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第1章
もし、違う未来があったなら……
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「会いに来たぞ。ミリス」
そう言って俺は今日もあの日受け止められなかった現実を受け止める。
ミリスの入っている棺おけを撫でながら、今日あった何気ないことを話す。
俺達が話ているとたびたび、ミリスの笑い声や相槌が聞こえてくる気がする。
「そろそろ行くよ。また来るからな、ミリス」
一時間ほど話して、俺達は家へ帰ろうとする。
『もういいよ。アルフ』
懐かしい声が聞こえた――気がした。
もう聞くことができないはずの大切な人の声が。
『僕のことはもういいから。幸せになってね』
俺は急いで振り返るがそこにはただ棺桶があるだけだった。
「ああ。……わかったよ」
「? 何がわかったんですか?」
俺の車椅子を押しているシスタが不思議そうにこちらを見てくる。
「なんでもない。行こうぜ」
俺はそう言って前を向いた。
そして、俺が振り返ることはもうなかった。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
グレイアside
もうとっくに夜なのだが、アタシはどうも寝付けなくて、寝室から抜け出した。
何か暖かいものでも飲もうかしら。
そう思いながらアタシはリビングに向かう。
しかし、リビングには既に先客がいた。
「グレイア、あなたも眠れなかったんですか?」
アタシに微笑み合うかけてくる。眼帯をつけた少女、シスタだ。
「……ええ」
アタシはシスタの隣に腰掛ける。
「ねぇシスタ」
「なんでしょう?」
「もしあの時、アタシ達がミリスを止めて、アルフに合わせなければ、あの子は死なずに済んだのかしら」
アタシの言葉に、シスタは少し考えこんでから口を開く。
「そうかもしれませんが……。今更何を言っても、過去は変わりませんから」
シスタはそう言って寂しそうに笑う。
「……それもそうね」
「ええ、そうですよ」
シスタは眠そうにあくびをする。
「私はそろそろ眠くなってきました」
「そう、じゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
シスタが寝室に消えていって一人の取り残されしまったアタシはその場に突っ伏してしまう。
「もし……もし、あのクソ勇者が来なければ、アタシは達はどうなってもいたのかしら」
きっと考えるだけ無駄なことだ。
しかし、考えずにはいられない。
だって、アタシ達はもっと幸せになれるはずだった。
あの勇者が来なければアタシがアルフを傷つけることなんてなかった。
シスタが片目を失う必要なんてなかった。
ミリスが命を落とすことなんてなかった。
「……悔しいよ」
アタシは我慢できなくなり、泣いてしまった。
こんなに自分に素直になったのは何時ぶりだろう。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
「……グレイア、なんでこんなところで寝てるんだ?」
「さあ?何故でしょう?」
何故かリビングで寝ているグレイアを見ながら俺とシスタは顔を見合わせる。
「シスタ、なんか知ってるだろ」
「さあ、なんのことでしょう?」
シスタがわざとらしく首を傾ける。
可愛いなちくしょう。
「それよりも!今日の朝ごはんは私が作ったんです!冷めないうちに召し上がって下さい!」
「え!?……そういえばいい匂いが……そうだな、冷めないうちにいただくよ」
「はい。そうしてください♪」
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
いつかの今日、俺は一人の幼なじみを家の裏庭に呼んでいた。
俺は深呼吸をして、乱れた心を落ち着かせる。
「本当にいいのかな」
誰に言うわけでもなく、俺はそう呟いた。
『僕のことはもういいから。幸せになってね』
不意に、数年前のミリスの声を思い出す。
もっとも、聞こえた気がするだけなので、十中八九俺の幻聴だが、それでも俺は前に進むことにした。
もう振り返らない。
そう心に決めた。
草が踏まれる音が聞きこえてくる。
俺は車椅子を動かして、その幼なじみの方に体を向ける。
「突然呼び出して悪かったな。それで……その……」
落ち着け!俺!
ここまできてビビるな!!
俺は緊張してカチカチになった表情筋を無理やり動かして笑顔をつくる。
上手く作れていたかはわからない。
でも、今俺ができる中ではこれがベストだったと思う。
俺は再び大きく深呼吸をして――
「俺と結婚してください」
幼なじみは幸せなそうにこくんと頷き、俺の手をとってくれた。
「よろこんで」
『おめでとう。アルフ』
そう言って俺は今日もあの日受け止められなかった現実を受け止める。
ミリスの入っている棺おけを撫でながら、今日あった何気ないことを話す。
俺達が話ているとたびたび、ミリスの笑い声や相槌が聞こえてくる気がする。
「そろそろ行くよ。また来るからな、ミリス」
一時間ほど話して、俺達は家へ帰ろうとする。
『もういいよ。アルフ』
懐かしい声が聞こえた――気がした。
もう聞くことができないはずの大切な人の声が。
『僕のことはもういいから。幸せになってね』
俺は急いで振り返るがそこにはただ棺桶があるだけだった。
「ああ。……わかったよ」
「? 何がわかったんですか?」
俺の車椅子を押しているシスタが不思議そうにこちらを見てくる。
「なんでもない。行こうぜ」
俺はそう言って前を向いた。
そして、俺が振り返ることはもうなかった。
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グレイアside
もうとっくに夜なのだが、アタシはどうも寝付けなくて、寝室から抜け出した。
何か暖かいものでも飲もうかしら。
そう思いながらアタシはリビングに向かう。
しかし、リビングには既に先客がいた。
「グレイア、あなたも眠れなかったんですか?」
アタシに微笑み合うかけてくる。眼帯をつけた少女、シスタだ。
「……ええ」
アタシはシスタの隣に腰掛ける。
「ねぇシスタ」
「なんでしょう?」
「もしあの時、アタシ達がミリスを止めて、アルフに合わせなければ、あの子は死なずに済んだのかしら」
アタシの言葉に、シスタは少し考えこんでから口を開く。
「そうかもしれませんが……。今更何を言っても、過去は変わりませんから」
シスタはそう言って寂しそうに笑う。
「……それもそうね」
「ええ、そうですよ」
シスタは眠そうにあくびをする。
「私はそろそろ眠くなってきました」
「そう、じゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
シスタが寝室に消えていって一人の取り残されしまったアタシはその場に突っ伏してしまう。
「もし……もし、あのクソ勇者が来なければ、アタシは達はどうなってもいたのかしら」
きっと考えるだけ無駄なことだ。
しかし、考えずにはいられない。
だって、アタシ達はもっと幸せになれるはずだった。
あの勇者が来なければアタシがアルフを傷つけることなんてなかった。
シスタが片目を失う必要なんてなかった。
ミリスが命を落とすことなんてなかった。
「……悔しいよ」
アタシは我慢できなくなり、泣いてしまった。
こんなに自分に素直になったのは何時ぶりだろう。
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「……グレイア、なんでこんなところで寝てるんだ?」
「さあ?何故でしょう?」
何故かリビングで寝ているグレイアを見ながら俺とシスタは顔を見合わせる。
「シスタ、なんか知ってるだろ」
「さあ、なんのことでしょう?」
シスタがわざとらしく首を傾ける。
可愛いなちくしょう。
「それよりも!今日の朝ごはんは私が作ったんです!冷めないうちに召し上がって下さい!」
「え!?……そういえばいい匂いが……そうだな、冷めないうちにいただくよ」
「はい。そうしてください♪」
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
いつかの今日、俺は一人の幼なじみを家の裏庭に呼んでいた。
俺は深呼吸をして、乱れた心を落ち着かせる。
「本当にいいのかな」
誰に言うわけでもなく、俺はそう呟いた。
『僕のことはもういいから。幸せになってね』
不意に、数年前のミリスの声を思い出す。
もっとも、聞こえた気がするだけなので、十中八九俺の幻聴だが、それでも俺は前に進むことにした。
もう振り返らない。
そう心に決めた。
草が踏まれる音が聞きこえてくる。
俺は車椅子を動かして、その幼なじみの方に体を向ける。
「突然呼び出して悪かったな。それで……その……」
落ち着け!俺!
ここまできてビビるな!!
俺は緊張してカチカチになった表情筋を無理やり動かして笑顔をつくる。
上手く作れていたかはわからない。
でも、今俺ができる中ではこれがベストだったと思う。
俺は再び大きく深呼吸をして――
「俺と結婚してください」
幼なじみは幸せなそうにこくんと頷き、俺の手をとってくれた。
「よろこんで」
『おめでとう。アルフ』
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