107 / 109
間奏曲
lamentazione(36)
しおりを挟む
すました顔に、折り目のないコートに傷一つない革靴。こんな寂れた地区には全く似つかわしくない、いかにも、といった風体の2人の連邦捜査官を見つけたグラハムは「おい!どういうことだ!」と、いきなり怒声をあげて食って掛かった。連邦捜査官の1人が、その声に反応し、こちらもまた、くたびれてよれたコートに緩められたネクタイ、ソウルの減った靴を履いた、いかにも、市警の殺人課の刑事然としたグラハムを一瞥した。
「これはうちのシマで起きたうちのヤマだぞ! 現場担当の俺に何の説明もなく、お前ら何してんだ!」
「ああ、グラハム刑事ですか。ご説明しようにも我々が到着したときに現場担当の方がいらっしゃらなかったもので。聞き込みにでもいってらっしゃったんですか? まさか、一服、なんてことはないですよね。この辺りは喫煙できるエリアではありませんから」
高価そうなスーツを至極当たり前に身に付け、豊かな長い黒髪を靡かせた捜査員がモバイルでグラハムの目の前の宙へ連邦捜査官としてのIDをかざしながら答えた。
「とは言え、上ではもう話しがついているので、あなたにご説明と言っても、この事件は我々が担当するので、あなたはお引取りを。すみやかに署に戻って頂いてかまわないと、それだけです」
「なんだと……」
「ご不満でしたら、所長にどうぞ。我々に直接クレームを入れる立場に残念ながらあなたはいらっしゃらないのですから」
声だけではなく全身で怒りを露にするグラハムに、捜査官は冷ややかに告げた。隣にいたもう1人の連邦捜査官は「それぐらいにしとけ」と、同僚を諌めると、引き下がろうとしないグラハムの目の前に掌を広げ無言で制止した。IEM(インイヤーモニター)に無線が入ったのか、捜査員二人は同時に片耳に手をやり意識をそちらに向けた。もうすでに、グラハムのことなど視界にはないようだった。
完全に無視されたグラハムは、これ以上この二人に構っていても埒が明かないと判断し、腸の煮えくりかえる思いで、その場をあとにした。
通報を受けてこの事件現場に出動した救急車の照明を落とした車内には、車外カメラで撮影された外の様子が宙空投影されていた。2名の連邦捜査官に食って掛かった中年の口ひげ男が、苛立たしげに踵を返した様子がありありと浮かび上がっていたが、それを揶揄する声も笑う声もなく、ただひっそりと静かに宙空投影を囲むように座っていた
人間たちは眺めていた。
「撤収する」
前方の助手席に座る救急救命士が、後方の黒尽くめの人間たちに一言告げ、運転手に車をスタートさせた。その後ろをもう一台、最新鋭の救急車が続いて現場をあとにした。
「これはうちのシマで起きたうちのヤマだぞ! 現場担当の俺に何の説明もなく、お前ら何してんだ!」
「ああ、グラハム刑事ですか。ご説明しようにも我々が到着したときに現場担当の方がいらっしゃらなかったもので。聞き込みにでもいってらっしゃったんですか? まさか、一服、なんてことはないですよね。この辺りは喫煙できるエリアではありませんから」
高価そうなスーツを至極当たり前に身に付け、豊かな長い黒髪を靡かせた捜査員がモバイルでグラハムの目の前の宙へ連邦捜査官としてのIDをかざしながら答えた。
「とは言え、上ではもう話しがついているので、あなたにご説明と言っても、この事件は我々が担当するので、あなたはお引取りを。すみやかに署に戻って頂いてかまわないと、それだけです」
「なんだと……」
「ご不満でしたら、所長にどうぞ。我々に直接クレームを入れる立場に残念ながらあなたはいらっしゃらないのですから」
声だけではなく全身で怒りを露にするグラハムに、捜査官は冷ややかに告げた。隣にいたもう1人の連邦捜査官は「それぐらいにしとけ」と、同僚を諌めると、引き下がろうとしないグラハムの目の前に掌を広げ無言で制止した。IEM(インイヤーモニター)に無線が入ったのか、捜査員二人は同時に片耳に手をやり意識をそちらに向けた。もうすでに、グラハムのことなど視界にはないようだった。
完全に無視されたグラハムは、これ以上この二人に構っていても埒が明かないと判断し、腸の煮えくりかえる思いで、その場をあとにした。
通報を受けてこの事件現場に出動した救急車の照明を落とした車内には、車外カメラで撮影された外の様子が宙空投影されていた。2名の連邦捜査官に食って掛かった中年の口ひげ男が、苛立たしげに踵を返した様子がありありと浮かび上がっていたが、それを揶揄する声も笑う声もなく、ただひっそりと静かに宙空投影を囲むように座っていた
人間たちは眺めていた。
「撤収する」
前方の助手席に座る救急救命士が、後方の黒尽くめの人間たちに一言告げ、運転手に車をスタートさせた。その後ろをもう一台、最新鋭の救急車が続いて現場をあとにした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
警視庁生活安全部ゲーターズ安全対策課
帽子屋
SF
近未来。世界は新たな局面を迎えていた。生まれてくる子供に遺伝子操作を行うことが認められ始め、生まれながらにして親がオーダーするギフトを受け取った子供たちは、人類の新たなステージ、その扉を開くヒトとしてゲーターズ(GATERS=GiftedAndTalented-ers)と呼ばれた。ゲーターズの登場は世界を大きく変化させ、希望ある未来へ導く存在とされた。
そんなご大層なWiki的内容だったとしても、現実は甘くない。ゲーターズが一般的となった今も、その巨石を飲み込んだ世界の渦はいまだ落ち着くことはなく、警視庁生活安全部に新設されたゲーターズ安全対策課へ移動となった野生司は、組むことになった捜査員ロクに翻弄され、世の中の渦に右往左往しながら任務を遂行すべく奮闘する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
3024年宇宙のスズキ
神谷モロ
SF
俺の名はイチロー・スズキ。
もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。
21世紀に生きていた普通の日本人。
ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。
今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる