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再逢の契り

65.

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 「口論がある・・?」
 
 「そうみたい。それもなんだか冬乃ちゃんのあの様子だと、相当激しい口論でもありそうなんだよね」
 
 
 藤堂が部屋に訪ねてきて、心配そうに昨夕の冬乃との会話を伝えてきた。
 
 (冬乃の思い悩んでいたのはこれか?)
 
 
 「いつとも言ってなくてさ、近いうちとだけで。あまり詳しいことは知らないと言ってたけど、本当はもっと俺に言えない事があるんじゃないかと思うんだ。沖田だったら聞き出せるかもしれない」
 
 よろしくと言い置いて去ってゆく藤堂を見送り、沖田は溜息をついた。
 
 口の堅さに関してはもはや譲らぬ定評のある冬乃が、いくら沖田相手だからといって明かすかどうか。
 土方に手討ちにしてくれとまで言い切った彼女だ。沖田にその時の事を話した土方の、苦虫を噛み潰したような顔を思い出す。
 
 
 (まあ聞くだけ聞いてみるか)
 
 冬乃が本当に心に決めた時には、こちらが聞かずとも自ら話すだろう。尤も待っているより促したほうが、先日のように話してくれる時期が早まる可能性はある。
 だがそれだって彼女の中で話しても問題が無いと結論付けられた事柄だけだ。
 
 
 沖田は立ち上がり、開け放っている縁側へ向かった。夕暮れ時の空を冬支度の渡り鳥が過ぎ去ってゆく。
 
 冬乃がこうまで口を噤むほどの未来が待っている。土方は覚悟ができたと言っていたが、沖田は沖田でどのような未来へ向かおうと元々の為すべき事に変わりはない。
 だが冬乃が未来を知るがためにその心を痛めている姿をただ見ているしかできない己には、どうしようもない憤りをおぼえる。
 
 
 
 

 
 
 (あ、ヒナ無事だった!)
 
 昨日は昼過ぎに雨がやんでから使用人女部屋の周囲を巡ってみたのだが、ぬかるみにはまっただけでヒナたちを見つけることができなかった冬乃は、夕餉の前と今朝の出勤前と昼間にも探しに巡っていた。が、尚も親鳥共々見つからず。
 
 かなり心配になっていた冬乃だったが、夕刻ふたたび戻ってきた冬乃の瞳に、部屋の前をゆく母ニワトリとその後ろをよちよち歩くヒナたちの一行が映った。
 
 「もう心配したじゃん!どこ行ってたの?」
 
 つい話しかけてしまいながらも冬乃はその場で立ち止まる。近づきすぎて驚かせてはいけない。
 
 「コケー・・」
 なにやら返事でも返してくれたかの母ニワトリの鳴き声と、可愛らしいぴよぴよ声が続いて、冬乃は息をついた。
 よく見ると、一行の更に向こう側に、立派な冠の父ニワトリらしき姿がある。
 
 カアカアと降ってくる烏たちの声に、時々すっとその凛々しい顔を上げていた。烏たちは空を行きかうものの降りてくる様子は無い。
 ほっとしながら冬乃はそろそろと縁側へ昇った。
 
 沖田が半刻したら迎えにくる。
 今夜の夕食は何にしようかと考え始めて、冬乃は早くも浮き立つ心を感じながら支度を開始した。
 
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