雪原脳花

帽子屋

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間奏曲

lamentazione(36)

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 すました顔に、折り目のないコートに傷一つない革靴。こんな寂れた地区には全く似つかわしくない、いかにも、といった風体の2人の連邦捜査官を見つけたグラハムは「おい!どういうことだ!」と、いきなり怒声をあげて食って掛かった。連邦捜査官の1人が、その声に反応し、こちらもまた、くたびれてよれたコートに緩められたネクタイ、ソウルの減った靴を履いた、いかにも、市警の殺人課の刑事然としたグラハムを一瞥した。
「これはうちのシマで起きたうちのヤマだぞ! 現場担当の俺に何の説明もなく、お前ら何してんだ!」
「ああ、グラハム刑事ですか。ご説明しようにも我々が到着したときに現場担当の方がいらっしゃらなかったもので。聞き込みにでもいってらっしゃったんですか? まさか、一服、なんてことはないですよね。この辺りは喫煙できるエリアではありませんから」
 高価そうなスーツを至極当たり前に身に付け、豊かな長い黒髪を靡かせた捜査員がモバイルでグラハムの目の前の宙へ連邦捜査官としてのIDをかざしながら答えた。
「とは言え、上ではもう話しがついているので、あなたにご説明と言っても、この事件は我々が担当するので、あなたはお引取りを。すみやかに署に戻って頂いてかまわないと、それだけです」
「なんだと……」
「ご不満でしたら、所長にどうぞ。我々に直接クレームを入れる立場に残念ながらあなたはいらっしゃらないのですから」
 声だけではなく全身で怒りを露にするグラハムに、捜査官は冷ややかに告げた。隣にいたもう1人の連邦捜査官は「それぐらいにしとけ」と、同僚を諌めると、引き下がろうとしないグラハムの目の前に掌を広げ無言で制止した。IEM(インイヤーモニター)に無線が入ったのか、捜査員二人は同時に片耳に手をやり意識をそちらに向けた。もうすでに、グラハムのことなど視界にはないようだった。
完全に無視されたグラハムは、これ以上この二人に構っていても埒が明かないと判断し、腸の煮えくりかえる思いで、その場をあとにした。
 通報を受けてこの事件現場に出動した救急車の照明を落とした車内には、車外カメラで撮影された外の様子が宙空投影されていた。2名の連邦捜査官に食って掛かった中年の口ひげ男が、苛立たしげに踵を返した様子がありありと浮かび上がっていたが、それを揶揄する声も笑う声もなく、ただひっそりと静かに宙空投影を囲むように座っていた
人間たちは眺めていた。
「撤収する」
 前方の助手席に座る救急救命士が、後方の黒尽くめの人間たちに一言告げ、運転手に車をスタートさせた。その後ろをもう一台、最新鋭の救急車が続いて現場をあとにした。
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