2 / 50
誘拐調教編
2
しおりを挟む
妖精国の高位貴族に生まれ、清廉な日々を送っていたエルフィンがその身を拘束されたのは、幼王への忠誠を誓う儀式を翌日に控えた、正にその夜だった。
服の下を指が這うような、不快な違和感に目を開けた次の瞬間には世界は反転し、妖しく発光する魔法陣にうつ伏せに拘束されていた。全身は強い電流を流された直後のように痺れていて、起き上がることが出来ない。
おっ、と。笑った男の声に、顔を上げることさえできなかったエルフィンを取り囲む足を、何が何だか分からないままに見つめていると、ぐっと前髪を掴まれて顔を無理矢理上げさせられた。
「こりゃまた随分と高く売れそうなのが釣れたもんだ」
当たりだな、と。下卑た男が、屈辱に歯噛みするエルフィンの顔を覗き込みながらいやらしく笑う。名前は? と。尋ねられるなり、喉から胸を熱い灼熱に焼き焦がされて悶絶した。
「エ……エルフィン・マクミラン」
喉を焼く痛みに追い立てられるように、何が何だか分からないまま真名を口にしてしまう。見たこともない魔法陣に捕らわれた己の身体からキラキラと輝く粉のようなものが溢れ、男たちが手にした羊皮紙に吸い込まれた。
魔力を源に生きるエルフィンにとって、契約は絶対。どんな苦痛にも、こんなに易々と真名を明かしてしまうはずはないのに。
(違法、禁術か)
顔を隠した魔導士風の人間が数人、魔法陣の具合を確かめながら低い笑い声をこぼしている。――妖精やエルフ、竜族は。その美しさや希少性から、他種族から常にその身を狙われていることは知っていた。
だがそれでもなお、現実的な危機として認識したことはなかったのだ。一国を丸ごと隠してしまえるほどの幻術も、不埒者への抵抗の術としての高位魔術も、無数に操ることができる種族として長らく生きてきた身の上であるが故に。
その高い魔力にこそ反応するらしい魔法陣は、今もなおエルフィンの魔力を吸い上げ続けている。息苦しさに喘ぐエルフィンの首に、無情にもその魔法陣と同じ気配を纏った首輪が巻き付けられた。
「うっ、ぐ……っ」
肌に触れる内側には、ドレインの秘術を施されているらしい石の突起の感触がある。つるりとしたその小さな突起が肌に食い込む度に、身体に残された魔力を根こそぎ吸い上げられるおぞましい感触にエルフィンは呻いた。
急激に吸い上げられた魔力が結晶化したものが、ことりと音を立てて、首輪の外側から排出される。太い指がそれを摘み上げ、エルフィンの目前でしげしげと眺めて見せた。
「ふぅん、覿面だな。これで吸い上げた魔力は、半永久的に魔晶石に変わる。こうして捕まえているだけでも、金を産む鵞鳥になってくれるってわけか」
リーダー格と思しきその男は、いい発明だなと魔導士をねぎらい、気前よくその石を手渡す。歓声を上げる魔導士たちを尻目に、さて、と。エルフィンの顔をまた無遠慮に持ち上げた。
「難しい使い道に関しては、頭のいい奴に任せよう。俺たちは、いつも通りの仕込みだ」
ねっとりと、いやらしく絡みつく視線に肌を嬲られて、エルフィンの顔がさっと青褪める。
下郎の考えなど、たかが知れている。――まさか現実に、我が身に降りかかるとは思ってもいなかったおぞましい知識を、高い知性が災いして的確に歴史の中から引き出してしまったエルフィンの身体は逃げを打ってよじれたが。魔力を失ったエルフィンは、暴力に抵抗する術を持たない。
本気を出しているとも思えないにやけ顔の男に、赤子の手を捻るような気やすさで拘束されると、エルフィンにはもう成す術がなかった。
服の下を指が這うような、不快な違和感に目を開けた次の瞬間には世界は反転し、妖しく発光する魔法陣にうつ伏せに拘束されていた。全身は強い電流を流された直後のように痺れていて、起き上がることが出来ない。
おっ、と。笑った男の声に、顔を上げることさえできなかったエルフィンを取り囲む足を、何が何だか分からないままに見つめていると、ぐっと前髪を掴まれて顔を無理矢理上げさせられた。
「こりゃまた随分と高く売れそうなのが釣れたもんだ」
当たりだな、と。下卑た男が、屈辱に歯噛みするエルフィンの顔を覗き込みながらいやらしく笑う。名前は? と。尋ねられるなり、喉から胸を熱い灼熱に焼き焦がされて悶絶した。
「エ……エルフィン・マクミラン」
喉を焼く痛みに追い立てられるように、何が何だか分からないまま真名を口にしてしまう。見たこともない魔法陣に捕らわれた己の身体からキラキラと輝く粉のようなものが溢れ、男たちが手にした羊皮紙に吸い込まれた。
魔力を源に生きるエルフィンにとって、契約は絶対。どんな苦痛にも、こんなに易々と真名を明かしてしまうはずはないのに。
(違法、禁術か)
顔を隠した魔導士風の人間が数人、魔法陣の具合を確かめながら低い笑い声をこぼしている。――妖精やエルフ、竜族は。その美しさや希少性から、他種族から常にその身を狙われていることは知っていた。
だがそれでもなお、現実的な危機として認識したことはなかったのだ。一国を丸ごと隠してしまえるほどの幻術も、不埒者への抵抗の術としての高位魔術も、無数に操ることができる種族として長らく生きてきた身の上であるが故に。
その高い魔力にこそ反応するらしい魔法陣は、今もなおエルフィンの魔力を吸い上げ続けている。息苦しさに喘ぐエルフィンの首に、無情にもその魔法陣と同じ気配を纏った首輪が巻き付けられた。
「うっ、ぐ……っ」
肌に触れる内側には、ドレインの秘術を施されているらしい石の突起の感触がある。つるりとしたその小さな突起が肌に食い込む度に、身体に残された魔力を根こそぎ吸い上げられるおぞましい感触にエルフィンは呻いた。
急激に吸い上げられた魔力が結晶化したものが、ことりと音を立てて、首輪の外側から排出される。太い指がそれを摘み上げ、エルフィンの目前でしげしげと眺めて見せた。
「ふぅん、覿面だな。これで吸い上げた魔力は、半永久的に魔晶石に変わる。こうして捕まえているだけでも、金を産む鵞鳥になってくれるってわけか」
リーダー格と思しきその男は、いい発明だなと魔導士をねぎらい、気前よくその石を手渡す。歓声を上げる魔導士たちを尻目に、さて、と。エルフィンの顔をまた無遠慮に持ち上げた。
「難しい使い道に関しては、頭のいい奴に任せよう。俺たちは、いつも通りの仕込みだ」
ねっとりと、いやらしく絡みつく視線に肌を嬲られて、エルフィンの顔がさっと青褪める。
下郎の考えなど、たかが知れている。――まさか現実に、我が身に降りかかるとは思ってもいなかったおぞましい知識を、高い知性が災いして的確に歴史の中から引き出してしまったエルフィンの身体は逃げを打ってよじれたが。魔力を失ったエルフィンは、暴力に抵抗する術を持たない。
本気を出しているとも思えないにやけ顔の男に、赤子の手を捻るような気やすさで拘束されると、エルフィンにはもう成す術がなかった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
444
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる