碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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再逢の契り

77.

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 時々未だ夢にみるほどに。
 あの日の沖田の姿は、冬乃の瞳に焼きついたまま。
 
 
 
 そんな頃、ついに木枯らしが吹くようになった。
 
 冬乃の部屋の周囲でぴよぴよ鳴いていたヒナたちは、すっかり大きくなって。最近は殆ど部屋の近くでは見なくなった。
 もう屯所を徘徊するどのニワトリがあのヒナたちだったのか、大分見分けがつかなくなっている。
 
 それでも、目の前を我が物顔で横断するニワトリたちに出会うたび冬乃は、おもわずじっと見てしまう。
 結果的に沖田に命を救われたのかもしれないヒナたちの、変わらぬ無事を確認しようと。
 
 勝手な願いとわかっていても、
 この先も無事に生き抜いてほしいなどと、
 
 自分がいずれ、その命を糧にしてしまう一人でありながらも。
 
 
 (・・ほんとうに勝手だよね・・)
 
 そのとき冬乃にできることは、
 食事の膳に出された彼らを前に当然、食べないという選択ではなく、
 感謝と、
 せめてひとかけらの肉をも残さないで頂く事でしかないのに。
 
 ニワトリたちにすれば、殺されてしまった後に己の肉が食べられようと食べられまいと、変わらない事だとしても、
 
 そしてそれは頂く側の、贖罪をもこめた気持ちの表れ、一種の自己満足ですらあっても、だ。
 
 
 一方で冬乃は、ぼんやりと不思議に思う。
 なぜ、この世は他が他を食するように創られているのかと。
 
 植物でさえも、また、
 人間たちには知るすべがないだけで、意志も痛みもあるかもしれないなかで。
 
 
 (でも、逃げられない植物にまで・・そんなにまで残酷に創られてはいないよね?いくらなんでも・・)
 
 だけどそれも、冬乃の勝手な願いでしかないのかもしれず。
 
 
 
 冬乃はひとつ小さな嘆息とともに、先程ニワトリたちが向かった先の銀杏を向こうに見上げた。
 
 はらりと一枚、色を枯らした葉が舞い落ちてゆく。
 
 
 
 あたりまえだけども、
 
 (“神様” の心は分からないなぁ・・)
 
 
 冬乃は、そのまま天を仰いだ。
 
 
 
 仏教ならば、植物を“輪廻” のさだめから外して捉えている事を
 冬乃はあの旅行で、沖田の腕のなか紅葉たちを見上げながら聞いた。
 
 彼がいつかに、桜木に生まれ変わる事もまたひとつの“解脱” だと、冗談めかして言っていたわけを冬乃は納得したのだった。
 
 
 (でもなんでだろ・・)
 
 仏教がそうして、植物を苦しみの輪廻に含めなかったのは、
 
 植物を生命として捉えなかったからでは無いだろう。
 
 
 種から成長し、葉を伸ばし、花をつけ、実になる。姿を変えて巡ってゆく植物に、
 或いは小さな輪廻を垣間みたかもしれない人々の、
 
 心の成した願いゆえかも、などと。
 
 (そんなふうに思ってみても・・・いいかな?)
 
 
 植物には。魂が心が、宿ることなき、
 
 一切の感覚も思考も何もない存在であれと。
 
 
 (だって、)
 
 もしもそれらが宿りながら、
 種が辿り着いたその場から一生動けないというのでは。あんまりではないか。
 
 それに体の一部を手折らそうになっても食べられそうになっても、躱して逃げることもできないのだ。もしも痛覚があるのなら尚更だ。  
 
 尤も一方で、
 その事を哀れで残酷だと思うのは、人間の五感と価値観でみるからで、
 
 植物にとってはそれらはなんら不幸せでもなく、そして植物には植物の感覚と思考があって、幸せと不幸せがある。
 のかもしれないが。
 
 
 (・・・・)
 
 結局混乱してきた冬乃は、例によって思考を止めた。
 
 
 
 「冬乃ちゃん」
 
 (あ)
 銀杏の向こうから歩んできた藤堂が、冬乃を見るなり大きく手を振ってくれた。
 
 「何してるの?」
 ぼんやり立ち尽くしていた様子丸出しの冬乃へ、藤堂が足早に近づいてくる。
 
 冬乃は恥ずかしくなって苦笑いした。
 「ちょっとぼうっとしてました」
 素直に白状する。
 
 「もう」
 藤堂がつられるように苦笑した。
 
 「冬乃ちゃんは屯所に侵入した男に一度捕まってるんだから、気を付けててよ?」
 
 (うう)
 ぐうの音も出ない。
 
 片手にならば、一応木刀をさげているけども。
 確かにぼんやりしすぎた。
 
 「どこへ行く途中だったの」
 藤堂のその質問に、冬乃は更に「あ」と声をあげる。
 
 「厨房へ、近藤様のお食事を受け取りに・・」
 
 「ええ?それじゃ近藤さん今頃おなか空かせてるんじゃない」
 
 (ぅうう)
 「ごめんなさ・・ではっ、急ぎます・・!」
 
 冬乃は、微笑って手を振ってくれる藤堂を背に、大急ぎで厨房へと駆けだした。


   
 
 
 
  
 

 
 
 * * * * * * * * * * * *

 
 

【ちょこっとおしらせ(先日のおしらせと同じです。こちらに移動しました)】


かなり以前にですがご連絡させていただいた、エブリスタサイトでのスター御礼特典に関して、追加のご連絡です。
このたび☆90にて、冬乃と沖田さんのスピンオフ的おとな向け小説のミニ連載を開始いたします。
もしエブリスタのスター御礼特典のほうも覘きにいらしてくださっていた稀有な方で、ご興味ございましたら、どうぞ見てやってください^^v
(詳細は、お手数ですがエブリスタ本編小説での、最後のページのご案内をご参照ください)

(エブリスタ本編小説のURLはこちらになります
https://estar.jp/novels/24930622
 またはGoogleで『貴方さえ エブリスタ』と検索いただくと出る様子です



エブリスタのスター御礼特典についての詳細は、
作者ページ近況ボードの『おまけのR18ページに関しまして』をご確認ください~


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