碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵

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再逢の契り

69.

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 「何故こんな話をしたかというと、」
 
 徳利を持った沖田の手が伸び、冬乃の膳の上の猪口へ向かう。あ、と冬乃は猪口へ手を添えて受け止める。
 
 「昼間冬乃と紅葉を見ながら、生まれた時代の違う冬乃とこうして一緒にいる奇跡に改めて思い廻らせていたら、文机から坊さんの事まで思い出してね」
 
 (一緒にいる奇跡・・)
 
 沖田も同じように思ってくれていることが冬乃にはたまらなく嬉しい。
 冬乃は染めた頬を微笑ませた。
 
 「明日は渓谷のほうへ散策に行こうか。またふたりきりになれそうな場所だしね」
 沖田が悪戯っぽく片目を瞑って言い添える。
 
 「はい」
 冬乃はどぎまぎして頷いた。昼間の紅葉の丘で過ごした、後半のひとときを思い出して。
 いつまでも誰も通らない、そんなふたりじめの空間で、やがて沖田が戯れに冬乃をその腕の中に閉じ込め、悪戯な手を舞わせてきたからで。
 
 沖田がふたりきりになれそうな場所と口にしたからには、またあのひとときが冬乃を待っているに違いない。
 
 再び猪口に酒が注がれる。
 
 冬乃は、何よりこれから待っている本当のふたりきりの夜に、次には気づいて、更にどきどきと早まる鼓動の中そっと猪口を持ち上げた。
 
 
 
 
 
 
 庭園に面した離れの部屋を得たとはいえ、石畳みを十歩も行かない距離にある本館とは、塀などで区切られているわけでもない。
 
 旅先の解放感も伴ってか早くも自制を解き放ってしまった冬乃が、途中から手ぬぐいで猿轡をされるはめになった昨夜を、
 朝に目覚めて途中まで思い出しながらつい叫びそうになったところで、
 
 沖田が起きていたのか起き出したのか、顔を伏せている冬乃の前で大きく動いた。動いたのは今の冬乃の狭い視界では例によって逞しい胸板だけだが。
 
 (し、鎮まって心臓・・!)
 
 冬乃の胸のほうでは例によって鼓動がやかましい。
 
 つと。いつかのように髪を梳かれる感覚を受けた。
 
 (・・あ)
 その手は、そして穏やかに冬乃の後頭部を撫でながら、ひどく優しい手つきで再び髪を攫ってゆく。
 
 さらさらと彼の指の間を零れ落ちるさまを。冬乃はきゅっと目を瞑りながら想像した。
 
 いつまでも顔を上げない冬乃が現在たぬき寝いり中なのを、
 当然気づかれていることも。
 
 
 
 「おはよう、冬乃だぬき」
 
 (や、やっぱり・・!)
 
 「どこまですると目覚めるかな」
 
 いつかに聞いた台詞に、冬乃は観念して身構えた。
 
 また来るであろう、くすぐり攻撃に対し。
 
 
 
 なのに。
 
 
 
 
 「っ…、…ッ」
 
 冬乃のうなじから、常の如くいつのまにか着せられていた寝衣の、奥へとすべりこんだ温かな手は、つうと冬乃の背中をなぞり上げ、
 
 息を呑んだ冬乃の、うなじまで戻ってきてするりと片の肩先から寝衣を落としてしまうと、
 冬乃をうつ伏せにさせ。
 
 露わになった側の首すじから背へと、器用な舌遣いが下りはじめた頃には、冬乃は漏れそうになる声を必死に布団で止めていた。
 
 冬乃の左右に腕を突いて冬乃に覆い被さっているであろう沖田のほうは、勿論まだ着衣のままで、それでもゆったりと着られているのか沖田の動きに合わせてその着物は、冬乃の裸の背を擽るように掠ってゆく、
 
 「…ふ、…ん…っ…」
 その刺激さえ。沖田の舌先の愛撫で敏感になった冬乃の肌には、酷で。
 
 時折、沖田の太い指先が冬乃の下に潜って、胸の頂から喉元まで撫で上がってきては、
 布団に片頬を押しつけ乱れだす息をつむぐ冬乃の、唇をなぞり、歯列を割って、口内へと侵入し冬乃の逃げまどう舌を揶揄い、
 
 ふたたび下ってその濡れた指先で、冬乃の頂を擽る。
 もう、
 「…ぁ…あぁ…」
 しまいに冬乃はそのたびに啼きだして。
 
 「随分と可愛い声で鳴くたぬきだね」
 沖田なら、
 「それとも寝言かな」
 完全に愉しんでいるというに。
 
 冬乃のほうは、昨夜の反省で声を押し殺そうと必死で。
 
 (総司・・さ・・っ)
 「んン…ッ」
 
 こうなったら負けまい。冬乃は懸命な抵抗を開始した。



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