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【 第二部 】 朱時雨

4.

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 (すごい、・・・)
 
 先程の、冬乃が襖を開けようとした時も。すでに沖田には察知されていて、先に沖田のほうが開けてきた。
 
 (あれは私が音を出してしまったのかと思ってたけど・・)
 抜き足差し足で動いていて音を立てた覚えはなかったから、沖田から開けてきた時、一瞬不思議に思ったのだ。
 
(もし音ではなくて『気配』をよまれてたのだとしたら)
 しかも気にせず開けてきたということは、あの時、気配の主が冬乃、少なくとも開けても問題のない相手であることまでは、すでに認知されていたということだ。


 剣豪達の一挙一動は、ときに常人の目には妖術遣いの如く映る。
 まして沖田のような、天賦の才の持ち主のそれとなれば。


 (・・・かっこよすぎです沖田様・・)
 
 いま息もつけぬほどの緊迫の渦中なはずが、そうして場にそぐわぬ感激で冬乃がおもわず瞳を潤した間も。
 向こうの部屋では音の主が、ガタガタとあいかわらず行李らしき物を動かしていた。
 
 その長いような短い一時の後、音の主はこちらへ来ることはなく。やがて、襖を閉めて出て行った。
 
 

 
 深く溜息をついた冬乃を
 沖田が体を離して解放し。
 
 「脅かしてすみません」
 手の刀を腰に佩刀しながら沖田が言った。
 いいえと首をふりながら冬乃が、
 「・・あの、今の人は」
 つい尋ねて。
 
 「平間さんでしょうね」
 
 (ああ・・)
 冬乃は目を瞬かせていた。
 
 たしか平間の家は芹沢家の古くからの近臣だ。ゆえに生粋の芹沢一派でありながらも、
 その内勤の才覚のために、勘定方等の仕事も執り行っており。今日も外回りの芹沢達とは行動を共にしていなかったのだろう。


 まるで冬乃が納得したような顔をしたのを。沖田が見とめて、ふっと哂った。
 
 「貴女は、どこまで知っているんでしょうね?」
 
 沖田のその呟きに、冬乃はどきりと彼を見返した。
 
 
 ・・新見のことも、芹沢のことも。この先、どうなるかを知っている。
 
 だけど。
 
 「何も、知らないようなものです・・」
 
 いつ、何が起こって、その史実として知っている結果へどう辿りつくのかを。やはり、細かに知るはずもないのだ。
 今しがたのように。
 
 
 「知らないようなもの?」
 冬乃の返しに、沖田がおうむ返して微笑った。

 二の次を継げないでいる冬乃の前、だが沖田はまたいつものように追及もせず、
 懐に蓄えた書類のせいでたわんでいた襟元を整え、そのまま障子を開けて出てゆき。
 冬乃も慌ててその背を追って、縁側に出た。
 
  

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