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朝に

87.

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 黙ってしまった冬乃の。戸惑って揺れる瞳を、
 だが沖田が苦笑したまま、なおもその穏やかな眼で見下ろしてきた。
 「まあ今のところ隊内で貴女の武術を見知っているのは私だけだ、今後に昨夜の様な事態が起きなければ問題は無いでしょうが」


  冬乃はとくりと心の臓の音を聞いた。

 (な、なんか・・)
 沖田は今、”私”と自称しなかったか。

 土方にも藤堂にも確か”俺”の自称だったのに、
  冬乃には”私”を充てて丁寧に話してくれているらしい。

 (・・・・)
 くすぐったくなって、つい視線を泳がせた冬乃を。

 「冬乃さん」
 そうと知らないだろう沖田が、話の続きを促すべく呼んでくる。
 「流派はどちらです」
 そんな問いを続けて。

 (え・・ええと)
 「いろんな流派の流れを汲んでいて・・、この時代にはまだありませんでしたのでご存知ないかと・・ただ、」

 一度、沖田様の流派、天然理心流の道場に見学にお邪魔したことがあります
 その時の感動を思い出しながら、冬乃は言い足した。

 「へえ」
 驚いたような愉しそうな眼で微笑う沖田が、
 「”未来”では、理心流の稽古はどんなでした」
 野武士稽古やら荒剣法やらと、未来でも言われているのか如何かと興味深げに探ってくる。

 「お稽古は迫力が凄くて、・・それでいて神聖で」
 冬乃はその時の光景を思い出しながら、うっとりと答えた。

 力強く、厳かな。
 型を披露してくれた門人達の姿に、冬乃は沖田や近藤の稽古の姿を想像の内で重ねて、いたく感動してしまったのだ。


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