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再逢の契り
61.
しおりを挟む「そういえば」と横で冬乃が呟いた。
その声に沖田が冬乃を見下ろすと、
「ヒナを助けてくれてありがとうございました」
冬乃はその可愛い笑顔を擡げて、礼をしてきた。
「それにしてもさっき、ヒナが居るってすぐお分かりになったんですか」
大きくひと扇ぎ、彼女の長い睫毛が瞬く。
「ああ。正確に言えば冬乃の部屋を出た時に」
「え・・」
その時点で分かっていたならどうしてすぐに助けなかったのかと、驚くような探るような眼が追ってきた。
責める眼ではなく。つまり冬乃のほうでも一度は、自然の摂理に任せる選択肢も考慮したのだろう。
沖田はというと、
いつぞやかの子豚の時と同じで、冬乃を放っておけないから動いたまでで。
ヒナ達が人間の介在でいっとき難を逃れたところで、また烏達に狙われない保障は無い。
組がヒナを籠にでも囲って飼うように方針を変更すればいいのだろうが、それだって親鳥共々四六時中とじこめておくわけにもいかない。つまり出入りさせるぶん、人が傍について世話をする事になる。
茂吉達も、手伝いの世話役を当番で割り振られる平隊士達も、ヒナが生まれるたびにそこまで手が回るかどうか。
結局のところ、これまで通りという線に落ち着くことは十中八九、目に見えている。
だから沖田は放置したが、
戻ってきたら未だ烏達が居て、そして、冬乃が木刀を持ち出していた。
先の事はともかくとして、いま目の前の状況に最善だと信じることを選ぶ冬乃の姿勢も、また決して悪いものではないだろう。冬乃がいまヒナを護りたいなら、止めることでもない。とはいっても冬乃に烏と木刀で闘わせるのもどうかなので、沖田は冬乃の代わりに烏を追い払った。
「あ、冬乃ちゃんおはよう!沖田もついでにおはよう!」
井戸場に居た藤堂がぱっと手を振ってくる。ついでには余計だ。
「おはようございます」
冬乃が早速じっと藤堂を見つめている。
やはり何かこの先の藤堂に関して並々ならぬ心配事があるのだろうと、沖田は内心溜息をついた。
その心配事、
冬乃が昨夜明かしたような分隊の件だけならば、彼女が思い詰めたように悩む道理も無い。監察からの情報を聞いている限りは、伊東達が内々に計画する分隊自体は組に反するがゆえではないのだ。だからこそ藤堂も協力しているのだろう。
こちらとしては望ましくはなくともだ。
彼女が回避を望むような事態は、分隊の件とは別にあるに違いなく。もしくはその延長か。そしてそれは、このまま何もしなければ起こるということだ。
だが当の藤堂が気楽な様子でいるということは、藤堂のほうには未だ何らそれと認識が無い事柄なのではないか。分隊の延長だとすれば伊東に関わる何か。その辺りを踏まえて昨夜に土方がうまく聞き出せているかどうか。
(まあ土方さんなら何かしら掴んだだろう)
「沖田、今日って昼番ある?」
藤堂が手ぬぐいで顔の水気を払いつつ見上げてきた。
「いんや」
今日の沖田の当番は夕だけである。
「じゃあさ、朝餉の後ちょっと道場で型みてもらいたいんだけどいい?」
「いいよ」
「・・ねんのため先に言っておくけど、しごかないでね?」
「わざわざ言うってことは、本当はしごいてほしいんだろ。よろこんで」
「勝手な解釈するなー!」
「どえす・・」
冬乃が時々呟くその未来語、なんとなく意味が分かってきたんだが。
「おー皆おはようー」
「あ、おはようございます井上様」
「おはようございます」
「おはよ井上さん!」
井上が手ぬぐいを首にかけたままやってくるのへ、それぞれ挨拶する。
その向こうを旅立ち前の燕が低空飛行で旋回してゆき。これは天気がぐずつきそうだと思いながら沖田は空を見上げた。
********
昨日のおしらせの追記です。
昨日は詳細を割愛しましたが、ねんのため。
エブリスタの付帯特典機能につきましては、
作者ページ内の、近況ボード『おまけのR18ページに関しまして』のなかで、サポーター特典として記載しております箇所をご参照ください^^。
********
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