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壬生夜
64.
しおりを挟むここでの、二回めの夕餉。
しかも沖田があたりまえのように冬乃を隣に座らせ、
おかげで冬乃はもう、隣に意識が引っ張られてばかりだ。
まわりでは各々が席について食事を始めている。
隣の沖田が食べ出すまでは、なんとなく膳に手を伸ばさずにいる冬乃なのだが、・・
沖田がいったい何を待って食べ出さずにいるのか、冬乃は暫く考えてから得心がいった。
近藤が席につくのを待っているに違いないと。
沖田は十代のはじめから近藤の道場 “試衛館” で世話になってきた。
沖田にとって、近藤はまさに父のような存在で、大事な恩師なのだと。恩師より先に食べ出すことはしないのだ、
冬乃がそう思ったとおり、やがて写真に残っている近藤そのまんまの顔の人がまさに広間に入ってきて、沖田の斜め隣の上座に座り。
「近藤様、お初にお目にかかります。冬乃と申します。どうぞ宜しくお願い致します」
冬乃が礼をこめて沖田の隣向こうから、挨拶するのへ、
「お、貴女が冬乃さんか。ここで働いてくれることになったと聞いてます。こちらこそ宜しく」
そんな嬉しいことばをかけてくれながら近藤が、椀のふたを開けて食べ始めると、
沖田もようやく食べ始めた。
冬乃も自然なそぶりで椀のふたを開けて、食べ始める。
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