【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月

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百合風エピローグ

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 ひと時の悩ましい惑乱の時間が過ぎ去った後も、エルフィンは寝台から起き上がる気力もなく、濁った瞳で天井を見つめながら汚れた身体を投げ出していた。
 生き物の体液や老廃物を主な主食とするスライム族の中でも、この階層に放たれているスライムは殊に綺麗好きの様子で、だから本当には汚れているわけではないのだろうけれど。獲物を強制発情させる粘液は種に共通のもので、いつまでも体の内側を疼かせる濡れた感触が、エルフィンの全身を苛んでいた。

(解毒の術を使えば)

 動けるようになることは解っている。回復の術を重ねれば、効果はより顕著であるだろうことも。
 エルフィンを縛っていた、忌まわしい魔封じの首輪は、ここに運び込まれるよりも前に取り外された。だからこの程度のバッドステータスなど、自力での治癒は可能なはずだった。
 閉じ込められているわけではないのだ。動く意志さえあれば、自分の足で階を上がって。外を、故郷を、目指せばいい。――けれど。

「……帰り着いた、ところで」

 いつ振りとも知れない、嬌声ではない自分の声は、ひどくかすれて弱々しかった。
 抵抗を諦めて、もうどれくらいになるだろう。日々の研鑽を忘れた身体は気怠く、性的に開発され切った裸体は、もう二度と人前に晒すことはできないだろう。
 どれほど平静を装ったところで、少しでも性的な行為を匂わされれば、この身体はすぐにでも肉欲に屈するだろう。いつ、みっともなく雄の情けを請うとも知れない、爛れた身体を引きずって。どうして何食わぬ顔で戻ることができるだろうか。そう物思った端から、熱く疼いた尻穴の欲求に、エルフィンは悩ましく身を捩った。
 スライムに犯されたばかりの最奥が、はしたなくも閉じ切らないまま、まだ足りないとばかりに悶えながら凌辱を求めている。本来自慰に使われるべきエルフィンのものは、勃起すらせずに情けなく股の間に首を垂れたまま、結腸姦の余韻にたらたらと蜜を垂らしていた。
 このような浅ましい身に成り果ててまで、帰りたいと願うには、エルフィンの故郷は優しく美し過ぎた。――穢れた身の上の自分を、はっきりと異物と認識してしまう程度には。

(もう、何のために生きているのかも解らない)

 潔く自死を選ぶことができたなら、それをせめてもの幸いと思ってしまうくらいには、エルフィンは追い詰められていた。
 エルフィンの行動を抑制する、絶対的な恐怖であった主人と死に別れ、この身を縛る鎖も消失した今、自死はそれほど難しいことではなかったかもしれないけれど。かつては一族の誰よりも美しく操った魔力を、今も使いこなせる自信を失っていたエルフィンはまだ、その道さえも選べずにいた。

「……………」

 魔力不足にのたうちながら、まだ抵抗をしようとしていた頃もあったけれど。そんな僅かな自尊心さえ、徹底的に踏み躙られた性奴隷としての日々を思い出せば、頭も体も正常に働いてはくれなかった。
 指先に炎を灯そうとするだけで、強い恐怖がエルフィンを苛む。眩暈と吐き気にまで悩まされるに至って、今日も自決を諦めたエルフィンは、もう何も考えたくないとばかりに固く目を瞑った。



 そうして、無為に体を横たえて、どれくらいが経った頃だろう。――ふと、耳に触れたような気がした、悲痛な叫びに。エルフィンは閉じていた瞼を開けた。
 視覚からの負荷に、多少目は眩んだが、頭痛と吐き気は治まっていた。いつもの通りに薄暗い小部屋は静かなままで、夢か幻聴の類だったかと、再び目を閉じかけたエルフィンの耳に。今度は聞き間違えようもなく、バン! と。乱暴に扉を開ける、取り乱した音が聞こえてきた。
 部屋と部屋の間には防音が効いているが、廊下側はその限りではない。部屋の外にまろび出たと思しき隣人の、キャアとかギャアとか、とにかくただ事ではない取り乱した叫びに、エルフィンは思わず身を起こしていた。

(誰か……)

 何が、と。そう首を傾げた所で、悲鳴が止むこともなければ、助けが差し挟まれる気配もない。
 そうこうしている間にも、ますます狂気じみてくる悲鳴をとても黙って聞いていられず、エルフィンは寝台から足を踏み出した。

「……っ」

 長らく、ろくに自分の体重すら支えてこなかった足が痛み、平衡感覚を失くしてぐらつく。
 即座に蘇った眩暈と吐き気を背に負いながら、エルフィンは震える足を踏み出して、これまで一度も触れたことのなかった扉に手をかけた。
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