碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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再逢の契り

87.

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 侠客の妻のなりでありながら、反して常のように可愛く動き回っている自覚なき彼女を、
 早く、この腕に捕らえてしまいたいと。沖田のそんな心の内になど当然気づいてもいない冬乃が、
 何を想ったか、珍しく抵抗してきて。
 
 併せて男を誘う恰好でいる事をも分かっていないのか、そのなりとは真反対の行動をそうしていちいち見せてくる、
 
 そんな、あいかわらず今日も沖田を翻弄する事にかけて右に出る者はいない彼女を、
 ひとまず無事に捕まえた沖田が。最早、それだけで、済ませるはずもなく。
 
 
 
 ただでさえあちこち肌を曝していた彼女の、纏う着物は、今や己によって完全に乱され、 
 その着物を恥ずかしそうに力なく手繰り寄せる姿を、暫しの合間の見納めとばかりに沖田は、冬乃の左右に腕をついて見下ろした。
 
 情事の名残り濃く、細切れな吐息の狭間で涙に艶濡れた双瞳が、沖田を見上げる。
 
 「総司…さん…」
 
 それは、幸せそうに。
 
 それでいて、何故かどことなく切なげに、悲しそうに。微笑んできた。
 
 「・・・」
 
 もう幾度となく見た、そんな彼女の表情に。
 沖田はそして内心、小さく溜息をついた。
 
 一体、だから。どこまで冬乃は、沖田の心をこうして掻き乱せば気が済むのかと、
 
 「冬乃・・」
 
 いっそ訊いてやりたいが、訊いたところで、心外そうにその美しい黒曜の瞳を見開くばかりだろう事なら想像がつく。
 沖田は、そうして今日もこの、沖田にとって唯一無二の"魔性" の女を。
 敵わぬ、と。只々、抱き締めた。
 
 
 
 
 冬乃を見下ろす優しい眼が愛しげに、つと、だがどこか苦笑したように細まり、
 次には冬乃はきつく抱き締められた。
 
 (総司・・さん?)
 
 何か今、言おうとしなかったか。
 冬乃は力の入らない両の腕を擡げて沖田の背へと掛けながら、小さく目を瞬かせた。
 
 彼は。時々いまのような表情をして冬乃を抱き締める。
 
 だけど冬乃の一瞬の心の揺れを、まさか捉えられたわけではないはず。
 
 
 最上の幸せを過ごした後には必ず、同時に冬乃を襲う対の哀しみが、
 
 時を経れば経るほど強く存在感を増して、いつかはこの幸せを喪う日が来ることを冬乃に思い知らせる。
 
 胸内を衝く相反したその感情にいつも、一度に揺さぶられて冬乃は、
 それでも今はまだ勝る幸福感にまかせて、微笑んだ。
 
 ありがとう、と。
 今の、まだ在るこの幸せへの感謝と。
 
 (愛してます、総司さん)
 
 その想いをのせては。

 
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