽田は暇つぶしにはちょうどいいと思い初めていた。
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