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枯芙蓉
99.
しおりを挟む「ようするに」
コン、と土方の煙管が灰吹きを鳴らした。
「この先の"表向きの" 歴史通りに、本当に伊東が俺達と反目する可能性もあるってことだな・・」
「その可能性も覚悟しておくべきでしょうね」
それから
沖田の低く抑えた声が続いた。
「その場合は、判明した時点で一刻も早く藤堂達を呼び戻してください」
「・・藤堂が万一にでも、伊東につく可能性は無いとは言えねえ」
「無いですよ」
沖田は即答した。
「こちらが余程の事をしない限りはね」
「余程の事、か」
「ですが、まずは冬乃の言う可能性のほうを」
「ああ」
土方は頷いた。
「その歴史は、あくまで誤解が招いた結果だと言うんだな」
深い溜息と引き換えに、土方は再び煙管を口元へ持ってくる。
「俺も、それを信じてえよ」
閉め切った障子が激しい風でガタガタと音を立てた。
「でなけりゃ、・・反目したまま放置するわけにはいかねえからな・・・」
吐き出した煙が彷徨い。
「"仲違い" の後に俺達がどうしたかは・・言わなかったんだよな、はっきりとは」
「ええ」
煙の向こうで、沖田が声音を落としたままに頷いた。
「ですが冬乃がそれを言わなかった事が答えです。それ程の事をしたんでしょう」
粛清――
その二文字が、
土方と沖田の胸内に淀んでいた。
新選組で、意味する粛清は。裏切りを死をもって償わせるという事に、他ならない。
「・・藤堂も含めてだと思うか」
「今言ったように、」
「冬乃が"仲違い" の結末を答えなかった事自体が、答えです」
「俄かには信じられねえ・・俺達が藤堂を・・」
土方の表情が遂に苦痛に歪んだ。
ガタガタと、今もひっきりなしに障子が悲鳴をあげて。
「藤堂までそうなったとすれば」
音の合間に、沖田の苦しげな声音が連なる。
「そのきっかけを作ったのは間違いなく俺達の側でしょう、つまり」
「それが余程の事、ってやつか。・・だとすりゃ、」
「組は何らかの卑劣なやり方で、伊東さんを"粛清" した」
ごう、と、ひときわ激しい風が建物さえも揺らした。
「・・なあ。確かに、歴史は変えられると、あいつは言ったのか」
縋るように。土方の眼は沖田を見据えた。
同じ想いに押されるように、沖田は頷いてみせた。
「ですから今はそれに賭けましょう」
土方の眼の光は、決意に変わり。
「藤堂には」
それでも尚、苦しげにかぶりを振った。
「この事、伝えねえほうがよさそうだな」
「ええ・・」
止むことをしらぬ風が、びゅうびゅうと舞い狂う音を伴い。二人の間の沈黙をまるで嘲笑うかのように続いた。
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