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【 第一部 】 平成十二年夏、東京
6.
しおりを挟む「やっと、来れた」
雨の路地に冬乃はひとり佇んでいた。
夜のせわしい六本木からは外れた、静かな墓地の塀の前で、冬乃は手を合わせる。
長く来ることができなかったのは、たとえここに眠る人を想う心に変わりなくとも、付き合っている存在がいたため。
だが今は、そしてこれから先はずっと独りでいる。
────つらかった。
貴方を想うのが苦しかったのです。私は何度も逃げようとした。
でも付き合った人たちを傷つけて、それだけしか残らなかった。
もう逃げません。逃げれない。どんなにがんばっても貴方以外の人を好きになれない。
苦しいけど、貴方を想っているときがいちばん幸せ。
それで十分だと、いつか思えるかもしれないから。
雨が小降りになっている。
さわさわと風が鳴っていた。
(貴方しか愛せないなら、)
冬乃は傘を下ろし、空を見上げた。
(一生貴方だけを想って生きる)
そして、いつか・・
生きているうちに逢えなくても、
いつかこの寿命を終えたとき。
沖田様、逢いにいかせてください。
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