碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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【 第二部 】 朱時雨

20.

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 (・・今日が)
 
 芹沢が、夜更けに八木家へ忍び入った土方達によって、暗殺される日。
 
 どうせなら、もう一日くらい後に、ここへ戻ってこれなかったのか。
 奇跡の神様の悪戯は、度が過ぎる。
 
 
 土方がじっと冬乃の言葉を待っている。
 冬乃が言えることは、ひとつ。
 
 「今夜、」
 
 ぴくりと。土方の長い睫毛が揺れた。
 
 
 「島原で宴席を設けてますね?」
 
 
 「・・・」
 
 土方の視線が冬乃から外れて、後ろの沖田へ向かった。
 
 「俺は何も教えてませんよ」
 すぐに沖田の声が後ろから返って。
  
  
 「土方様」
 冬乃は静かに息を吐いた。
 
 
 今夜は、八木家に居てはいけない。
 
 
 「私も、宴席へご一緒させてください」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 冬乃を女使用人部屋へ帰し、土方は、部屋へ留まらせた沖田に体ごと向き直った。
 
 「あの女、」
 
 二度目だ。
 冬乃の台詞に土方が、こうまで心臓を突かれたのは。
 新見の件を仄めかすような、蔵での返答と。今回と。
 
 「まさか本当に未来から来たなんてこたぁ・・ねえよな」

 「今回で俺はだいぶ信じそうになってますけどね」
 沖田が微笑った。
 
 「それにさっき貴方も見たでしょう、彼女の肌着を」
 「ああ、変な湯文字を着けてたな」
 
 ほぼ全裸だった冬乃だが、腰回りにだけ奇妙な褌のような、小さな肌着を着ていた。
 「あれだって、恐らく今の世の物ではない。俺たちが知らないだけかもしれませんが」
 「・・ああ、俺らは、高貴なお方々の湯文字ならば見たことねえから、或いは知らないだけかもしれねえさ。が、そういう存在がわざわざ俺たちのところへ来ること自体無え。まして裸で」
 とすれば、
 「まずは素直に、この国の一般的な湯文字では無えってことに着目するほうが自然だ」
 「だが彼女は、この国の言葉を話している」
 沖田が促すように添えた。
 「そこだ。顔も異国のものじゃねえ」

 つまり、この国の人間でありながら、
 『すくなくとも今の』この国ではおよそ使われないような物を身に着け、
 
 「隊名の件と、今夜の宴席の件、これで二度」
 未来を言い当てた。
 
 島原での今宵の宴席は、芹沢一派を泥酔させるべく土方達が設けた、組挙げての総会である。
 芹沢達を警戒させぬために、できるかぎりの大人数で行うため、夜は屯所が手薄になる。ゆえに組総出であることを外部になるべく流出させぬよう、今の時点で未だ隊士達には知らせてはいない。
 知るのは幹部だけだ。
 それを冬乃が、すでに知っていた。
 
 
 「つまり、本当に未来から来た・・ってんじゃ、ねえよな・・・」
 
 土方は呆然と。先ほど吐いた台詞をもう一度、繰り返していた。
 
 
 「・・・もし、そうならば」
 今夜の暗殺の計画も、当然知っているだろう。
 
 土方は底光る眼で沖田を見据えた。
 
 「あの女と、」
 芹沢達を
 「近づけるなよ」
 
 
 「ええ。まあ、心配はしてませんがね」
 「だが万一ってこともある」
 「はい。今日一日はずっと見張っておきますよ」
 沖田は背を返し、部屋を出た。
 
 
 
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