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『転バエ外伝〜忍者〜』

「父とクチナシ」

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クチナシの能力は、それはとても恐ろしい物だった。自分の感情を殺すのには時間がかかるものだが、クチナシは若干5歳で人を殺した。クチナシだけは、赤子の時から心が読めなかった。すでに心が無いのかも知れない。戦闘技術においても、飲み込みが人一倍早いくらいに思っていた。だが、違った。疑惑は確信に変わった時、やはりコイツは神の子、もしくは悪魔の子だと感じた。人の動きなんて、一朝一夕で身につく事は無い。本人の無意識の癖というものがある。初動で力む者、一息着いてから構える者、クチナシは全く同じタイミングで真似していた。忍法や忍術なんてスキだらけで、対人戦闘では決して向かない戦い方だが、虚を作り、相手が引っかかる戦法を取ることが出来る。が、クチナシには2度目は通じなかった。


身体作りが以上に早い。郷のどの子供よりも筋肉の付き方が異常だ。魔物、獣、怪物、物の怪、果たして、俺はコイツを人の子として育てあげられるのだろうか。7歳を迎えたクチナシを俺は止める事が出来るのだろうか。もし、郷に被害をもたらす悪であらば、全力でクチナシを殺さなくてはいけない。これ以上は、俺の力では無理かも知れない。知識を、技術を、全てを教えた時には、もう、俺の手には追えない強敵になるやもしれん。それでも、俺はクチナシを育てるのか、、、こんなにも先が読めないのが不安だとはな、、、この俺が不安を感じてるのか。我ながら弱気な事を思うとはな、呆れた。


若干10歳にして、多対1の訓練、殺気の見せ方、隠し方、誘い方、相手が自分よりも優れた戦士、忍びとの戦い方、もう、郷の者達では相手にならず、郷でもクチナシと恐れられるようになっていた。クチナシを殺すなら今しかない。これ以上は、俺でも勝てなくなるだろう。俺のやり方は、、、育て方は正しくはない。いかんな。最近はどうもクチナシの事ばかりを考えてしまう。本当に忍びらしく無い。我ながら呆れてしまう。


11歳。修行の一環で、敢えて隠れながら殺気を漂わせたりしたのだが、本気の殺気と、殺す気の無い殺気を読み取っていた。身構える事なく、目的の人物だけを捉えて仕留めていた。それだけでは無く、殺気のある罠、抜けられる罠、それさえも見抜き、逆に欺いて、遂には俺を超えた。11年。もしかしたら、もっと早めに俺を超える事が出来てたのかもしれない。ここまで来ると、もう俺には絶対にクチナシは殺せない。妙な満足感があった。息子だから?弟子だから?郷を任せられるから?違う。どれもこれも違う。俺は、死にたかったのだ。赤子を拾った、いや、神の存在を意識してしまったあの時。自分を人間だと認識してしまったあの時。俺は特別な存在だと、高を括っていたのだ。心の奥底で、俺は得体の知れない何かの駒にしかすぎないのだと気がついたのだ。11年かけて、ようやく答えが見つかった。明日がその時なのだ・・・・

・・・・・・・

クチナシは何も感じ無かった。普通の人間ならば、この日記を読み終えたあとに、心に響く何かがあるはずなのに。真っ黒。月が無い夜と同じ。風すら吹いて来ない無の空間。真実の目なんて何処にも無いかった。



長を失った郷は大混乱に陥った。

「拾ってやった子供が親を殺した」
「やはり悪魔の子か」
「コイツを殺せー!!」

似たような事を口走る。だが、クチナシには関係の無い事。吹き荒ぶ鮮血の霧を朧月に変え、一粒の血汗を身に纏う事なく優雅に殺すクチナシはとても綺麗であった。肌寒い春風が静まる晩、郷には、クチナシ1人しかいなかった。無言で月を眺めているクチナシをただ、カラスだけが遠くから見つめていた。

・・・・・・そらから時は経ち。

噂とはどこ吹く風で、何者かが、最強の忍者集団を殺したと、各国に触れ回っていた。その後から、名だたる忍者や戦士や侍や魔法使い達が悪魔を討たんと森に入って行ったが、誰一人帰って来る事はなかった。


少年は15歳になっていた。悪魔の棲む森と謳うその場所にずっと1人でいた。あの夢を見るまでは。




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