碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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その訳

27.

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 「・・おい」
 
 黙ってばかりの冬乃に、芹沢が苛ついた様子で促す。
 
 (・・素直に言えば?)
 どうせ未来から来たとつっぱねてるんだから、今更何を言おうが変わりゃしない。
 
 冬乃は心に決めた。
 
 「たまたま、ここに来る前に着・・」
 「どこから、来る前にだって?」
 
 いきなり遮った鋭い声に、冬乃は咄嗟に、そのほうへと視線をずらした。
 
 その先で土方が、やはり睨むようにして、・・いや、本当に彼の場合は、睨んで、こちらを見ている。
 
 いいかげん冬乃は呆れたい気分で、その土方のほうへと向き直った。
 「ですから未来からです」
 
 「まだ言ってんのか」
 土方のほうも呆れた様子で返してくる。
 
 大概にしろと、その目は明らかに怒っていた。
 

 (なんだか・・)
 
 冬乃は冬乃で、あまりに取り付く島もないさまに、いいかげんに腹が立ってきた。
 
 「・・本当に、どうすれば信じてもらえるんですか。例えば私が明日起こることを当ててみれば信じます?」
 
 冬乃は売り言葉に買い言葉で返していた。
 
 「ほう」
 
 土方がさらに言葉を買い。
 
 「当ててみれるなら、やってみろ」
 そう言うと嘲笑を口元に浮かべる。
 
 「まあまあ、」
 みかねた藤堂が、苦笑いを浮かべ間に入った。
 
 「食事の時くらい、とりあえずいいじゃない」
 
 「いつまでもタダ飯食わすほど、うちは裕福じゃねえんだよ。とっとと吐いてくれねえと俺たちの飯が減る!」
 
 (んな、)
 そ、そんなに減るほど食べてないでしょー!?
 
 おもわず心内で叫んだ冬乃を、土方がぎらぎら光る目で見返した。
 「当ててみろ!そしたら信じてやらあ」

 「もう、土方さんってば!冬乃さんも、気にしなくてもいいからね?」
 
 (藤堂様って優しい・・)
 冬乃は救われる想いで、こちらを窺う彼に頷き返した。
 
 「土方さんの言うとおりですよ」
 
 (え?)
 だが突如、隣から沖田の言葉が降ってきて。
 
 (・・いま、なんて)
 「沖田様・・・」
 
 驚いて見上げた冬乃を彼は、静かに見返した。
 
 「当ててごらんなさい。こちらが信じるとしたら、それしか無い」
 


 「・・・」
 
 場に沈黙が、落ちた。
 
 皆から一斉に注がれた視線に、冬乃は息を呑み。
 
 (・・・本当に当てる、たって)

 明日が新選組史にのぼる日でもないかぎり、冬乃とて、明日なにが起こるかなど知るべくもない。
 
 再び見やれば、土方があいかわらずの疑わしげな視線をこちらへ投げている。
 当てられるはずがないだろう、と言わんばかりの表情がそこには浮かんで。
 
 「・・・」
 
 今一度沖田を見上げると、彼は無言のまま冬乃を見返し。
 
 その眼は、何を思うのか伝えることはなく。
 

 冬乃は心をかき乱す想いに、一瞬、目をきつく閉じた。
 


 (・・沖田様・・・)
 
 彼に逢えたのは、
 
 何故・・?
 

 冬乃は今なお沸き起こる疑問を胸内に繰り返していた。
 
 ・・・この身に起こった事象。
 これは誰にでも起こり得た偶発なのか。
 何かが作用して。たまたま冬乃の身に起こっただけなのか。
 
 それとも、
 もしも偶然なんかではなくて。
 
 必然の。成るべくして成ったものなのだとしたら。
 

 ・・・あるいは。
 


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