碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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居場所

54.

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 (ぜんぜん考えてなかった)

 ここに生活するということは。
 まず着物から下着から揃えなくてはいけないと。
 でも、
 (ここの時代のお金なんかもってないし・・)

 使用人としての給金をもらうまで待つわけにもいかない。
 いま着ている道着と下着を毎日洗って使おうとしても、まず洗っている間に着るべき代わりのものがなくてはならないわけで、

 ・・ようは今すぐお金が必要なのだ。

 (どうしよう?)


 「ほな、」

 眉を寄せている冬乃に茂吉は、
 一時後の七つ時に夕餉の支度に厨房へ来るようにと言い置き、使用人部屋のほうへと踵を返した。

 「はい」
 去ってゆく背を見つつ、

 (一時後・・)
 二時間後のことだったか、と一瞬考えながら冬乃は、
 戻る場所もとくになくその場に立ったままに考える。


 (着物って、この時代でどのくらいするんだろ?)

 いっそ給金を前借りすることはできないだろうか。
 
 いま新選組は、十日前の功労で拝命すると同時に会津から正式に御預で召抱えられ、まだまだ全盛期には到底至らなくても、使用人を持てるくらいまでにはなっている。

 (・・・そうしよう・・。)

 置いてもらえるだけでも有難いなか、前借りしたいなどとお願いするのは気が引けるが、沖田の前で小汚くしてるのだけは、どうしても耐えられない。

 冬乃は心を決め、相談できる唯一の存在の沖田をまず探すことにした。



 だが。

 暫く前川邸内を行ったり来たりしながら。冬乃はさすがに居たたまれなくなってきた。

 通りかかると、稽古をしている隊士たちまでが、動きを止めて冬乃をじろじろ見るのだから。


 (わかってる、)

 男所帯に八木家以外の女性の姿があるだけで珍しいうえに、冬乃はいま道着を着ており。

 (しかたないっていえばしかたないんだけど)

 無遠慮を越してあからさまにこうまで見られていると、それこそ穴にでも逃げ込みたい気分になってくる。


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