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壬生夜
60.
しおりを挟む使用人の長である茂吉と、初老の男性で籐兵衛、冬乃の叔母ほどの年の女性でお孝、この三人が今のところ冬乃を含め、いま使用人として働いているようだった。
茂吉と籐兵衛は使用人の男部屋で寝泊りしているようだが、お孝は家族持ちで、夕餉の支度を済ませると壬生内の家のほうへと帰ってしまうらしい。
「冬乃はん、ほんに平気なん?」
ぐつぐつ良いにおいのする煮物をゆっくりとかき混ぜながら、お孝が心配そうに冬乃を見た。
(・・・?)
冬乃のほうは炊き飯をよそっていた手を止め、首をかしげていた。
どういう意味だろう。
「ここは男はん達の所帯やいうて、・・若い娘さんなんて絶対、雇われに来いひんのに。」
そんな環境で働きにくるなんて冬乃によほどの事情があるとお孝は思っているのか、気の毒そうな表情をして冬乃を見つめている。
(なんだ・・そういうことか)
冬乃のほうは、どう答えたらいいかわからず肩を竦めた。
「平気、です」
冬乃の割り当てられた前川邸の部屋は、朝早くに来て支度を始めるお孝の為にもともと用意されていた四畳半の部屋だ。
もっとも寝泊りには、初日の夜のときのように八木家の家人たちと共に寝るよう、沖田には再三言われている。冬乃が女使用人の部屋で一人で寝るには危険だと心配しているかのようだった。
沖田にそんなふうに心配されると冬乃には何だかくすぐったい。
やがて用意の整った膳を三段ずつ重ねて、茂吉たちが厨房を出てゆく。
冬乃が倣おうとしたら、お孝に止められた。
「無茶や、一段ずつにしとき」
「大丈夫ですよ」
冬乃は笑って、積み上げていた膳をひょいと持ち上げてみせ。
剣道は腕力や胸筋から足腰まで体全体を著しく鍛え上げる。 冬乃は並の女性より力には自信があるのだ。
お孝が目をぱちぱちさせて、三段を両手に軽々出てゆく冬乃の後ろ姿を見送った。
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