11 / 36
第一章
溢れる
しおりを挟む
由人は沈んでいく気持ちを誰にも悟られないように、体育祭中は、気を張り口角を上げていた。
久場は午後の部も大活躍で、組対抗リレーでもアンカーを走る。そしてもちろん1番にゴールする。
由人は、スタンド席で歓喜する大勢と同じように拍手をする。
そんなにキラキラしないで、久場くんがかっこいいのはもう分かってるから……苦しいよ。
笑顔を作りながら、由人は満身創痍だった。
体育祭は大いに盛り上がり、青組は優勝した。
高校生活、最後の体育祭で優勝したことに、クラス全体が興奮した。三の五は、放課後に教室で打ち上げをすることになった。
由人は疲れ果てて、打ち上げには参加しなかった。
早恵子達は、少しだけでも参加したらと、誘ってくれたが「頑張りすぎて疲れた、もうヘトヘト」と笑って断った。
幸いなのは、あちこちで呼び止められているだろう久場とすれ違わなかったことだ。
体育祭が終われば、受験勉強に本腰を入れなければいけない時期だ。
教室で打ち上げなんて、もうこの先にないイベントだ。僕だって参加出来たらよかったと思う。雛ちゃんにも「かっこよかったよ」と言いたかった。パネルの準備を一緒にしたクラスメイトともたくさん話をしたかった。
でもそれ以上に、今日はもう、久場の顔を見て長く話すことが上手く出来る自信がなかった。
早く家に帰りたかった。
電車に乗る頃、久場からメッセージアプリに通知が届く。
[由人がいなくて寂しい、ずっと頑張ってくれてありがとう、ゆっくり休めよ]と、由人を労う言葉だった。返信はしなかった。
まだ人前だ。気持ちをしっかり持たなければいけない。
すぐにスマホを制服のポケットに入れ、車窓を流れていく景色を眺める。
ガタガタゴトゴト、耳を澄ませ揺れる電車の音に集中した。
マンションの自転車置き場に自転車を置き、階段を駆け上がる。
鍵を開け、逃げ込むように家に入る。
時間は十六時半過ぎ。まだ家族は帰って来ていない、誰もいない。
「ああ、ぁぁぁ……あああーーー」
声を出したら、だめで、胸が苦しくて息が上手く出来ない。
部屋に入り、ベッドに泣き崩れた。
ざわめく心を自分でも止められない、涙が次から次に溢れ出る。
「ひぁ、ぅぅぅ、ふぇっ、うう……あーーー、どうして……嫌だぁ、こんなのやだぁ……うっ、うぐっ僕は、ばかだぁ……あああーーー」
布団を被り、頭を掻きむしりジタバタともがく。
苦し過ぎて何を口走っているのかももう分からない。苦しさの塊を、体から出しても心臓がぎゅっとなってまた苦しくなる。
なのに……その辛さの深い方へ、自分から溺れていく。
苦しさの元凶は久場大也。
心臓を握りつぶしているのも、彼の無慈悲で大きな手なのだ。
「久場くん……」
優しい久場くん、よく笑う久場くん、僕を軽々背負う久場くん、足が長い久場くん、久場くんのつむじ、僕を弟のようだと言う久場くん、博愛主義で優柔不断な久場くん、家族が大好きな久場くん、太陽の光がよく似合う久場くん、キラキラ輝いていた体育祭の久場くん、鉢巻を僕に巻かせる久場くん。
どれも優しくて酷い久場くん。
明日は日曜日で月曜日も代休だ。どんなに泣き腫らしてもいい。
「久場くん……久場くん」この部屋で切なく声にしても誰にも聞こえない。責められない。
誰も見ていないのに、布団ですっぽり身を隠して、何度も名前を呼ぶ。
その度に胸が締め付けられる。
恋がこんなに苦しく切なく、甘いなんて知らなかった。
唇から漏れ出す息は、焦がれた恋心のように熱い。
『鉢巻はお前にしてもらうって決めてた』なんでそんなことを言うの?
友達にもならなければ、以前のように遠い憧れだけ抱いていればこんなに泣くこともなかった。
それでも、僕は今日、彼の髪を触り、団長の鉢巻を巻いた。
アポロンはその頭に常に月桂樹の冠を着けている。
あの鉢巻は、僕にとっては月桂樹の冠。あの栄光を僕だけのもの。
ぽろぽろと、涙が溢れ出る。
報われない恋の辛さも、きらきらした思い出も、久場くんがいなかったら、僕の身には降ってくることのない光なんだ。
自覚した恋はもう消せないけれど、この気持ちは僕だけの秘密。
隠していれば、今まで通り友達でいられる。
学校では笑っていられるように、今だけ……思いっきり泣こう。
久場は午後の部も大活躍で、組対抗リレーでもアンカーを走る。そしてもちろん1番にゴールする。
由人は、スタンド席で歓喜する大勢と同じように拍手をする。
そんなにキラキラしないで、久場くんがかっこいいのはもう分かってるから……苦しいよ。
笑顔を作りながら、由人は満身創痍だった。
体育祭は大いに盛り上がり、青組は優勝した。
高校生活、最後の体育祭で優勝したことに、クラス全体が興奮した。三の五は、放課後に教室で打ち上げをすることになった。
由人は疲れ果てて、打ち上げには参加しなかった。
早恵子達は、少しだけでも参加したらと、誘ってくれたが「頑張りすぎて疲れた、もうヘトヘト」と笑って断った。
幸いなのは、あちこちで呼び止められているだろう久場とすれ違わなかったことだ。
体育祭が終われば、受験勉強に本腰を入れなければいけない時期だ。
教室で打ち上げなんて、もうこの先にないイベントだ。僕だって参加出来たらよかったと思う。雛ちゃんにも「かっこよかったよ」と言いたかった。パネルの準備を一緒にしたクラスメイトともたくさん話をしたかった。
でもそれ以上に、今日はもう、久場の顔を見て長く話すことが上手く出来る自信がなかった。
早く家に帰りたかった。
電車に乗る頃、久場からメッセージアプリに通知が届く。
[由人がいなくて寂しい、ずっと頑張ってくれてありがとう、ゆっくり休めよ]と、由人を労う言葉だった。返信はしなかった。
まだ人前だ。気持ちをしっかり持たなければいけない。
すぐにスマホを制服のポケットに入れ、車窓を流れていく景色を眺める。
ガタガタゴトゴト、耳を澄ませ揺れる電車の音に集中した。
マンションの自転車置き場に自転車を置き、階段を駆け上がる。
鍵を開け、逃げ込むように家に入る。
時間は十六時半過ぎ。まだ家族は帰って来ていない、誰もいない。
「ああ、ぁぁぁ……あああーーー」
声を出したら、だめで、胸が苦しくて息が上手く出来ない。
部屋に入り、ベッドに泣き崩れた。
ざわめく心を自分でも止められない、涙が次から次に溢れ出る。
「ひぁ、ぅぅぅ、ふぇっ、うう……あーーー、どうして……嫌だぁ、こんなのやだぁ……うっ、うぐっ僕は、ばかだぁ……あああーーー」
布団を被り、頭を掻きむしりジタバタともがく。
苦し過ぎて何を口走っているのかももう分からない。苦しさの塊を、体から出しても心臓がぎゅっとなってまた苦しくなる。
なのに……その辛さの深い方へ、自分から溺れていく。
苦しさの元凶は久場大也。
心臓を握りつぶしているのも、彼の無慈悲で大きな手なのだ。
「久場くん……」
優しい久場くん、よく笑う久場くん、僕を軽々背負う久場くん、足が長い久場くん、久場くんのつむじ、僕を弟のようだと言う久場くん、博愛主義で優柔不断な久場くん、家族が大好きな久場くん、太陽の光がよく似合う久場くん、キラキラ輝いていた体育祭の久場くん、鉢巻を僕に巻かせる久場くん。
どれも優しくて酷い久場くん。
明日は日曜日で月曜日も代休だ。どんなに泣き腫らしてもいい。
「久場くん……久場くん」この部屋で切なく声にしても誰にも聞こえない。責められない。
誰も見ていないのに、布団ですっぽり身を隠して、何度も名前を呼ぶ。
その度に胸が締め付けられる。
恋がこんなに苦しく切なく、甘いなんて知らなかった。
唇から漏れ出す息は、焦がれた恋心のように熱い。
『鉢巻はお前にしてもらうって決めてた』なんでそんなことを言うの?
友達にもならなければ、以前のように遠い憧れだけ抱いていればこんなに泣くこともなかった。
それでも、僕は今日、彼の髪を触り、団長の鉢巻を巻いた。
アポロンはその頭に常に月桂樹の冠を着けている。
あの鉢巻は、僕にとっては月桂樹の冠。あの栄光を僕だけのもの。
ぽろぽろと、涙が溢れ出る。
報われない恋の辛さも、きらきらした思い出も、久場くんがいなかったら、僕の身には降ってくることのない光なんだ。
自覚した恋はもう消せないけれど、この気持ちは僕だけの秘密。
隠していれば、今まで通り友達でいられる。
学校では笑っていられるように、今だけ……思いっきり泣こう。
24
あなたにおすすめの小説
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
俺を注意してくる生徒会長の鼻を明かしてやりたかっただけなのに
たけむら
BL
真面目(?)な生徒会長×流されやすめなツンデレ男子高校生。そこに友達も加わって、わちゃわちゃの高校生活を送る話。
ネクタイをつけてこないことを毎日真面目に注意してくる生徒会長・伊佐野のことを面白がっていた水沢だったが、実は手のひらの上で転がされていたのは自分の方だった? そこに悪友・秋山も加わってやいのやいのにぎやか(?)な高校生活を送る話。
楽しんでいただけますように。どうぞよろしくお願いします。
幼なじみの友達に突然キスされました
光野凜
BL
『素直になれない、幼なじみの恋』
平凡な俺、浅野蒼にはイケメンでクラスの人気者な幼なじみ、佐伯瑛斗がいる。
家族ぐるみの付き合いのせいか、瑛斗は昔から距離感がおかしくて、何かと蒼にベッタリ。けれど、蒼はそれを“ただの友情”だと思っていた。
ある日、初めての告白に浮かれていると、瑛斗から突然キスされて......!?
「蒼のことが好きだ」
「お前が他の奴と付き合うのは耐えられない」
友達だと思っていた関係が一気に変わり、戸惑いながらも瑛人の一途で甘い想いに少しずつ心が揺れていく。
しかし、素直になれない蒼は最後の一歩が踏み出せずにいた。
そんなとき、ふたりの関係に”あるトラブル”が訪れて......。
じれったくて、思わず応援したくなるふたりのピュアな青春ラブストーリー。
「......蒼も、俺のこと好きになってよ」
「好きだ。好きだよ、蒼」
「俺は、蒼さえいればいい」
どんどん甘く、独占欲を隠さなくなる瑛斗に、戸惑いながらも心が揺れていく。
【一途で独占欲強めな攻め × 不器用で素直になれない受け】
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜
なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」
男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。
ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。
冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。
しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。
「俺、後悔しないようにしてんだ」
その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。
笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。
一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。
青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。
本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる