碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

文字の大きさ
上 下
461 / 472
ゆく末への抗い

123.

しおりを挟む
 「それについては私から」
 と島田がおもむろに三人の間へ、数枚の書状を広げた。
 
 「局長が前回金策に自ら出向かれた商家のうち、返済期限の迫っているものです」
 
 (あ)
 もうそんな時期なのかと、冬乃は目を瞬いた。
 
 「局長のお顔を立てたく、これらは期限迄にしかと返したい。そのため、別の商家から借り入れなくてはなりません。いま勘定方で用立てできる額は、半分にも満たぬので」
 
 「難儀やなあ」
 山崎が嘆息する。
 「もうどこのめぼしい商家も御大名方に借り尽くされてるやろ」
 
 (そう・・だよね)
 
 第二次長州征伐のころ京滞在が長引いた幕府諸藩に、いま着々と戦さの準備に励む薩長しかり、
 豪商たちへの度重なる彼らの負債は止むところ知らず、積年溜まりにたまっている。
 
 いわゆる大名貸し、藩債と呼ばれる莫大な借金。
 
 のちの明治政府が廃藩置県政策によって、これらを名目上、肩代わりすることになるものの、その額は限定的かつ作為的で、
 
 昔より長年にわたり貸し出してきた大阪の豪商達にとっては、踏み倒されたも同然の結果となってしまう。
 そのころ銀目停止という政策によって既に憂き目に遭っていたところへ、とどめを刺すかの事態に、倒産した商家は数知れず。
 
 明治政府の中枢にいた元薩長土の、このさすがに非道なまでの政策は、まさに恩を仇で返した典型例といえる。
 
 
 (援けてきた結果あれほど酷い未来が待っていると、先に分かっていたなら、資産を隠し通してでも絶対貸したくなかったはず・・)
 
 未来を知る冬乃としては、いたたまれないものがある。
 
 
 
 「・・で、冬乃はんには何をお願いに?」
 
 山崎の声に、はっと冬乃は島田を見やった。
 
 「冬乃さんには、この新たな借り入れのための、書状の作成をお頼みしたいのです」
 畏まったように島田が冬乃を見返し。
 
 「局長のお名前で作成していただきますので、局長への内容のご確認も併せてお願い致したく」
 
 「承知致しました」
 冬乃はぺこりと頭を下げて返した。
 もとい想定していた仕事内容である。
 
 「そのために見ておいていただきたい書状の数々はこちらで保管しておりましたので、御足労いただいてしまいました」
 
 「ほな、お茶を出さな」
 何故か楽しそうな山崎が、颯爽と立ち上がった。
 
 「そんな、おかまいなく」
 「ええからええから」
 
 どこかの部屋へとそのまま向かっていく山崎を、冬乃が呆然と見送る前では、島田が側の棚からあれこれ他にも書状を取り出してゆく。
 見ておいてほしいという書状たちだろう。
 
 次から次と出てくるさまに、冬乃は目を見開く。
 これは長丁場になるかもしれない。
 
 コーン
 と相槌を打ったかの、小庭から届いたししおどしの音を耳に。
 
 (がんばろう・・)
 冬乃は身を引き締めた。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...