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朝に
88.
しおりを挟む「・・神聖!」
冬乃のうっとりした声で奏でられた返事の台詞に、沖田のほうは突然、笑い出した。
「神聖とは有難いな」
どうもツボにきたのか、そのまま笑いが止まらなくなっている沖田を前に、なるほど荒剣法だどうのとは正反対にも聞こえるかもと、冬乃もつられて微笑いつつ、
でも本当にそう感じたんです、と胸内で呟く。
途中で紆余曲折はあれども、現代までずっと伝えられて、
幕末の新選組を支えた一大流派つまりは幕末の最強剣のひとつとさえ称せえる流派を今に再現することが出来たのだから。冬乃にしてみれば神聖さすら感じて当然なのだ。
伝えられてきた、そのことだけでも凄いと、感謝してもしたりないほど。
「まあ、手前味噌に聞こえるかもしれませんが私も”神聖”だとは思ってますよ」
理心流の剣のことわり、そのものを、と。
言いながら、だがやはり面白かったらしく笑っているままの沖田を、冬乃はドキドキして見上げた。
―――その陽だまりのような笑顔に心臓を打ち抜かれているなんて、
この方は知りもしないんだろう。
そんな台詞をふと心に浮かべた自分に、冬乃は次の瞬間自分で気恥ずかしくなって。
でも、
(だって。もうだめ)
冬乃は自分の胸内で吐いた台詞も尤もなのだと。自分で言い訳する。
逢う前から、好きで好きでたまらなかった人を。
こんな目の前にして、こんな笑顔を見せられて、
溢れてゆく想いを。止められるわけがない。
「冬乃さん、もうひとつ聞きたい」
暫しの後、なんとか笑いを納めたらしい沖田が、冬乃の瞳を今一度しっかりと見返した。
「なぜ剣を志したのです」
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