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遠くて近い
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何回も何回も人生をやり直した。全ては貴女を助ける為に。でも、結局は助からなかった。助けきれなかった。こんなにも地獄が続くのなら一層の事・・・・。
男がそう思う。累計にして数千年前に遡る。
男は恋をしていた。男に甲斐性は無く、コレと言って容姿も普通で、取り柄もない冴えない男。世の男性より秀でてるのは頭の良さだけであった。やる事は研究以外無い。趣味は、小学生の時から難しい本を読むのが好きだった。他の子達が遊んでる暇があるのなら、男は何らかのロボットを作ったり、設計したりしていた。親はそれでも良かった。寧ろ、天才だと喜んだ。そんな男の心に芽が咲くのは15歳の高校生活を送っていた時、1人の同級生に恋が芽生えた。天才の中の秀才を持ってしても、恋の設計図を組み立てる事は出来ずにいた。それから5年後、彼女は事故で死んだ。20歳の若さである。これから先、色んな研究もして、恋や、結婚や、子供、人生の荒波の中、苦悩の末、立派な淑女となり、やがては幸せな死を迎えるだろう、そんな明るい未来を信じて疑わない中の現実であった。男は初めて、運命と神様を憎んだ。
「神様のサイコロだろうが、この事象は容認出来ない」
そこから男の孤独な闘いが始まった。まずはタイムマシンを作りあげた。20年掛けて完成させた。戻るのは、もちろん20年前。事故を未然に防ぐ事だ。しかし、驚く事が起きた。過去に戻れたのはいいが、身体が20歳の時と同じなのだ。若返っている。しかも、タイムマシンは跡形も無くなり、もう1人の自分もこの世界には居なかったのだ。
「コレはタイムパラドックスなのか?非常に興味深い」
などと、感心してる場合じゃない。彼女を助けに行かなくては。思ってる以上に男は冷静であった。
「たしか、この場所で、、、」
見通しの良い、普通の街の普通の交差点。時間は十分にあった。彼女を待ち伏せして、事故直前に声をかける。本来の死ぬ時間を過ぎさえすれば問題ないはずである。これで、無意味な死は避けられる。時間をズラす。たったこれだけで加害者の未来も、被害者の未来も救えるのだ。新しい未来の道が拓けるはずだ。男は少しだけ、高揚感を感じていた。そんな時、悲鳴と、けたたましいブレーキ音、そして、聞いたこともない鈍い音が耳にまとわりついた。
途切れる息音と、心音と、耳鳴りが周りの雑音をかき消し、ヨタヨタと事故現場に向かう。そして、膝から崩れて落ち、ゲロを吐きながら顔を揉みくちゃにした。
(バカな、、、時間は十分にあった。間に合っていた。どこで情報を間違えた?いや、時間も情報も正確だった、万が一の間違い?ふざけるな!!彼女を救う為にどれだけの計画とパターンを考えたと思っている!!ふざけるな!ふざけるな!馬鹿が!)
絶対に彼女を救う。絶対に救う。それは男の中の確定事項。男にとって、彼女の幸せこそが自分の目標である。男は奮い立った。それからまた20年かけてタイムマシンを作り、ここに戻ってきた。だが、やはり彼女の死は絶対に避けられなかった。それを累計数千年続けた。男は最早何が何だか分からないほどおかしくなっていった。
「どうしても救えない、、、人間では、死神に勝てないのか、、、色々試した。話しかけたり、足止めしたり、時間をズラしたり、でも20歳で絶対に死ぬ。なんて無力なんだ、、、もう涙すら出ない。やり尽くした。もう、、俺は死のう。好きな人1人も守れやしない俺はせめて彼女の元へ一緒に旅だってあげよう。うう、、、苦しい、胸が苦しい、、、こんなにも地獄が続くのなら一層の事、彼女に想いを、、、」
なけなしの心で、最後のワガママを神様に祈り、高校生の時の、あの春の日まで遡る。コレが最後の生きる糧だった。
そして
「僕は!貴女が好きです!」
「僕は!貴女が猫好きだと言うのも好きです!」
「僕は!貴女の本を読む姿勢が好きです!」
「僕は!貴女の何気ない会話の中のふとした笑顔が好きです!」
「僕は!貴女の性格が好きです!」
「僕は!貴女の健気な所が好きです!」
「僕は!貴女の髪型も好きです!」
「僕は!貴女の声も好きです!」
「僕は!貴女のちょっと冷たいけど、相手を思いやるあまりの冷たさも好きです!」
「僕は!貴女の事が、好きなんです!好きすぎて好きと言う言葉が陳腐なくらい大好きなんです!!」
「だから、僕は!もっと貴女の事を知りたい!!」
男は、ありったけの想いを彼女にぶつけた。数千年分。コレで、思い残す事は無い。枯れたはずの涙も湧き水のように溢れ出し、なんともカッコ悪い告白となった。しかし、そんな男を横目に彼女は言った
「わかりました。あの、、、そ、そんなに泣かなくてもいいんじゃない?フフフ」
そう言う彼女の顔は向日葵のように明るく、太陽のように赤かった。
そして、、、死が迎えにやってきた。
「あなた、覚えてます?桜の木の下で私にたくさん好きと言ってくれた事」
「あの時ね、死ぬほど嬉しかったの。15歳って言う若い女のくせに、人生はつまらないなんて思ってたんですよ?フフフ、馬鹿な女でしょう?」
「でもね、あなたが必死で告白してくれてね、涙まで流しながら。私、とても嬉しかった。心地よい恥ずかしさがね、胸をギューっと締め付けてね、空が一段と綺麗に輝き始めたの。男にはわからないでしょう?」
「ありがとうございます。あなたが私のために愛を告げて、私は幸せでした。だから、、、どうか、、ユックリと、、、ね、身体を休めて下さいね、、」
男の顔はとても満足そうだった。これ以上の幸せは無いだろう。医者もとても驚いていた。こんなに幸せそうな死顔は初めてだと。男の生涯は87歳で幕を閉じた。
男がそう思う。累計にして数千年前に遡る。
男は恋をしていた。男に甲斐性は無く、コレと言って容姿も普通で、取り柄もない冴えない男。世の男性より秀でてるのは頭の良さだけであった。やる事は研究以外無い。趣味は、小学生の時から難しい本を読むのが好きだった。他の子達が遊んでる暇があるのなら、男は何らかのロボットを作ったり、設計したりしていた。親はそれでも良かった。寧ろ、天才だと喜んだ。そんな男の心に芽が咲くのは15歳の高校生活を送っていた時、1人の同級生に恋が芽生えた。天才の中の秀才を持ってしても、恋の設計図を組み立てる事は出来ずにいた。それから5年後、彼女は事故で死んだ。20歳の若さである。これから先、色んな研究もして、恋や、結婚や、子供、人生の荒波の中、苦悩の末、立派な淑女となり、やがては幸せな死を迎えるだろう、そんな明るい未来を信じて疑わない中の現実であった。男は初めて、運命と神様を憎んだ。
「神様のサイコロだろうが、この事象は容認出来ない」
そこから男の孤独な闘いが始まった。まずはタイムマシンを作りあげた。20年掛けて完成させた。戻るのは、もちろん20年前。事故を未然に防ぐ事だ。しかし、驚く事が起きた。過去に戻れたのはいいが、身体が20歳の時と同じなのだ。若返っている。しかも、タイムマシンは跡形も無くなり、もう1人の自分もこの世界には居なかったのだ。
「コレはタイムパラドックスなのか?非常に興味深い」
などと、感心してる場合じゃない。彼女を助けに行かなくては。思ってる以上に男は冷静であった。
「たしか、この場所で、、、」
見通しの良い、普通の街の普通の交差点。時間は十分にあった。彼女を待ち伏せして、事故直前に声をかける。本来の死ぬ時間を過ぎさえすれば問題ないはずである。これで、無意味な死は避けられる。時間をズラす。たったこれだけで加害者の未来も、被害者の未来も救えるのだ。新しい未来の道が拓けるはずだ。男は少しだけ、高揚感を感じていた。そんな時、悲鳴と、けたたましいブレーキ音、そして、聞いたこともない鈍い音が耳にまとわりついた。
途切れる息音と、心音と、耳鳴りが周りの雑音をかき消し、ヨタヨタと事故現場に向かう。そして、膝から崩れて落ち、ゲロを吐きながら顔を揉みくちゃにした。
(バカな、、、時間は十分にあった。間に合っていた。どこで情報を間違えた?いや、時間も情報も正確だった、万が一の間違い?ふざけるな!!彼女を救う為にどれだけの計画とパターンを考えたと思っている!!ふざけるな!ふざけるな!馬鹿が!)
絶対に彼女を救う。絶対に救う。それは男の中の確定事項。男にとって、彼女の幸せこそが自分の目標である。男は奮い立った。それからまた20年かけてタイムマシンを作り、ここに戻ってきた。だが、やはり彼女の死は絶対に避けられなかった。それを累計数千年続けた。男は最早何が何だか分からないほどおかしくなっていった。
「どうしても救えない、、、人間では、死神に勝てないのか、、、色々試した。話しかけたり、足止めしたり、時間をズラしたり、でも20歳で絶対に死ぬ。なんて無力なんだ、、、もう涙すら出ない。やり尽くした。もう、、俺は死のう。好きな人1人も守れやしない俺はせめて彼女の元へ一緒に旅だってあげよう。うう、、、苦しい、胸が苦しい、、、こんなにも地獄が続くのなら一層の事、彼女に想いを、、、」
なけなしの心で、最後のワガママを神様に祈り、高校生の時の、あの春の日まで遡る。コレが最後の生きる糧だった。
そして
「僕は!貴女が好きです!」
「僕は!貴女が猫好きだと言うのも好きです!」
「僕は!貴女の本を読む姿勢が好きです!」
「僕は!貴女の何気ない会話の中のふとした笑顔が好きです!」
「僕は!貴女の性格が好きです!」
「僕は!貴女の健気な所が好きです!」
「僕は!貴女の髪型も好きです!」
「僕は!貴女の声も好きです!」
「僕は!貴女のちょっと冷たいけど、相手を思いやるあまりの冷たさも好きです!」
「僕は!貴女の事が、好きなんです!好きすぎて好きと言う言葉が陳腐なくらい大好きなんです!!」
「だから、僕は!もっと貴女の事を知りたい!!」
男は、ありったけの想いを彼女にぶつけた。数千年分。コレで、思い残す事は無い。枯れたはずの涙も湧き水のように溢れ出し、なんともカッコ悪い告白となった。しかし、そんな男を横目に彼女は言った
「わかりました。あの、、、そ、そんなに泣かなくてもいいんじゃない?フフフ」
そう言う彼女の顔は向日葵のように明るく、太陽のように赤かった。
そして、、、死が迎えにやってきた。
「あなた、覚えてます?桜の木の下で私にたくさん好きと言ってくれた事」
「あの時ね、死ぬほど嬉しかったの。15歳って言う若い女のくせに、人生はつまらないなんて思ってたんですよ?フフフ、馬鹿な女でしょう?」
「でもね、あなたが必死で告白してくれてね、涙まで流しながら。私、とても嬉しかった。心地よい恥ずかしさがね、胸をギューっと締め付けてね、空が一段と綺麗に輝き始めたの。男にはわからないでしょう?」
「ありがとうございます。あなたが私のために愛を告げて、私は幸せでした。だから、、、どうか、、ユックリと、、、ね、身体を休めて下さいね、、」
男の顔はとても満足そうだった。これ以上の幸せは無いだろう。医者もとても驚いていた。こんなに幸せそうな死顔は初めてだと。男の生涯は87歳で幕を閉じた。
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