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朝に
86.
しおりを挟む「貴女が昨夜に井戸の所でみせた動きには、正直感心した」
前を歩く沖田が冬乃の想像した通り、冬乃の武術について話をふってきた。
念のためなのか誰も来ないような隅まで連れてこられながら冬乃は、
やがて立ち止まってこちらに振り返った沖田を、自分もまた立ち止まって見上げる。
「貴女のあの動きは、剣を学んだ者の、・・それも生半可な鍛錬では得られぬ類いのものだった」
あの時、沖田が、三人が見える場所まで来た時には、すでに新庄が冬乃へ向かって上段から振り下ろした刹那で。
間に合わなかったかと思った沖田を良い意味で裏切った冬乃の次の動きは、今も鮮やかに沖田の記憶に甦る。
一瞬に相手の剣筋を見極めて簪の脚に挟み入れ、簪を損なうこと無しに、力を受け滑らせて相手の懐まで飛び込むような事は、剣術の素人のすることではない。
「どこで剣を習った・・と聞いたら、未来でと貴女は答えるしかないのかな」
沖田が話を続けながら、どうしたものかと苦笑した。
「貴女のいう未来ではどうであれ、この時代では女性が護身以上に武術を遣うというのは極めて稀だ。貴女がそれだけの武術を遣えるとなるとまた、あれこれ疑う人が出てくる」
冬乃は沖田がそう言うのも尤もだと、
どうしようもなく目を瞬いた。
そう。この時代で武術に長けている女性となると、
くのいちの忍者とまでいわなくても、公儀やどこかの藩の隠密であるとか、暗殺やらの闇仕事を受け持つどこかの陰従者だとか、確かにあれこれ疑えそうなものである。
ただでさえ冬乃は、未来から来たなどと信じ難い事を真顔で訴えているわけだから、
そのうえ武術遣いとなれば、もう危険人物極まりない。
(私だって、そんなのがいたらマジで疑うって)
どうしたものかと、冬乃も心に唸る。
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