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壬生夜
72.
しおりを挟む「話は何でしょうか」
その場で切り出した冬乃に、だが男は、
「貴女に見せたいものがあるので、もう少しついてきてもらいたい」
などと言い。
「・・・・」
これで警戒するな、というほうが馬鹿げている。
冬乃は、軽く首をふった。
「すみませんが、今まだ、やらなくてはならない仕事が残っていて・・・」
「すぐに済む」
「明日ではいけませんか。」
男が片頬を歪めた。
「おぬしが密偵だということは、分かっている。その証拠を得た。それをこちらの出す条件に従えば、不問にしてやろうと思っていたところだぞ」
不意に言葉遣いから丁寧さが消えた男へ、冬乃はどうしようもなさげに肩を竦め。
「私は密偵ではありませんから、証拠なんて出るはずはございません」
「証拠はある。今おぬしをここで斬り捨ててもいいのだぞ」
(うわ。何コイツ)
冬乃はおもわず、ふざけんな証拠なんかあるわけないでしょうが、と反論しかけて口をつぐんだ。
相手がすぐに扱える武器を持っているのは、やっかいなのだ。
(素手で白刃取り・・なんてほぼフィクションだしね)
などと、戯れたことを思える時点で、もっとも冬乃は全く応えてないのだが。
「どうか、」
冬乃は、怯えた様子を装って、ちらりと男達を見た。
「それなら証拠をここへ持ってきていただけませんか・・?私がこれ以上同行できないのは、正直、私を密偵だと信じている貴方がたに何をされてしまうのか、それが怖いからなのです」
と、正直に言ってみた。
男達のほうは、冬乃の言葉に顔を見合わせ。
「おぬしが密偵である証拠は蔵に残っている傷にある、だからここへは持ってこれぬ」
さもありなん、と思わせそうな言い分だが、
蔵に残っている、傷?
(マジに何なの、こいつら?)
冬乃がいったい、どんな傷を蔵につけたというのか。
沖田が蔵の鍵を壊したのは覚えている。
その時の傷なのか。
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