86 / 472
朝に
86.
しおりを挟む「貴女が昨夜に井戸の所でみせた動きには、正直感心した」
前を歩く沖田が冬乃の想像した通り、冬乃の武術について話をふってきた。
念のためなのか誰も来ないような隅まで連れてこられながら冬乃は、
やがて立ち止まってこちらに振り返った沖田を、自分もまた立ち止まって見上げる。
「貴女のあの動きは、剣を学んだ者の、・・それも生半可な鍛錬では得られぬ類いのものだった」
あの時、沖田が、三人が見える場所まで来た時には、すでに新庄が冬乃へ向かって上段から振り下ろした刹那で。
間に合わなかったかと思った沖田を良い意味で裏切った冬乃の次の動きは、今も鮮やかに沖田の記憶に甦る。
一瞬に相手の剣筋を見極めて簪の脚に挟み入れ、簪を損なうこと無しに、力を受け滑らせて相手の懐まで飛び込むような事は、剣術の素人のすることではない。
「どこで剣を習った・・と聞いたら、未来でと貴女は答えるしかないのかな」
沖田が話を続けながら、どうしたものかと苦笑した。
「貴女のいう未来ではどうであれ、この時代では女性が護身以上に武術を遣うというのは極めて稀だ。貴女がそれだけの武術を遣えるとなるとまた、あれこれ疑う人が出てくる」
冬乃は沖田がそう言うのも尤もだと、
どうしようもなく目を瞬いた。
そう。この時代で武術に長けている女性となると、
くのいちの忍者とまでいわなくても、公儀やどこかの藩の隠密であるとか、暗殺やらの闇仕事を受け持つどこかの陰従者だとか、確かにあれこれ疑えそうなものである。
ただでさえ冬乃は、未来から来たなどと信じ難い事を真顔で訴えているわけだから、
そのうえ武術遣いとなれば、もう危険人物極まりない。
(私だって、そんなのがいたらマジで疑うって)
どうしたものかと、冬乃も心に唸る。
0
お気に入りに追加
926
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる