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町へ
57.
しおりを挟む「貴女に尋ねようと思ったんだった。・・貴女の出自は武家ですか、それとも」
(へ?)
武・・???
「・・・」
思考を。江戸時代の思考回路にシフトさせるべく、
冬乃は暫し。
押し黙ってしまった。
(・・・ああ。そうか)
そして、
武家の出ならば武家の。
町人の出なら町人の。
それぞれに相応しい格好をしなくてはならないのが、この時代なのだと。思い出し。
(でも)
「うー・・」
冬乃はおもわず声に出して唸ってしまった。
江戸期の身分制度は、現在の日本国には無いのだ。
冬乃は、
だが、それを沖田に説明するわけにもいかない。
武士の世が無くなることを。
説明するわけには。
「武家の・・出です」
(と言っておこう・・)
自分の祖先がこの時期にどの階級に属しているのかも詳しくは知らないので嘘か本当かも分からないのだが、
(てか、私の祖先がどこかで今、この同じ時代に生きているってスゴすぎ・・)
とりあえず冬乃の想いを寄せる沖田が武士階級であるわけで、
・・・近い身の上でありたいと思ってもいいだろうか・・?
「そうですか。・・・すると武家の出のお嬢さんが、使用人として働いているのは聞こえが悪いな」
「・・え」
どうやらあっさり信じてくれたのはいいが、今の言葉には困って冬乃は沖田をまじまじと見遣った。
「まあ、いいだろう」
沖田がそんな冬乃を見返して。
「・・・女性の“浪人” ということなら」
(う。)
武家階級でありながら、主君を持たぬ身を浪人と呼ぶ。
冬乃は当然、この時代のどこの主家にも属さないわけで。
沖田が、冬乃のことを“女性の浪人” と称したのも、言いえて妙なのだが、
もっともこの時代で武家出身の女性が“浪人” 状態というのは、
生まれた家が武家ながらもはや主君を持たないうえ嫁ぎ先が決まっていないか──嫁ぎ先が武家ならば、元の鞘に納まるわけだから──もしくは主君を持つ家でありながら何らかの理由で出奔したか、
ようは、あまり良い響きではなさそうである。
まあ、
(沖田様がいいと言うなら、いいか)
冬乃にとって沖田が全てであり、彼が事情をわかっている以上、
武士の沖田に少しでも近い身の上であるのを選べるなら、沖田以外の他の誰にとって聞こえが悪かろうがどうでもよいのだった。
とりあえず武家の出と答えたことで、いったい沖田がどの店につれていってくれるのか気になる冬乃はそわそわと彼のあとに続いた。
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