碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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再逢の契り

74.

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 これって新婚旅行状態・・?!
 
 
 冬乃が漸くそう気がついたのは、戻った旅籠で着替えを手に温泉口へ着いた頃のこと。
 
 昨日と違い今日は誰もいない女性用脱衣所で、沖田に付けてもらった櫛をそっと外して胸に抱く。
 
 ついに冬乃は沖田と夫婦になったのだ。
 未だ実感が追いつかないままに、冬乃は蕩けた心でぎゅっと櫛を握り締める。
 
 (付けて入っちゃだめかな・・?)
 
 肌身離さずにいたい。
 未来での結婚指輪のように。
 
 (付けてよう。)
 
 あっさり決めてしまって、冬乃は外したばかりの櫛をまた元通り挿すと、一度裸になった上に羽織った入泉用の浴衣一枚の姿で、脱衣所を出た。
 
 流れてくる湯気の霧の中、石畳を歩む。この露天の温泉は完全に自然のままで、文字通りに湧き出でる温かな泉。
 熱めだが晩秋にはちょうどいい水温で、硫黄の臭いが殆どしないのも特徴的だった。

 そして、男女混浴になっており。広い泉とはいえ、湧き出でている所はこの温泉町で此処だけなので当然といえば当然である。
 昨日も沖田と隣合わせて、というよりほぼ彼に抱きかかえられた姿勢で、二人して茹でダコになるまで浸かっていた。
 
 もちろん他の湯治客のほうが恥ずかしそうに視線を逸らしていたのも、いつもどおりである。
 
 
 (あ・・)
 
 温泉の手前で待ち合わせた場所に、同じく浴衣姿で沖田が立っていて、冬乃はどきどきと胸を高鳴らせて歩み寄った。
 
 あいかわらず冬乃は、何度彼を見てもそのたび惚れ惚れしてしまう心持ちを日々更新し続けている。
 
 今は二人が降りてきた山の向こうへと日が隠れたばかりの時分、
 観光客は恐らくとうに各々の旅籠へ戻っているのだろう、沖田の背後、湯気に包まれた泉に目を凝らして見渡してみても、人の気配は無く。
 
 (ここでもふたりきり・・!?)
 
 嬉しさに冬乃の舞い上がった心拍は、まだとうぶん収まりそうにない。
 
 
 
 
 脱衣所の小屋から向かってくる冬乃を見ながら、沖田はすでに疼き出した情欲に、自身で苦笑せざるをえなかった。
 
 まもなく目の前まで来た冬乃が、温泉をじっと見つめている。

 少し離れた場所に一つだけ置かれる篝火は、広い泉の隅々まで照らす力は無く。
 それでも他に人がいないことは分かったのだろう、大輪の花が咲くように嬉しそうな笑顔になった可愛い新妻を前に。
 沖田が、疼くその情をわざわざ抑える努力など当然、不要で。
 
 昨日は日の落ちる前でなにより女性客も他にいたので、おとなしくしていたが。
 
 「今日は、」
 櫛ごと冬乃の頭をひと撫でし、沖田は冬乃の腰をぐいと引き寄せた。
 
 「湯の中で何かすると思うが」
 いきなり初めから宣言しておく。
 
 冬乃がびっくりした顔で、と思いきや、すぐに、どこか期待済みな表情をくゆらせて沖田を見上げてきた。
 
 何か、が何なのか。きちんと理解できるまでになっているらしい冬乃に、沖田は内心笑ってしまいながら、
 
 「覚悟はいい?」
 
 いつかの台詞で、戯れに聞いてみれば。
 
 恥じらいながらも艶をおびた瞳が、大きく見開き。長い睫毛が、そっと頷くように、伏せられた。


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