碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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壬生夜

70.

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 (違うの。かおだちが締まってるって意味でっ)
 あわてて冬乃は沖田に心で言い訳しつつ、
 彼のそんな引き締まった頬や口元を思い描いているうちに、冬乃の洗いものの手は止まってしまった。

 (だって。もう)

 あの、すっきりとした面長な顔立ちのおかげで、
 沖田は、あれだけの体格の良さを重苦しくさせずに見事なバランスを保っているのだ。

 (かっこよすぎて)

 冬乃は惚れ惚れと溜息をつく。

 沖田は十代のはじめから、他の江戸の大道場からは荒々しい野武士剣法と言われていた理心流の試衛館道場で身を鍛えあげてきた。
 試衛館道場は、真剣勝負を想定し、真剣と同じ重さをもたせた太い木刀を稽古に使う。
 その木刀で成長期から散々鍛えてきた体は、
 近藤と同様に、当然、筋骨隆々の逞しい体をつくりあげた。
 鍛え上げられた胸筋と、どっしりとした足腰に、鋼のような胴。

 さらに沖田の場合は持って生まれた骨格にも恵まれ、高い背丈に、逞しい上腕を支えて沖田の肩は張り上がり。


 (なのに、・・)
 沖田のあの立派な体格が、のちの病のために、四年後には痩せ始めて肉を落としてゆくのだと思うと、
 冬乃は心にどうしようもない痛みをおぼえ。


 (だから。まだ、考えないようにしなきゃ・・)



 「冬乃はん、」

 何度も止まる手を奮い立たせて、やっと洗い物を終えた冬乃が、流しを掃除していると茂吉が後ろから声をかけた。

 「はい」
 人の来る気配は感じていた冬乃がそのまま振り返ると、茂吉は不意に声を落とし、「気ィつけるんよ」と囁き。
 すぐに声の調子を元の大きさに戻し、

 「お客さんや」
 といった。


 その言葉に、戸口のほうを見やった冬乃は、
 そこに佇む二人の男を見とめた。

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