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再逢の契り

82.

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  「おめえさんら!」
 とたん嗤い出したのはスズたちである。
 
 「ちょいと動いたらほどけるなんざ!」
 「帯の結び方も知らへんのか!」
 
 「な、」
 「へ!?」
 「なんやこれ?!」
 男達が顔を見合わせて、いま自分達に起こった出来事を理解できずに目を白黒させ始め。
 
 そんな彼らを見ながら、
 冬乃は、先ほど沖田がまさに瞬きの間に、彼らの帯へ“切れこみ” を入れたのだと。
 気づいて。
 
 
 見えたあの残像は、やはり見まちがえではなかったのだ。
 
 冬乃はずっと沖田の背を見つめていたからこそ、刹那の残像なら掴めたが、
 おそらくスズたちは、あのとき男達が取り出した匕首に目が行っていただろうし、
 男達は勢いよく向かってきた沖田の、頭巾から覗く鋭い双眼に、例によって蛇に睨まれた蛙のごとく視線を捕らわれていたことだろう。
 
 そのうえに瞬きの一瞬をつく最速の抜刀から納刀。
 
 ならば常人の目に認識されなくとも、
 むしろ常人には最早、妖術遣いの類いであって、
 当たりまえの。
 
 
 「みっともねえ恰好直して出直してきな」
 沖田がその“侠客口調” で、からりと笑った。
 
 未だに状況に混乱している男達が、真っ二つになっている帯を拾い上げてますます狐につままれた顔になりながら、
 
 沖田が踵を返して向けた背へ、一寸のちにはっと顔を上げ、
 「ま、待てや!」
 「待ちい!」
 其々焦った声をあげた。
 
 「女は置いてき!」
 「そうや!わしらの縄張りに踏み込んだおめえさんらが運の尽きや!」
 
 「まだ言うんかア!」
 スズが再び匕首を今にも抜かんと構え、
 今のスズの一喝に慌てて男達が、前をはだけたままで匕首を構え直し、
 
 それを見たキンとギンも、傍まで戻ってきた沖田の横で身構えた時。
 
 「此処に俺が踏み込んだ時点で、すでにおまえらの縄張りではない」
 腹の底に響くような沖田の低い声が、
 
 「そして其処からあと一歩でも来れば、次は」
 
 男達へと向けられた。
 
 「帯だけでは、済まさぬ」
 
 今度はそんな“武士口調” を用いた沖田が、同時に、
 それまで彼が消していた気配――そこに居るだけで周囲を圧倒する、剣の達人の纏うそれを、
 
 どころか、闘気―――殺気を。
 
 瞬間に、放ち。
 
 
 
 襲ってきた重圧で呼吸を奪われた冬乃の、凝視した先。
 
 男達がいずれも腰を抜かして、ぺたんとへたり込んだ。
 
 
 「あ・・あ・・・」
 
 そのまま動けなくなったのも当然だった。
 沖田のことだから手加減しただろうとはいえ、彼らは剣豪の放つ本物の殺気を真面にくらったのだ。
 
 冬乃は今一度、憐れみの眼差しで、口をぱくぱくさせている彼らを見渡した。
 
 勿論以前に沖田が烏を追い払う時に放った剣気とは、鋭さも重さも違うもの。

 冬乃が沖田からこの闘気もとい殺気を感じたのは、思えばあの来たばかりの頃に見た沖田と斎藤の試合の時以来ではないか。
 
 沖田たち超一流の剣客ほど、これら殺気の一切を闘いの最中に発することが無いためだ。文字通り、気取らせないという事。
 だからこそ好敵手との試合の時や、今のように、武士同士で剣を交えるのでは無しにただ相手を威圧するという明確な意図があっての時でなければ。拝めない。


 武者震いの感動さえおぼえて、冬乃は戻った息でひとつ大きく深呼吸をした。

 沖田の傍では、スズたちがやはりブルブルと震えている。
 
 直に向けられたわけでもなく、冬乃のように剣の修行を積んできたわけでもないスズたちであっても、今の気の重圧はあまりに異様なものとして感知したらしい。
 
 

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