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禁忌への覚悟
48.
しおりを挟む「・・・あの、」
冬乃は畏まる。
そうだ。まずは謝らなくてはならないと。
ここ幕末の時間では、すでに半年も不在だったことになるのだ。
「大変ご無沙汰して申し訳ありませ」
「全くだよ、おめえ嫁に行ったことになってんぞ」
(へ)
今まで黙ったまま冬乃を睨んでいた土方が、言い放つなり、そこで急ににやりと哂い。
(ヨメ!?)
「いつまで経っても帰ってきやしねえし、最早そうでもしねえとカッコつかねえだろ」
「初めは冗談でそういう噂にしておいたのが、」
沖田も笑う。
「貴女があまりにも戻らないから、そのうち、それで定着してしまった」
「じゃ・・・じゃあ、私が現れたら・・」
「ま、出戻りってとこだね」
「・・・・」
嫁に行くなら、せめて噂の中でくらい沖田の元がよかった。
がっくりと冬乃は項垂れる。
「じつはまた家族の用事でした、とでも暫く訴えておくしかないな」
そう提案はしつつも、どこか如何でもよさそうな様子の沖田の声に、冬乃はますます項垂れつつも。
もう、何処へ行っていたと聞いてこない土方には、内心驚いてもいた。
・・どちらかというと、呆れ果てていて聞く気にもならないといった風ではあるものの。
「ああそうだ。貴女が居た頃は、まだ八木さん一家は親戚の家だったね。もう帰ってきてるよ。また泊めてもらいに頼み・・」
言いながら沖田はふと何か思いついた様子になり、
「いや、」
撤回した。
「今は、俺達がここに寝泊まっている以上、貴女が女使用人部屋に寝ても、もう心配は無いか」
(え?)
冬乃がいつかに想像したように、やはり近藤達はここ前川屯所へ移ったようだと。頭の片隅で思いながら、
沖田の先の呟きの続きに、冬乃が耳を傾けた時、
「おい総司、この女を、俺達の部屋の隣で寝かすのかよ」
土方の呆れたような声が起こった。
「隣の部屋どころか布団並べて寝てたでしょうに」
「あれはあくまで臨時だ」
いろいろ思い出したのか、土方がさらに眉を寄せる。
「俺達の部屋と女使用人部屋は、襖一枚隔てただけなんだぜ?」
「それの何が問題なんです」
いっそ開け放てば、もっと広く使える。と沖田が真面目な顔をして返すのへ。
「っ・・問題だと思わねえおめえが問題だよ」
土方が目を丸くし。
「襖で隔ててりゃ充分でしょう。几帳面だね貴方も」
沖田は取り合わない。
「・・ったく、おめえにこの女の扱いを一任したのは間違えだったか」
「嫌なら解任してくれていいですよ」
冬乃はぽかんと二人のやりとりを見守っていた。
あいかわらず二人は、こんな調子らしいと。
(ほんと仲いいんだなあ・・)
もっとも、土方が今の冬乃の心の呟きを聞いたら、「ああん?」と凄みのひとつ飛んできそうだが。
「・・・頼むからよけいなゴタゴタは起こしてくれんなよ」
諦めたらしい土方が、冬乃を睨んで念押ししてきた。
よけいなゴタゴタ、が何なのか、分かりそうで分からない冬乃が、困ってひとまず頷くのへ、
沖田が「俺達の居る此処なら、変な事は起きませんよ」と言い添え。
「たとえ何かあっても護ってあげるから。安心して」
そう冬乃へと微笑むのを。
冬乃は、急速に高鳴った心の臓を胸に、
「有難うございます」
蕩けてしまいそうな頬を隠すように。こくんと頷いた。
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