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第一章
デート
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ファミレスを出た久場は由人の手を握り、駅に向かう。
「ちゃんと話せたね、最後の由人、かっこよかったよ」
「かっこよかったは言い過ぎ……でも言えてよかった、心が軽くなった」
「俺もやっぱりどっかで気にしてたみたいだ、今すごく気持ちが軽いよ……それで聞くんだけど、今日はまだ帰らなくても大丈夫?」
「うん、遅くならない程度なら」
「せっかくだし、デートする?」
「デート……」
「水族館、また見に行こうか、どう?」
「行きたい!」
この後のことを全く考えてなかった由人は、嬉しくて繋いでいた手をぶんぶん振る。
「ほら、そんなに振ったら手が解けちゃうよ」
そう言ってシェイクハンドつなぎから恋人繋ぎに、久場は手を握り変える。
手の握り方に名前があることを知らない由人はそのことに気付いていない。
「ほんと、かわいい……」
嬉しそうに歩く由人に聞こえないように久場は呟いた。
十月の水族館は、すっかり秋仕様で、ゲートを抜けると赤灯籠があり、夏とは違う、紅葉の葉がひらひら舞い落ちるプロジェクションマッピングも、風流な異空間を作り出していた。
クラゲエリアも、照明を抑えた暗い空間に風になびくススキが描かれ、天井からは、優しい黄色の電球が幾つもぶら下がって、秋の夜を演出している。
夏の時と同じように、由人はきらきらした瞳を水槽の中にいるクラゲに向けるが、久場の手をずっと握っている。
揺れて漂うクラゲたちが、色とりどりの照明に染まっていくのを由人と久場は黙って眺めていた。
1時間ほど経って、久場は由人を呼ぶ。
「ごめん、癒し効果が凄すぎて眠くなってきた、移動しよう」
「うん……分かった」
由人の手を引いて久場が歩き出す。
「調べたらさ、もっといろんな種類のクラゲがたくさんいる水族館もあったから、今度はそっちに行ってみよう」
「いいの?」
「いいよ、ご褒美デートだ」
「ご褒美デート……すごい……」
「その為にも、勉強頑張ろうな……次の模試は十二月だから、次は、クリスマスデートだな、おお、俄然やる気が出てきた」
「クリスマスデート……」
由人は頬を赤らめた。
クラゲエリアを出て、ロマンチックな館内を歩けばたくさんのカップルとすれ違う。
自分たちは、側から見たらどんな風に見られるのだろうか。
仲のいい友達、もしかしたら仲のいい兄弟かもしれない。
きっと恋人同士には見えないだろう……
そういう風に見られたい訳ではないし、久場は、今も手を握って、話しかけてくれる。
他人から、どう見られようと、自分たちが付き合っているんだという実感も自覚も、もうあるし、それ以上を求めてしまうのは、はしたない気もする。
学校では、友達のふりをするけれど、二人きりになったり、ビデオ通話では「好きだ」と、久場は言ってくれる。
由人は歩きながら、ファミレスでの、久場の言葉を思い出す。
離さない、大事だ、傷付けない、何度も好きと言ってくれた、そして僕が欲しいとも言ってくれた。
欲しいとは……久場にとってどういうものなのだろうか。
いずれ手を出す、とは……いつ、どんな風になのだろうか。
卒業までは、手を繋ぐだけなのだろうか。ご褒美デートはしても、もうあのご褒美の、ぎゅーはしてくれないのだろうか。
僕が欲しがっていいのだろうか、そんなこと言ったら嫌われてしまうのではないだろうか。
僕が欲しがってるものと、久場が欲しがってるものは同じなのだろうか。
自分はいったいどこまで久場を好きになっていいのだろうか。
久場は、いつも優しくて、真っ直ぐな愛情表現をしてくれるけれど……分からないことがある。
「由人、どうした、眉間にしわ出来てるぞ、何か考えてるだろう?」
前回は、きらきら瞳を輝かせて見ていた大きなトンネル水槽に来ても、上の空な由人に、久場が声をかける。
由人は立ち止まり久場を見上げた。
「久場くん、話したいことがあります」
「ん、何、言ってみて」
「ここは人が多くて落ち着かない、話せない」
「そうか……出ようか」
「はい」
短い返事の後、由人はきゅっと下唇を噛む。
久場を信じて正直な気持ちを伝えようと、強い決意を持ち、久場の後を歩いた。
水族館を出ると、昼間より少しだけ肌寒く感じる。
それでもまだ夕暮れにはまだ早く、秋の空にはうろこ雲が並んでいる。
「どうしようか、歩きながら話す? 由人の家に帰る?」
久場が駅への道を歩きながら言う。
由人は立ち止まり、振り返った久場をじっと見つめる。
帰って見つめ合いながら話したいけれど、今日は、母も姉も家にいる。
「家は家族がいるから……でも駅では話したくない」
「分かった、海が見える公園があるんだけど……そこに行く?」
「海……うん、そこがいい!」
「よし、実は由人と行きたいところだったんだ……嬉しい」
「ほんとに……」
「うん、ちょっとだけ電車に乗るから、駅行こうか」
歩きはじめた久場の握りしめた手は温かく、由人は安心をする。
もし、二人の欲しいものが違う形でも、その時は久場に寄り添えばいいだけで、この手の温かさがあればいいと思う。
「早く話したい、急ごう久場くん」
急に前に出て、由人が早歩きで久場の手を引く。
「俺が背負って走ろうか、そっちの方が早いよ」
久場がくすくすと笑いながら言う。
揶揄われながらも嬉しくて由人はずんずんと歩いた。
「ちゃんと話せたね、最後の由人、かっこよかったよ」
「かっこよかったは言い過ぎ……でも言えてよかった、心が軽くなった」
「俺もやっぱりどっかで気にしてたみたいだ、今すごく気持ちが軽いよ……それで聞くんだけど、今日はまだ帰らなくても大丈夫?」
「うん、遅くならない程度なら」
「せっかくだし、デートする?」
「デート……」
「水族館、また見に行こうか、どう?」
「行きたい!」
この後のことを全く考えてなかった由人は、嬉しくて繋いでいた手をぶんぶん振る。
「ほら、そんなに振ったら手が解けちゃうよ」
そう言ってシェイクハンドつなぎから恋人繋ぎに、久場は手を握り変える。
手の握り方に名前があることを知らない由人はそのことに気付いていない。
「ほんと、かわいい……」
嬉しそうに歩く由人に聞こえないように久場は呟いた。
十月の水族館は、すっかり秋仕様で、ゲートを抜けると赤灯籠があり、夏とは違う、紅葉の葉がひらひら舞い落ちるプロジェクションマッピングも、風流な異空間を作り出していた。
クラゲエリアも、照明を抑えた暗い空間に風になびくススキが描かれ、天井からは、優しい黄色の電球が幾つもぶら下がって、秋の夜を演出している。
夏の時と同じように、由人はきらきらした瞳を水槽の中にいるクラゲに向けるが、久場の手をずっと握っている。
揺れて漂うクラゲたちが、色とりどりの照明に染まっていくのを由人と久場は黙って眺めていた。
1時間ほど経って、久場は由人を呼ぶ。
「ごめん、癒し効果が凄すぎて眠くなってきた、移動しよう」
「うん……分かった」
由人の手を引いて久場が歩き出す。
「調べたらさ、もっといろんな種類のクラゲがたくさんいる水族館もあったから、今度はそっちに行ってみよう」
「いいの?」
「いいよ、ご褒美デートだ」
「ご褒美デート……すごい……」
「その為にも、勉強頑張ろうな……次の模試は十二月だから、次は、クリスマスデートだな、おお、俄然やる気が出てきた」
「クリスマスデート……」
由人は頬を赤らめた。
クラゲエリアを出て、ロマンチックな館内を歩けばたくさんのカップルとすれ違う。
自分たちは、側から見たらどんな風に見られるのだろうか。
仲のいい友達、もしかしたら仲のいい兄弟かもしれない。
きっと恋人同士には見えないだろう……
そういう風に見られたい訳ではないし、久場は、今も手を握って、話しかけてくれる。
他人から、どう見られようと、自分たちが付き合っているんだという実感も自覚も、もうあるし、それ以上を求めてしまうのは、はしたない気もする。
学校では、友達のふりをするけれど、二人きりになったり、ビデオ通話では「好きだ」と、久場は言ってくれる。
由人は歩きながら、ファミレスでの、久場の言葉を思い出す。
離さない、大事だ、傷付けない、何度も好きと言ってくれた、そして僕が欲しいとも言ってくれた。
欲しいとは……久場にとってどういうものなのだろうか。
いずれ手を出す、とは……いつ、どんな風になのだろうか。
卒業までは、手を繋ぐだけなのだろうか。ご褒美デートはしても、もうあのご褒美の、ぎゅーはしてくれないのだろうか。
僕が欲しがっていいのだろうか、そんなこと言ったら嫌われてしまうのではないだろうか。
僕が欲しがってるものと、久場が欲しがってるものは同じなのだろうか。
自分はいったいどこまで久場を好きになっていいのだろうか。
久場は、いつも優しくて、真っ直ぐな愛情表現をしてくれるけれど……分からないことがある。
「由人、どうした、眉間にしわ出来てるぞ、何か考えてるだろう?」
前回は、きらきら瞳を輝かせて見ていた大きなトンネル水槽に来ても、上の空な由人に、久場が声をかける。
由人は立ち止まり久場を見上げた。
「久場くん、話したいことがあります」
「ん、何、言ってみて」
「ここは人が多くて落ち着かない、話せない」
「そうか……出ようか」
「はい」
短い返事の後、由人はきゅっと下唇を噛む。
久場を信じて正直な気持ちを伝えようと、強い決意を持ち、久場の後を歩いた。
水族館を出ると、昼間より少しだけ肌寒く感じる。
それでもまだ夕暮れにはまだ早く、秋の空にはうろこ雲が並んでいる。
「どうしようか、歩きながら話す? 由人の家に帰る?」
久場が駅への道を歩きながら言う。
由人は立ち止まり、振り返った久場をじっと見つめる。
帰って見つめ合いながら話したいけれど、今日は、母も姉も家にいる。
「家は家族がいるから……でも駅では話したくない」
「分かった、海が見える公園があるんだけど……そこに行く?」
「海……うん、そこがいい!」
「よし、実は由人と行きたいところだったんだ……嬉しい」
「ほんとに……」
「うん、ちょっとだけ電車に乗るから、駅行こうか」
歩きはじめた久場の握りしめた手は温かく、由人は安心をする。
もし、二人の欲しいものが違う形でも、その時は久場に寄り添えばいいだけで、この手の温かさがあればいいと思う。
「早く話したい、急ごう久場くん」
急に前に出て、由人が早歩きで久場の手を引く。
「俺が背負って走ろうか、そっちの方が早いよ」
久場がくすくすと笑いながら言う。
揶揄われながらも嬉しくて由人はずんずんと歩いた。
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