碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

文字の大きさ
上 下
88 / 472
朝に

88.

しおりを挟む



 「・・神聖!」
  冬乃のうっとりした声で奏でられた返事の台詞に、沖田のほうは突然、笑い出した。
 「神聖とは有難いな」
 どうもツボにきたのか、そのまま笑いが止まらなくなっている沖田を前に、なるほど荒剣法だどうのとは正反対にも聞こえるかもと、冬乃もつられて微笑いつつ、
 でも本当にそう感じたんです、と胸内で呟く。

 途中で紆余曲折はあれども、現代までずっと伝えられて、
 幕末の新選組を支えた一大流派つまりは幕末の最強剣のひとつとさえ称せえる流派を今に再現することが出来たのだから。冬乃にしてみれば神聖さすら感じて当然なのだ。
 伝えられてきた、そのことだけでも凄いと、感謝してもしたりないほど。

 「まあ、手前味噌に聞こえるかもしれませんが私も”神聖”だとは思ってますよ」
 理心流の剣のことわり、そのものを、と。
 言いながら、だがやはり面白かったらしく笑っているままの沖田を、冬乃はドキドキして見上げた。


 ―――その陽だまりのような笑顔に心臓を打ち抜かれているなんて、
 この方は知りもしないんだろう。

 そんな台詞をふと心に浮かべた自分に、冬乃は次の瞬間自分で気恥ずかしくなって。

 でも、

 (だって。もうだめ)

  冬乃は自分の胸内で吐いた台詞も尤もなのだと。自分で言い訳する。

 逢う前から、好きで好きでたまらなかった人を。
 こんな目の前にして、こんな笑顔を見せられて、

 溢れてゆく想いを。止められるわけがない。


 「冬乃さん、もうひとつ聞きたい」
 暫しの後、なんとか笑いを納めたらしい沖田が、冬乃の瞳を今一度しっかりと見返した。

 「なぜ剣を志したのです」


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...