碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

文字の大きさ
上 下
412 / 472
再逢の契り

74.

しおりを挟む

 
 これって新婚旅行状態・・?!
 
 
 冬乃が漸くそう気がついたのは、戻った旅籠で着替えを手に温泉口へ着いた頃のこと。
 
 昨日と違い今日は誰もいない女性用脱衣所で、沖田に付けてもらった櫛をそっと外して胸に抱く。
 
 ついに冬乃は沖田と夫婦になったのだ。
 未だ実感が追いつかないままに、冬乃は蕩けた心でぎゅっと櫛を握り締める。
 
 (付けて入っちゃだめかな・・?)
 
 肌身離さずにいたい。
 未来での結婚指輪のように。
 
 (付けてよう。)
 
 あっさり決めてしまって、冬乃は外したばかりの櫛をまた元通り挿すと、一度裸になった上に羽織った入泉用の浴衣一枚の姿で、脱衣所を出た。
 
 流れてくる湯気の霧の中、石畳を歩む。この露天の温泉は完全に自然のままで、文字通りに湧き出でる温かな泉。
 熱めだが晩秋にはちょうどいい水温で、硫黄の臭いが殆どしないのも特徴的だった。

 そして、男女混浴になっており。広い泉とはいえ、湧き出でている所はこの温泉町で此処だけなので当然といえば当然である。
 昨日も沖田と隣合わせて、というよりほぼ彼に抱きかかえられた姿勢で、二人して茹でダコになるまで浸かっていた。
 
 もちろん他の湯治客のほうが恥ずかしそうに視線を逸らしていたのも、いつもどおりである。
 
 
 (あ・・)
 
 温泉の手前で待ち合わせた場所に、同じく浴衣姿で沖田が立っていて、冬乃はどきどきと胸を高鳴らせて歩み寄った。
 
 あいかわらず冬乃は、何度彼を見てもそのたび惚れ惚れしてしまう心持ちを日々更新し続けている。
 
 今は二人が降りてきた山の向こうへと日が隠れたばかりの時分、
 観光客は恐らくとうに各々の旅籠へ戻っているのだろう、沖田の背後、湯気に包まれた泉に目を凝らして見渡してみても、人の気配は無く。
 
 (ここでもふたりきり・・!?)
 
 嬉しさに冬乃の舞い上がった心拍は、まだとうぶん収まりそうにない。
 
 
 
 
 脱衣所の小屋から向かってくる冬乃を見ながら、沖田はすでに疼き出した情欲に、自身で苦笑せざるをえなかった。
 
 まもなく目の前まで来た冬乃が、温泉をじっと見つめている。

 少し離れた場所に一つだけ置かれる篝火は、広い泉の隅々まで照らす力は無く。
 それでも他に人がいないことは分かったのだろう、大輪の花が咲くように嬉しそうな笑顔になった可愛い新妻を前に。
 沖田が、疼くその情をわざわざ抑える努力など当然、不要で。
 
 昨日は日の落ちる前でなにより女性客も他にいたので、おとなしくしていたが。
 
 「今日は、」
 櫛ごと冬乃の頭をひと撫でし、沖田は冬乃の腰をぐいと引き寄せた。
 
 「湯の中で何かすると思うが」
 いきなり初めから宣言しておく。
 
 冬乃がびっくりした顔で、と思いきや、すぐに、どこか期待済みな表情をくゆらせて沖田を見上げてきた。
 
 何か、が何なのか。きちんと理解できるまでになっているらしい冬乃に、沖田は内心笑ってしまいながら、
 
 「覚悟はいい?」
 
 いつかの台詞で、戯れに聞いてみれば。
 
 恥じらいながらも艶をおびた瞳が、大きく見開き。長い睫毛が、そっと頷くように、伏せられた。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...