碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

文字の大きさ
上 下
115 / 472
【 第二部 】 朱時雨

22.

しおりを挟む

 「ごめん、質問に答えてなかったね」
 ふと沖田が思い出したように言い出した。
 
 「綿入れは袷を冬仕様にしたもの、褞袍は家の中で着る防寒着です」
 今から買いに出ましょう
 と続けて。
 
 (あ・・)
 今からまた沖田と ”お出かけ”できるのだと。
 とくんと心臓の響きを感じながら、だが冬乃は、少し困った顔をしてしまっていた。
 
 「有難うございます、でも、先に茂吉さんに」
 なぜにも、
 いきなり仕事の途中で行方不明になったわけで。
 「謝りに伺ってからでも、大丈夫でしょうか・・」
 
 沖田が、ああ、と微笑い。
 「そうだね、先に顔を出しておこうか」
 まあ、でも。
 と、繋いだ。
 「茂吉さんには、貴女がご実家へ急用のため帰っていると言ってあるから怒ってはいないはずですよ」
 
 (そうだったんだ・・)
 「有難うございます・・」
 なら、やはり八木家に行李を残しておいてくれたのも、沖田なのだろう。
 
 「八木さんにも同じように・・?」
 「ええ。貴女がいなくなったことが分かったあたりで、土方さん以外には、そう伝えてありますよ」
 
 冬乃はぺこりと頭を下げた。
 
 さすがに、冬乃が土方にまで断らずに帰省するのはおかしな話なので、土方に対しては、帰省したことには出来なかったのだろう。
 
 「本当に何度もご迷惑おかけしてごめんなさい」
 「だって貴女の意志でないのでしょう?」
 冬乃は顔を上げた。
 
 「はい・・」
 
 信じてくれている。
 冬乃という存在を。
 
 いまや沖田の言葉の端々から受けるその実感に冬乃は、胸に沸き起こった幸福感で自然と顔を綻ばせた。
 
 微笑んだ冬乃を見下ろす沖田の目が、僅かに開き。そしてすぐに穏やかに細められた。
 
 「じゃあ行こうか」
 その上掛けを羽織るようにと、言い足す沖田の視線が、畳に散らかる服のひとつを差して促し。
 
 冬乃は急いで残りの服を行李に戻して、生地が他のものより厚いその上掛けを羽織りながら、小庭へ出てゆく沖田の後に続いた。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

処理中です...