雪原脳花

帽子屋

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第一楽章

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 ホテルに戻り、双子に仮眠を取らせたジムはルジェットを通してミーティングを始めた。
「捕獲のタイミングはフィナーレ。仕掛けるのはダークサイドの後、次の出演者が出てくるタイミングだ。上手かみてのギタリストを囮に使う。理由はわからんが獲物はこいつを狙っている。こちらの罠にはまらなくても構わないが、用意しておくぶんにはいいだろう。罠は双子たちが取得したデータを元にちょっとした餌をまくだけだ。餌の用意はロンが、リップサービスはホリーが行け」
<了解>
<了解っす>
 イベント会場の三人は周囲に気付かれぬようルジェットを通して骨伝導でジムの話しを聴いていた。独り言は最低限にするため、口内で舌と歯を鳴らすTsk-Tokenチェックで応答する。
 「ブライアンはやつの逃走経路をしぼれ。その後双子を回収して搬出路の車で待機」
「ホリー、獲物が罠にかかったときは切穴で囮を落としたあとロンと合流して追い立てろ。箱詰めは俺がやる」
 三人からの了解を確認すると最後にジムはいつもの指示を出した。
「どこかでしくじったら、お前たち、わかってるな。双子を連れて脱出ポイントへ向かえ。最優先事項、双子を死守し自分が生きることを考えて逃げろ。いいな」
 通信を終えるとジムは煙草に火を点けた。背後のベッドでもぞもぞと音がする。
「イリヤを囮にするの?」
「聴いていたのか」
 ジムが振り返ると目を覚ました双子がベッドの上に起き上がり、そろいの姿でこちらを見ていた。
「いいかお前たち。大好きなギタリストから目を離すなよ。それから獲物からも。ギタリストにつられて獲物が罠にかかったときは、ホリーに “開けゴマオープンセサミ” と唱えるタイミングを間違えるんじゃないぞ。きっちり地獄の底へ落ちてもらわんとな」
「怪我、しないようにしてくれる?」
 エリックがベッドの端に座り、心配そうな顔でジムを見つめた。
「善処はする。心配するな」
「本当?」
 フレッドはたまらずベッドをおりてジムの前に立った。
「ああ」
「約束だよ」
「大丈夫だ。心配するな」
 ジムはフレッドの頭を撫でてやった。
「お前たちでしっかり見張ってろ。いいな」
「「うん」」


 いよいよ始まる最終日のメインイベント、そしてフィナーレに向け、メイン・ステージの周囲は騒然としていた。
「フレイムテックさん? お忙しいところすみません。ダークサイドのハケるタイミングから次のグループの転換までのパイロ側の最終確認お願いしても宜しいですか?」
 主催者側のIDを付けた小柄なスタッフはタケシのところまで案内してくれた舞台作業中の女性スタッフに礼を言い、タケシへタブレットを差し出した。
「ああ」
 タブレットにある緻密なノードツリーフローを確認したタケシは「問題ない」とサインした。
「有難うございます」
 そう礼を述べるとスタッフは次の確認作業、宙空投影チームがいる場所へと向かっていった。
<ジム。獲物は罠に>
 ホリーはルジェット経由で簡潔にジムに伝えた。ジムからは短く<了解>と返って来た。


 ヘッドライナーであるAvianが至高の歌声で天をも震わせたのではと感じさせる響きに合わせ、上空に花火が打ちあがった。きらびやかにまたたく火の花はステージの光にも似て、空に燦然と輝きそして闇に静かに消えていく。まるで空から無数の星が散らばりながら降り注いでくるかのような仕掛け花火に観客は皆息を飲んで魅入った。星屑が空から舞い降りるとイベント会場全体で大喝采が鳴り響き、割れんばかりの拍手喝采がようやく落ち着き始めた頃、メイン・ステージではフィナーレが始まった。名だたる世界のスターたちが、次々とステージに現れては終焉の挨拶とばかりに一曲を披露して次の出演者へと移り変わっていく。そして総司会がダークサイドを紹介すると大歓声の中、月からやってきた彼らはステージに現れた。


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