碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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壬生夜

67.

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 (そういえば、)
 初めてここで夕餉を食べたときと比べて、また人数が格段に増えている。冬乃が向こうに戻っていた間に新たに入隊した人達がいるのだろう。

 こんなにたくさん人が居ては、前川邸の隊士部屋は足の踏み場もないのではないか。

 (使用人女部屋、夜は空いてるんじゃなんかもったいない・・)
 とはいえ、お孝が朝に来て使うので冬乃がどうこう言えることでもないのだが。


 (それにしても、沖田様はどこで寝てるんだろう?)

 十日前にここに来た時から変わっていないかぎり、沖田達はまだ八木家を使っていることは確かだ。
 伝承では離れを使っていたようだが、小さい建物だったとも聞いている。それでも少しは居心地のいい部屋を確保できているのだろうか。


 どちらにしても、屯所をここの前川邸および八木家から、広大な西本願寺の一角へ移すのは、ずっと先の話なので、暫く大変な混雑状態が続きそうである。


 だが、西本願寺移転───
 それまでには池田屋事変と、禁門の変、

 (・・・そして、その時までに、今はここに居る人の何人かは亡くなってしまう)

 今、ここでにこやかに話をしている山南も、また。



 (もぉ、考えるのやめなってば・・!)

 ガンッ
 とおもわず勢いづけて膳へ叩き置いた椀が、音を立てた。

 どうしたのかとこちらを見る沖田達に、すみませんと謝りの表情を向けて、冬乃は胸の痛みに震えそうになる手を握り締めた。


 あるのは。

 (この時代に来て、)

 良かった事だけじゃ、無い。


 (これからたくさんの、人の命と向き合わなくちゃならない)
 耐えていけるように、がんばらなくては、


 そしていつかは────沖田の命とさえ。
 向き合う時が来る。





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