碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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再逢の契り

80.

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 そして決行の日。冬乃は、打ち震えた。
 
 彼の、あまりの似合いっぷりに。
 
 (目・・目のやり場が)
 
 元々着流しの似合う沖田が、いま冬乃の前、袖口と肩に見事な華吹雪をあしらった粋な着物を着流し、
 しかもいつも以上に着崩して、その褐色の逞しい胸筋を露わに懐手で立っていて。
 
 割れた腹筋を覆うサラシまでしっかりと覘き。腰には刀の一本差し。
 
 着流しに一本差し自体、風呂上りに寛ぐ恰好としてはありえても、これで街中に居れば、一見では隆盛極める公儀方新選組の幹部だとは誰も思うまい。
 その上、目的の侠客の前では外すらしいが、それまでは頭巾を着けて顔を半分以上覆っているのだ。
 
 この迫力で顔まで覆っていては、むしろおもいっきり怪しい人間ではないか。
 そう、もう明らかにお尋ね者の様相な。

 なのにこんな格好も似合っているとは、これ如何に。
 
 そんなわけで沖田の部屋に入るなり真っ赤になっている冬乃に、面白そうに近づいてくる沖田から、
 (・・きゃあぁ)
 冬乃は、もはや後退る。
 
 いや、いったい夫婦になってすらいつまでも彼の“男の色気” に免疫がつかないのはどうなのかと。自分でも思っても、つかないものはつかないのだから仕方ない。
 
 何度だって惚れ直してしまう、その事にならば慣れに慣れきったものの。
 
 (総司さ・・)
 襖まで後退りぴたりと背を合わせたきり硬直する冬乃の、目の前まで来て沖田が、冬乃の着崩しぎみの胸元へ躊躇なく手を挿し入れてきた。

 「冬乃、こういう恰好も可愛い」
 
 頭巾から覗く悪戯な眼が冬乃を見下ろす。
 冬乃の身も心も、奥深く一瞬で焦がしてしまえる、その眼で。

 (あ・・)
 沖田の残る片腕が冬乃の頭上の襖を押さえ。横なら土壁で、そうして完全に逃げ場を絶たれて襖を背に囲われた冬乃が、
 「んん…っ」
 サラシの上から弄られる胸を、まもなく息も絶え絶えに上下させた頃。
 
 「入るぞ」
 背の襖から不意に土方の声が届いた。
 
 「て、おい、なんで開かねえんだよ」
 続いた怒り声に瞠目した冬乃から、沖田が哂いながら身を離した。と同時に、沖田の腕の押さえが無くなったことで冬乃の背後の襖がすらりと解放され。

 「うお!」
 急に開けれたと思ったら目の前に冬乃の頭が現れて驚く土方に、
 冬乃は今度は蒼くなった顔で慌てて向き直る。
 
 「・・・おめえら、また何かしてたな」
 
 あいかわらずの鋭い睥睨を受けて、冬乃はぶんぶん首を振った。
 
 「早いですね。もう鉄さんが来たんですか」
 沖田がそしてあいかわらずの飄々な調子で肩を竦め。
 
 「こいつの挨拶が上達したか心配して早めに来てくれたそうだ」
 土方の問いを完全に無視した沖田へ、それでも土方が忌々しげに返答した。
 
 「ああ、それなら大丈夫ですよ。特訓しましたから」
 
 そうなのだ。あれから毎日、冬乃は滞りなく初対面の挨拶ができるまで、沖田に何度も繰り返し練習させられた。
 
 その過程で沖田の仁義を切る姿も当然、参考に散々見せてもらったわけで。その板についた姿は、思い起すたび冬乃の頬を紅く染める。
 ようするに、
 
 (かっこよすぎて、もう、ずるい)
 
 なんでそんなに休む暇なく何度も惚れ込ませてくるのかと。
 
 「鉄さんの子分たちももう来てる。おら、用意ができてんなら行くぞ」
 土方がどこかげんなりした顔になるなり、踵を返した。
 
 突然ぽっと頬を染めた冬乃の心情になぞ、大体の予想がついただろう土方からすれば、
 見ていられないといったところなのかもしれない。
 
 
 
 
 
 「「「お控えくだせえ!」」」
 
 (わ)
 
 小鉄の子分らしき三人が、冬乃を見るなり一斉に見事な仁義を切ってきた。
 
 そうだった。冬乃と彼ら三人は初見だ。
 
 「御三方こそお控えなすって!」
 冬乃は慌てて、特訓の成果を披露する。
 が続けて、
 「「「いえいえ、姐さんこそお控えくだせえ!」」」
 さらに腰を低くする三人。
 
 「手前ども、端から、キン、ギン、スズ、と申しやすッ」
 
 (き・・金属ファミリー?)
 
 小鉄が連れてきた子分のなかでの代表格らしいスズが、ものすごい勢いで名乗って、冬乃はおもわず目を瞬かせた。

 (あ、と)
 「失礼しました、手前は冬乃です!」
 「「「とんでもねえでございやす、よろしゅうお頼み申します冬乃姐さんッ」」」
 更なる間髪入れぬ三人の挨拶に、
 (こっ)
 「こちらこそ!」
 冬乃は圧されながらも、今一度、腰を下げてみせた。
 
 「お見事でございやした」
 小鉄が、顔を上げた冬乃に、最後に恭しく礼をして。
 
 「姐さんの今の仁義の切り様でしたら、もう大丈夫ですわ」
 
 一連のやりとりを満足気に、いや愉しげに、やはり懐手のままに見ていた沖田を、冬乃はちらりと横に見上げた。
 目を合わせた沖田が頷いて返してくれる。
 
 「沖田はん、本日は、こやつらを宜しゅうお頼み申します」
 「「「よろしゅうお頼み申します、沖田の親分!」」」
 見事に声の揃う三人に、
 「こちらこそ世話になります」
 沖田がにっこりと礼を返す。
 
 すでに山崎ら監察は現地に行っているはずだ。
 
 よってこれより作戦開始である。


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